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観た映画の感想 #78『ナポレオン』

『ナポレオン』を観ました。

監督:リドリー・スコット
脚本:デヴィッド・スカルパ
出演:ホアキン・フェニックス、ヴァネッサ・カービー、タハール・ラヒム、マーク・ボナー、ルパート・エヴェレット、ポール・リス、ベン・マイルズ、リュディヴィーヌ・サニエ、エドゥアール・フィリポナ、ユーセフ・カーコア、マシュー・ニーダム、イアン・マクニース、他

18世紀末、革命の混乱に揺れるフランス。若き軍人ナポレオンは目覚ましい活躍を見せ、軍の総司令官に任命される。ナポレオンは夫を亡くした女性ジョゼフィーヌと恋に落ち結婚するが、ナポレオンの溺愛ぶりとは裏腹に奔放なジョゼフィーヌは他の男とも関係を持ち、いつしか夫婦関係は奇妙にねじ曲がっていく。その一方で英雄としてのナポレオンは快進撃を続け、クーデターを成功させて第一統領に就任、そしてついにフランス帝国の皇帝にまで上り詰める。政治家・軍人のトップに立ったナポレオンと、皇后となり優雅な生活を送るジョゼフィーヌだったが、2人の心は満たされないままだった。やがてナポレオンは戦争にのめり込み、凄惨な侵略と征服を繰り返すようになる。
(映画.comより)

https://eiga.com/movie/99816/

いやー、リドリー・スコットはやっぱり映画が上手いですね。
3時間近くあるのに長いとは全く感じなかったし、めちゃくちゃ面白かった。しかも4時間のディレクターズカット版もあるらしいじゃないですか。絶対そっちのほうが面白い。先にそっち見せてくれてもよかったのに!

”英雄”ナポレオン・ボナパルトをここまで「小さい」人間として徹底的に描いた映画もなかなかないと思う。この映画でのナポレオン、本当に小物なんですよ。
劇中での最初の作戦となってるトゥーロン奪還からして(上官に大見得切った割に)突撃前には緊張してアワアワしてるし、ジョセフィーヌとの再会のきっかけになった彼女の亡夫の軍刀を返還する時も大量に保管されてる遺品の中から適当に選んで渡す。うーん不誠実!

そういう内面的、人間性の小ささもさることながら、物理的にも「小さい」人間であることがこれでもかっていうくらいに強調されるんですよね。ジョセフィーヌと並ぶと彼女のほうが少し背が高く見えるくらいだし、ピラミッドで発掘されたミイラを観察する時も踏み台に乗る。軍服も首がすっぽり隠れててボディライン(特に下半身)がぴったり出るデザインだから役者はジョーカーなのにペンギンみたいな風貌に見えるし、あとはセックスシーンも人間の情事っていうよりはなんか発情した犬みたいで。

そういう感じで、本作では英雄ナポレオンの英雄性を徹底的にひっぺがしていく。その極みがクライマックスのワーテルローの戦いだと思うんですけど、ここでナポレオンは最前線に出ることもなく、負けが濃厚になるとあっさり戦場に背を向けて逃げるんですよね。トゥーロン奪還の時は怯えてはいたけど自分も最前線に出て戦ってたのに。じゃあエルバ島を脱出する時とか、ワーテルローに向かう途中で語ってたフランスの為に云々みたいなのも結局その程度のものだったわけだ、ってなるわけですよ。
そしてエンドロールに入る直前で、彼が指揮した戦争での戦死者が淡々と表示されていく。英雄なんて(ここまでの映画で見せたように)人間性も立派じゃないし、華々しい「功績」の裏ではこんなに一般人殺してるんだしロクなもんじゃないよ、って強烈につきつけてくる。

そういう「小さい」ナポレオンを演じる俳優として、ホアキン・フェニックスは本当にぴったりでした。アメリカ人としてはそこまで高くない身長とかも含めて。
それ以上にジョセフィーヌ役のヴァネッサ・カービーも本当に良かった。離婚を宣言するシーンで、ナポレオンが用意した離婚の理由を読まされながら(何言ってんだこいつ……)みたいな感じで思わずフッて笑っちゃう演技をするんですけど、その後でナポレオンを冷めきった横目で見る表情まで含めてここが個人的には本作のベストアクト。

あと、さすがリドリー・スコットが撮るだけあって合戦のシーンはさすがの迫力。ただ派手なだけじゃなくて、大砲が近くに着弾しただけで、もっと言えば銃弾1発でも当たれば人はあっさり死ぬし、最前線で太鼓叩いてる軍楽隊の人も普通に死ぬし、馬も死ぬ。死の描き方がこれっぽっちもドラマチックじゃなくてドライなのも今回の特徴かもしれない。多分『グラディエーター』とかの頃だったらもうちょっとウェットだった。

なるべく音響の良い映画館で観たほうがいい映画だと思います。
色々言ったけど、なんだかんだ言ってもナポレオンと言ったら砲術だし。

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