過去の私、未来の彼女

高校生の頃、何となく友達になれそうだと思っていたのに、結局仲良くなれずに終わってしまった同級生がいた。
彼女は違うクラスだったけど英語の授業の時だけ隣の席になる子で(英語はいつものクラスではなく学力別に分けられたメンバーでの授業だった)、野球部のマネージャーで、学年でも有名な美少女だった。授業中に事務的に交わす会話で何となく気が合うような感覚はあったが、住む世界が違いすぎて、必要以上に踏み込むことはできなかった。
そんなある日の放課後、校内の自動販売機の前で部活中の彼女に偶然会った。お互い英語でいつも一緒だよねという感じになって、少しだけ話をした。野球部は週末に、甲子園に繋がる地区大会の初戦を控えていた。私がもうすぐ試合だよねと言うと、彼女はみんな頑張ってるから良かったら見に来て、と言った。そして笑顔でグラウンドに去っていった。
それからも彼女とは英語の授業で顔を合わせたが、自動販売機の前で話したあの時間以上に仲が深まることはなかった。野球部は負けて、彼女は私と違う大学に進み、今はどうしているかも分からない。

最近、甲子園の中継でテレビ画面にアップで映るどこかの高校の女子マネージャーを見てふと彼女のことを思い出し、気の合う同僚とのランチの時に話してみた。
「それは仲良くなっておくべきだったよ。その子もあなたのこと気に入ってたと思う。そういえば、森田さんが気になるって前に言ってたよね?話しかけてみなよ、仲良くなれると思うけどな。」
森田さんは職場の後輩で、彼女のデスクマットに私の大好きな映画のポストカードが挟まっているのを見て以来、声をかけようか迷っていた。
「そうかなあ、でも森田さん無口そうだし、仕事中も全然話したことないし…」
「上手くいくかは話してみないと分からないでしょ。話さないと仲良くもなれないよ?」
「今日は珍しく押しが強いじゃない。」
すると同僚はしばらく黙った後で、口を開いた。
「本当は秘密なんだけど、私は未来から来たの。昔、あなたと仲良くなりたかったけど自信がなくて声をかけられなくて、ずっと後悔してた。過去に戻れるなら行動を起こして、絶対あなたと友達になるって決めてた。だから、未来のあなたにも後悔してほしくないの。」

同僚の言葉の真偽は分からないが、彼女は長期休暇の後に会社を辞め、私の前から姿を消した。私は今度、森田さんをランチに誘おうと思っている。

#未来のためにできること

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