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Old Joy

物語は鐘の音、鳥、蟻の群れ、瞑想する男、
スムージーを飲む身重の女性、そして一本の電話から始まる。

古くからの友人であろうヒッピー風の男カートともうすぐ父親になるマークの2人が
森の奥にある温泉へ向かうというロードムービー。

ここまでのあらすじだけで興味を持った人はぜひ一度鑑賞して欲しい。
73分なので気軽に観られる。

ここからは適当な感想

カートを迎えにいくカーラジオから流れる政治討論、街の喧騒、そんな現実から離れて、2人は森の温泉で束の間の癒しを求める。
単純に俺も混ざりたい。

道中の車での会話、目的地までの合理性、休暇の楽しみ方、焚き火の前で語る思想、森での散歩、辿り着く無人の露天風呂。

そうした展開の中で、旧友と久々に会った絶妙な距離感や現在までの時間をお互いで埋め合い、それによって生じていく感覚のズレを上手く切り取っている。

人はそれぞれ何を大切にし、何を信じて生きているのか。
形は違えど誰しもが抱えている不安や寂しさ。
カートとマークは何がどう違うのか。

それらを思考せずにはいられなかった。

後半の森は映像からでもマイナスイオンは感じられるし、水や風、鳥の声、草木を踏む音、アンビエントとしても申し分ない。

後半に進むにつれて少しずつ減っていく会話も間違えではない。
すごく分かるし至極真っ当。

お互いの間に出来た空間は離れてしまったのではなく、ただそこに在るモノ自体であり、お互いが受け入れ許し寄り添い合うことしかできないのだろうか。

しずく型の宇宙の様に、涙は永遠と落ち続けるより他ないのだろうか。


終始、会話と表情に強く惹きつけられる映画だった。

もちろん映像もすごくいいし、
BGMに時折かかるYo La Tengoの音楽も抜群に映画の雰囲気を彩っていた。
ラストは不思議な感覚で印象的だ。

初めて観たケリー・ライカート作品だったが
他の作品もぜひ観たい。

観た後はお風呂に浸かりながら手巻きタバコとビールを両手に余韻を味わってみてはどうだろうか。

言葉は素晴らしく、そして大したことはない。
会話はインタープレイ。
言葉そして表情や仕草に表れる想いや意識、知識、経験、思考を混ぜ合うことで生まれるグルーヴを楽しめ。
スウィングしたってシャッフルしたって
シンコペしたってレイドバックしたって
いいんじゃない。

山賽犬

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