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SHISHAMO『明日も』がちょっと特別になった日

SISHAMOの代表曲に『明日も』という曲がある。
これはとある偶然のきっかけからこの曲がある人のイメージソングにしか聴こえなくなってしまった、というお話。

2022年7月18日。
朝早くのバスに乗り込んでスマホを開いた。
その日は地元福岡最大級のフェス『NUMBER SHOT』2日目の開催日で、朝一番の出番のお目当てを見るために家を出たのであった。

強いご贔屓がいなかったので1日目のチケットは買わなかったものの、リョクシャカとかSHISHAMOとかKing Gnuとか見たかったな、行けばよかったかも、などと思いながら、移動時間の暇を潰すべくnoteアプリの検索窓にある人の名前を打ち込んだ。

というのもその人は2日前の7月16日に24歳の誕生日を迎えたばかりで、毎年7月と、そしてその人の命日である2月8日には、Twitterやnoteでその人のファンが発信する情報をチェックするのがなかば習慣のようになっているのである。

目に止まったのは今年1月に投稿された一つの記事。2014年の出会いから日付を丁寧に順に追いながら書かれたエッセイで、彼女の愛すべき人となりがよく伝わってくる素晴らしい文章だった。

後の展開を全て知っているはずなのに、日付が2017年2月8日に迫っていくにつれて胸が詰まるような感覚を覚えながら読み進める。
文中、SHISHAMO『明日も』が効果的に引用されていた。

HMVに着くと、そこにはもうK-POPグループのパネルが飾られていた。そのグループのパネルの写真を撮っている女の子達の前で泣きそうになった。店内にはSHISHAMOの「明日も」が流れていた。

「苦しいけど走った 痛いけど走った 明日が変わるかはわからないけど」

その歌詞を聴いた瞬間に堪えていた涙がこぼれてきて、急いで近くのトイレに駆け込んだ。

感情電車 #8 「見た目は大人、中身は子供」-高専|note

笑顔で会場の外に出ると、「遅いぞ」と冗談交じりで父が言ってきた。
「すぐそこに停めてある」と言う父について行って、車に乗り込むと、ラジオが流れ出した。
SHISHAMOの「明日も」の終盤が流れていた。

「昨日の自分を褒めながら 今日もひたすらに走ればいい 走り方はまた教えてくれる ヒーローに自分重ねて 明日も」

今日という日を走り続けようと心に誓った時、父が車を発進させた。

感情電車 #8 「見た目は大人、中身は子供」-高専|note

そこには、彼女が亡くなって1ヶ月、彼女の面影を探しながら過ごしていたある日、偶然に2度耳にしたこの曲に心を動かされた様子が綴られていた。

SHISHAMO『明日も』は、平日をなんとか生き抜いた社会人が、週末、自分にとっての「ヒーロー」と呼ぶ存在に会いにいき、日々を走り抜くエネルギーをもらう、という歌である。
作曲された経緯によれば、「週末のヒーロー」はサッカーチーム・川崎フロンターレの選手たちをイメージしているそうである。

だけど金曜日が終われば大丈夫
週末は僕のヒーローに会いに行く

『明日も』-SHISHAMO

週末になれば会いに行ける、元気を与えてくれる“推し”。今まで全く意識したことはなかったが、この歌詞、この文脈でそう思って読むとアイドルのことを歌っているようにしか聴こえない。
ましてや「ヒーロー」というワードはその彼女を強く想起させるワードの一つであり、作曲意図とは直接何の関係もないとは分かっていながらも、こんなにも彼女にぴったりの曲があったのか、と発見をした気持ちにさせられた。



直接関係はないけれど、HMVの店頭で、カーラジオで、偶然流れてきたSHISHAMOを聴いてどうにもその人を想起して涙がこぼれてしまった体験。
そういう偶然を拾い上げた文章の上手さにも感心しながら先ほどのnote記事をTwitterにシェアして感想を書き、感傷に浸っているとバスがPayPayドームに着いた。


入場前に場外のセットを撮ったもの

少し早めに着いた場内でスマートフォンに表示したチケットを片手に座席を探して歩いていると――

良いことばかりじゃないからさ
痛くて泣きたい時もある
そんな時にいつも
誰よりも早く立ち上がるヒーローに会いたくて

耳に入ったのはSHISHAMO『明日も』のメロディだった。

こんな偶然があるのか、と思った。
場内BGMとして、前日17日の出演者の楽曲が流れていたのである。
『君と夏フェス』でも、『僕に彼女ができたんだ』でもなく、よりによって、本当に偶然の『明日も』

noteの中にあったどこかの誰かの偶然が、スマホの画面から飛び出して、自分自身の身に起こった偶然に変わった瞬間だった。


気持ちを切り替えて2日目のフェスをしっかり楽しんだ帰り道、降り出した雨を避けながらバスに乗り込み、その日聴いたどのバンドの曲でもなく、『明日も』の再生ボタンを押した。

やっぱり1日目も行けば良かったかな、でもそうしたらこの偶然には出会えていなかったかもしれないな、などと思いながら、『明日も』がちょっとだけ特別な1曲になった、そんな日だった。



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