トレサンセール22 左前肢近位種子骨所見(G3)についての考察


はじめに

YGG募集馬のトレサンセール22について、カタログ発表時に大きな話題になった。それが、レントゲンの画像およびその評価についての記載。

わざわざマイナスな内容を書いてくれるYGGのその誠実さに多くの方が感動し(もちろん自分も)TLが大盛り上がりになったが、同時に巻き起こったのがその判断方法について。
そもそもいままでレントゲン画像ごと公表してくれるクラブなどなく、自分を含めてこの情報をどのように出資判断に活かしていいかわからないという事態に陥った。
YGGが公表してくれてから、そもそもこういった情報は全クラブ公表するべきでは(金融商品として、欠点を意図的に隠すのはアウトなのでは)とも思うが、ここではいったん置いておく。

我らがYGGが公表してくれたこの情報、利用しない手はないということで以下考察した。

※執筆者オーツは馬の疾患に関して完全に素人であり、記述が間違っている可能性があります。
極力参考文献ベースで考察しますが、解釈が間違っていたり獣医師さんや現場の経験的に間違っていることを書く可能性が高いです。
あくまで個人的な一意見として参考にしていただけますと幸いです。

左内側近位種子骨の評価

実際クラブから出されている評価、画像は公式ホームページを参考にしていただくとして、今回参考にした文面を引用すると

グレード3 : 幅2mm以上の線形陰影を多数有し、骨の輪郭が不規則もしくは骨嚢胞を有する

実際のレントゲン画像を確認したところ、コメントで透亮像および辺縁不正を指摘されていたので、おそらくそういう評価ということなのだろう。
この情報をもとに参考文献を用いて考えていく。

種子骨所見と繋靭帯炎リスクについて

参考文献1 : JRAで公表されている種子骨所見と繋靭帯炎の関連について

トレサンセール22カタログ内で記載のあった「前肢の種子骨所見と繋靭帯炎の発症について相関が認められている」というソースはいくつかあるが、TLでもよく触れられていたのはJRAが出しているこれ。

https://www.jra.go.jp/facilities/farm/training/research/pdf/research_kyusetsu.pdf

TLでよく出てきたグラフの数値(発症率や出走回数等)とも一致しているため間違いない。

この文献から読み取れる中でまず大事なのは、前肢種子骨所見G3の競走馬が9頭(10肢)しかいないこと。G0 72頭(189肢)、G1 177頭(280肢)、G2 52頭(71肢)(n=310頭)
つまり、G3のグラフだけ外れ値的な数値を出している場合は、標本数の少なさに起因している可能性が高い。
また、データでは2歳、3歳時までのみを扱っていることから、4歳以降の発症率は今回論じられていない。

上記を前提に読んでいくと

種子骨グレードの高い肢は有意に繋靭帯炎を発症しやすいことが分かった(P<0.05)

とあることからも統計的に種子骨グレードの高い馬の繋靭帯炎発症率が高いのは間違いない。

が、TLではさらに進んで、「G3の競走馬は10%が繋靭帯炎になる」「G3の競走馬は出走回数や総獲得賞金が高い」という意見も散見された。

これらG3について論じるのは明らかに標本数が足りず、また論文内でも(特に出走回数や総獲得賞金について)有意差がなかった、とされていることからもこの文献を元にして論じるべきではないと考える。

ただ、文献にてG1<G2.G3(P<0.05)とあることからも、G1の繋靭帯炎発症率(4%、11/280)よりは高いことは疑いようがない。

総括としてこの文献から読み取れることは、G2.G3の競走馬の繋靭帯炎発症率は3歳までの時点でG1以下の競走馬よりも高いということ。

ちなみに後述のために、統計的に優位かはわからないがオッズ比を計算しておくと、G2以上vsG1以下でオッズ比3.07である。
要は3倍くらい繋靭帯炎になりやすい(多分統計的に正しくない表現をしている)。

参考文献2 : 海外で発表された論文における種子骨炎と繋靭帯炎の関連について

続いてTLでは流れてこなかったが、海外で発表された論文、種子骨炎(レントゲンにて種子骨に線形欠陥等の所見がある)は繋靭帯炎のリスク因子となるか、について。参考にしたのはガチ獣医師の方が運営されている以下のブログ

また、元論文を日本語訳にした以下の論文である。

https://b-t-c.or.jp/img/pdf/btcn//btcn98/btcn098-03.pdf

論文内では1歳馬のセール前レントゲン画像を用い、1年後までのデータ(つまり2歳時まで)を用いて統計を取っている。

論文で有意差があるとされたmSPS分類では骨透亮像や骨嚢胞について考慮されていないものの、トレサンセールの左前肢球節の種子骨には2本の線状欠陥がある。
(これが異常な形なのか、また2mm以上なのかは、オーツが専門医ではないうえレントゲン画像にスケールもないため評価できません、すみません)

