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世界の終わり

コロナも付き合い方が見えてきて色々と動きやすくなってきたこともあって、
ハマッチャでバンドをやろう!という話が少しずつ進もうとしている。
とはいえ世代もキャリアもジャンルもバラバラなので曲探しも兼ねてSpotifyでJ-Rockのプレイリストを流しながらキッチンに立っていたとき、ふと手が止まった。
流れてきたのはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの
「世界の終わり」
久しぶりに故アベフトシさんの剃刀みたいなギターを聞くとやはり痺れる…と思いながらタバコに火を点けたとき昔のことをふと思い出した。

あの時も僕はタバコを吸いながらイントロを聞いていた。
歌っていたのはチバユウスケさんではなく、女性。
ミッシェルを歌う女性は今のところ、この人しか知らないし上手だったのでよく覚えている。
そういえば僕はお返しにスモーキン・ビリーを歌ったんだったな…
僕がチバユウスケさんと誕生日が同じというどうでもいいことを褒めてくれるような不思議な人だった。
僕はこの人に惚れていた。
ただ女性が既婚者だったので一切、表には出していない。
それもあって名前で呼ぶことはせずに「姉さん」と呼んで親戚のお姉さんのように接していた。

なんでカラオケに行ったんだっけ…と思い出していたら姉さんがエレキギターを始めたいと言い出したので一緒に見に行った帰りに休憩がてら寄ったんだった。

姉さんはSlashとhideに憧れていてレスポールを買うべきか悩んでいた。
というのはレスポールはエレキの中でも重いので取り回しが大変ということもあって男性でも避ける人がいるくらいだしGibsonだと値段もかなり高い。
なのでまずは実際に持ってみるのが手っ取り早いということで楽器屋に付き添うことした。
僕が使っているのはFenderのストラトキャスターと
FERNANDESの廉価グレードのモッキンバードなので音の違いなんかを伝えたり取り回しの違いを道すがら伝えて街を歩いていた。
ショーケースに展示されているような高級品から
(ここはコンパクトカーくらい)
中古品まで幅広く扱っているのでまずは品定めに付き合う。
レスポールはGibson以外からもレスポールタイプとして発売されているので価格はピンキリ。
ショーケースのものを試奏することもできるけど、
とりあえず安価なブランドで鳴らしてもらうことにした(万が一落っことしたら大惨事)
Marshallに繋いでコードやリフを弾いている間、僕はぼんやりと店内を眺めていた。
「布袋さんモデルがあるなぁ…一生弾けないんだよなぁ」と心のなかで嘆いていたら店員さんがささっとやってきて「良かったら弾いてみます?」と。
さすが商売人だ。
が、僕はレフティなので店内にあるギターのほとんどを弾くことができないトホホな話をして少しギタートークを楽しんだ。
「お姉さんなんですか?一緒に選ぶなんてめっちゃ優しいですね」と言われたときになぜか安心している自分がいたことを覚えている。
最終的に姉さんは後日Gibsonのレスポールを買っていた。
チェリーサンバーストだったかな。
現物を見たわけではなくて写真だったからうろ覚えだけど嬉しそうに抱えていたのは覚えている。

僕は楽器屋を訪れた日以降、姉さんとは会っていない。
別に肌を重ねたとかそういう艶っぽいことがあったわけではなく、
単純に僕が15時間労働の日々でそれどころじゃなかったというだけ。
たまにメールが届いても弾きやすいリフやエフェクターのことだけで健全なことこの上なかった。
それも徐々に間隔が開いていくようになり何もなかったかのように途絶えた。
振り返ってみると不健全なくらい健全な関係だったような気がするけど人によっては不倫になるのかもしれない。
身体的な接触が無くても僕の中に好意があったのは事実だから超厳密に言えばそうなのかもしれない。
「どこからが浮気か」というテーマは恋愛の場面でちょくちょく出てくるテーマだけど結局のところ価値観の問題で誰も本音を言っていないだろうから正解は分からない。
考えるだけ野暮。
誰かが幸せになったわけでもなければ不幸になったわけでもない。
そこに焦点を当てれば友だちみたいなものだと思う。
もっと言えば僕の考え過ぎなんだろうな。

あれから長い年月が過ぎて僕は男性も女性も関係なく人として接することができるようになった。
もちろん性別によって会話の内容を選ぶことはあるけれど心が熱くなるような感情は長いこと感じていないから消滅しているかもしれない。
僕自身が結婚したから…というのはあまり関係がなくて、というか人の心は理屈で割り切れるほど単純ではないと思うから僕自身に何かあったんだろうけど自分のことなのによく分からない。
ものすごく失礼なのは分かっているけどタイプの人が長いこと周りにいないだけかもしれない。
言うまでもなくカミさんにべた惚れしているのが1番の理由なんだけども。

それでも時々こうして昔のことを思い出すとしばらく浸ってしまう。
うじうじという感じではなくてポッと心の奥が温かくなるような穏やかさに包まれる。
1つ考えることがあるとすれば姉さんの幸せくらい。
執着も未練もない上に相手の幸せを願っている。
案外、これも1つの愛のなのかもしれない。
綺麗事と思うか世迷い言と思うかは人それぞれで良いけど、誰かを不幸にしていたかもしれない的な説教だけは御免だな。
愛は人を幸せにすると思い込む方が怖いな。

そんなことを考えていたらスープがぐらぐら沸騰していた。
よし、頭を切り替えて美味しいご飯でカミさんの疲れを癒やすとしよう。
ついでにプレイリストをパワーポップに切り替えて気分を上げておこう。

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