骨透亮像および不整の存在も踏まえ、mSPS分類G3以上として読み進めると、
前肢ではG3以上の競走馬はG2以下の競走馬に比べオッズ比4.99、P=0.0001との結果が出ていた。
要は5倍くらい繋靭帯炎になりやすい(多分統計的に正しくない表現をしている)。

4歳時以降の繋靭帯炎発症率について

さて、ここまでは3歳時まででしか論じられていない。そのため上記を読んで個人的に気になったのは、4歳以降の発症はどうなのかという点。
年齢ごとの発症率について調べていくと、JRAの文章の中で頻繁に「年齢を重ねるにしたがって発症率が増加する」との文章があり、その出典元を探っていくと以下の論文に行き着く。

「Prevalence of superficial digital flexor tendonitis and suspensory desmitis in Japanese Thoroughbred flat racehorses in 1999(Y.Kasashima et al. 2004)」

引用数も233と多く、おそらく間違いない。
ちなみにタイトルを日本語訳すると
「1999年 日本競馬の平地競走馬における浅屈腱炎および繋靭帯炎の有病率(Y.Kayashimaら 2004)」
である。日本競馬の研究を日本人が英語で書くな

読み進めていくと、要は今回知りたいことは以下の表である。

引用 : Prevalence of superficial digital flexor tendonitis and suspensory desmitis in Japanese Thoroughbred flat racehorses in 1999(Y.Kasashima et al. 2004)

日本語で書くと、2歳までの有病率1.72%、3歳3.73%、4歳3.64%、5歳以降8.53%、合計3.61%となっていた。ちなみに牡馬では合計4.24%である。

考察

以上の文献よりオーツの個人的な考察、妄想を書く。
まず、上記の文献から読み取れたこととして、
・トレサンセールの繋靭帯炎発症率は通常の3~5倍
・年齢を重ねるごとに発症率は増加する
・牡馬のほうが有病率が高い

そしてここまで上げられていた具体的な発症率を、ざっくりと上記のオッズ比を掛け合わせると、
生涯でおおよそ13~21%くらいは繋靭帯炎になりそう、という感じ。
ちなみに4歳末まで無事に走りきれたとしたら、5歳以降では25%~43%(牡牝混合)、牡馬ということを考えるともうちょい上、、、ほんまか???

 →(同日18時25分加筆)
英語論文におけるPrevalence(有病率)を途中から発症率と誤訳していました。
正確には
「5歳以降での有病率は25%~43%(牡牝混合)、牡馬ということを考えるともうちょい上」
です。医学的に不適当な表現をしてしまい申し訳ございません。
「直観と反するなあ、ほんまか???」と思ってたらやっぱりほんまじゃなかったです

追加の考察

種子骨所見のグレード分類として骨透亮像、辺縁不整、骨嚢胞があるとG3とのことだが、要は種子骨炎の所見としての線形欠陥のほかに、菲薄化や欠損などの骨変化があるということを示しているのであろう。
骨変化の原因は種子骨炎の炎症の結果かもしれないし、はたまた先天的なものかもしれない。

JRAの文献では種子骨所見と骨折や浅屈腱炎に相関は見られなかったとあるが、G3の競走馬が9頭(10肢)しかなく、データとして不足している。
つまり骨嚢胞等の骨変化に関してはデータ量が少なすぎてそもそも有意差が出るような研究ではなかったと思われる。
それを踏まえ骨変化の視点から考えたい。

一般論として、骨変化(特に骨嚢胞)がある場合骨折率があがるのはよく知られている。これは競走馬としてではなく人間としての話で、発症部位や大きさなどによってそのリスクはまちまちではあるが、
競走馬として骨折リスクの高い種子骨に骨変化があるという点で骨折率は上がるのではないかと思われる。
幸い骨変化はあまり大きくなくそこまで極端なリスク上昇とは思わないが、少なくともいい影響があるとは思えない。
また、骨変化の発症部位が繋靭帯よりもむしろ浅屈筋腱の接触部(腱輪内)に近く、こちらのほうにも悪影響を及ぼすリスクはある。
そう考えると、トレサンセール22のレントゲン画像からは繋靭帯炎のリスク上昇は間違いなくあり、また追加として骨折および浅屈腱損傷のリスク上昇があるかもしれないという考察となる。

末語

じゃあオーツはどうするのか、と聞かれるとこの世代で一番いいと思っているのがこの馬で、おおむね下記のツイートの通り。

様子見が値千金なのは間違いなく、それ以降はもう神頼みで爆走に期待したい。
幸い屈腱炎発症率が一番高いとされているダート単距離とは縁がなさそうだし。

総獲得賞金の期待値は、種子骨所見のないトレサンセール22(架空の存在)に対して50%以上落ちるとは思うが、まあ2億稼げる馬が1億になっても大勝なわけで、そこのギャンブル感は出資してこそだと思っている。
こればっかりは本当に何とも言えない。

ただマジでトレサンセール兄弟の中で最高傑作だと思うんだよなぁ……。
無事に怪我無く進んでくれたら駆け込みで出資します。多分。


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