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RB26DETTのガチャを手に入れるまでの物語

4月のこと。5月に誕生日がある友に「プレゼント何がいい?」と聞くと、「エンジンのガチャがあるんだよね。欲しいのはそれかな。」と言うので早速調べた。トイズキャビンという会社から出るという。発売は6月だった。元々変なものが大好きで、生きていく上で必要のないものをため込んだりする私はガチャも当然大好きだ。横浜に1000台のガチャがあると聞いて、雨の日に一人で一時間かけて桜木町まで行く位大好きだ。RB26DETTというそのエンジンのガチャを絶対手に入れると決めた。

私は免許が無い。父は自動車教習所勤め、母は後に免許を取ってマイカー通勤。弟も高校卒業すると当たり前に免許取得。家には3台の車があったので、誰かに送り迎えしてもらえた。自分で車を運転するなんてイメージ出来なかった。エンジンを飾るのか……よくわからないけど、喜んで貰えるなら確実に手に入れよう。まずはTwitterだ。トイズキャビンをフォローした。

RB26DETTと毎日検索した。発売日を把握し、これを待ち望んでいる人が多いことを知った。車好きな人のツイートを毎日読んで、『エンジンを飾りたい』という気持ちが少しだけわかってきた頃、手に入れるための戦いが近くなっているのを感じた。私の知っているガチャの沢山ある場所は、横浜ワールドポーターズだけだ。1時間かけてそこまで行くか。もっと近くには無いか?町田のヨドバシにもガチャコーナーがあった気がする。近所のゲームセンターはどうだろう。確認してみるか…。

今現在の情報が瞬時にわかるTwitterというものは、魔法くらい便利だ。トイズキャビンの出荷しました!という言葉通り、入荷しました!という店のツイートが増え、これで自分の戦いの地を決められると確信したが同時に不安も芽生えた。なぜなら入荷してすぐに完売する店舗があったからだ。いやむしろ、三日以上在庫のある店など無かった。これは大変だ…入荷当日に行かなければ。最悪何ヶ所か移動しなければならない。丸一日使える休日を選んで、その日に向けて相変わらずTwitterのチェックを欠かさなかった。次々と、コンプリートしたというツイートが並ぶ。時代によって微妙に部品の違う、四種類のエンジンらしい。こんなもの揃えて並べたいに決まってる。友はそこまで拘っておらず、ひとつでいいと言うが、もう私は集めずにはいられない。本人が要らないというのに、最低十回は回すと決めていた。決戦は木曜日とした。平日の昼間なら何とかなりそうだ。

当日。まずは現場で慌てないように両替をする。とりあえず三千円分。百円玉の詰まった小銭入れをトートバッグに入れて、肩にかけると重い。早く軽くなれと思いつつ町田に向かう。ヨドバシにあれば午前中で方がつく。勇んでエスカレーターを下りると興味のある品物が沢山目に入った。でもエンジンは無かった。薄々わかっていたので勝負はここからだ!と逆にやる気が出る。見知った地、ワールドポーターズに向かうことにして横浜線に乗り込んだ。

数日前、ラゾーナ川崎に入荷したと確認していたが川崎は少し遠いし、既に完売の可能性が高い。ワールドポーターズとラゾーナ川崎は同じ系列のガチャ店だったので、きっとある!いける!と思った。空いている席に座り、それでもまだ新しい情報はないかとTwitterを開いた時、心臓がドキンとなった。港北TOKYU S.C.だと…?1時間前のツイートだった。入荷しました!という文字が私を待っていてくれるように見えた。桜木町より近い…乗り換えはあるけれども。どうする自分。答えはもう出ていた。中山駅で乗り換えだ!ブルーラインという、人生で何度目だろうという地下鉄に乗る。センター南駅はすぐだった。外に出ると雨は上がっていて、上を向いてぐるりと見回すと東急ショッピングセンターはすぐに見つかった。ガラス張りのエレベーターに乗り六階を目指す。

決戦の地に着いた!広いゲームセンターの奥まで筐体が並んでいた。どうしよう…探して迷っている間に誰かに買われてしまうかも知れない…心臓が跳ねる。雨上がり平日の昼間、客などほとんどいないのに。それでも店員のお兄さんに声をかけた。「あの…RB26の…エンジンの…Twitterで見たんですが…。」怪しい。完全に怪しいおばさんに成り果てた。お兄さんは明るく「こちらですね!」と案内してくれた。

少し震えながら百円玉を落として行く。つまみは気持ちよく回ってゴトン!とカプセルが落ちた。私は戦いに勝った!勝ったんだ!怪しいおばさんに見えないように何とか笑いをかみ殺す。最高の気分だったが少々慌てて十個のカプセルをトートバッグに入れた。転売をする人に間違えられたら…という恐怖心があったように思う。最初の四個でコンプリート出来たという人が多かったが、その場で開けて確かめる心の余裕が無かったので、十個あれば一組くらいできるだろうという金に物を言わせる作戦だった。

予定よりだいぶ早く家路についた。家事をひと通りこなして、夜になったら開けよう。無事に手に入ったことに満足して、今日は開けなくてもいいか…とさえ思った。そのくらい心は満ち足りていた。本当に良く頑張ったな自分。ご褒美にデザートのアイスだ。食べたら開けようじゃないか。

まずは蓋を止めてあるシールをまとめて剥がす。一つづつ開けていく。同じエンジンが続き少々心配になるが、おお!違うのが出た!大丈夫!きっと揃う!と自分を励ます。結果が出た。コンプリートは一組だったが、プレゼントには完璧だ。コンプリート以外を組み立ててみることにした。小さな部品を四つほどさすだけの簡単な作りなのに何だか光り輝いている。向きが合っているのか分からないほど無知なのに、感動がほとばしる。完成品がカプセルに収まってしまう小さなエンジンは、確かに生きていた。

もうひとつ作ってみよう。鮮やかな赤のR34とやらを。一台作ったから簡単だ。しかし、なぜか完成しない。さっきは出来たのになぜ?部品は揃っている。隅々まで観察する。ああわかった!本体の一部が逆についている!不良品で泣いたというツイートも見ていたので、こういうことか…と納得した。同時にこれは人の手で作られているのだということをひしひしと感じた。この小さな部品を間違えて逆に接着してしまったのだな。十個もあるからひとつくらいダメでもいいか、という気持ちにはなれず、この部品達をひとつのエンジンにしてやらなくては…と何か使命感のようなもので、トイズキャビンにメールを送った。翌日には丁寧な返信を頂けた。正しい部品を送ってくれるという。手元の部品は送らなくてもいいのか…?写真は送ったけれど私を信じてくれるのか?それだけで嬉しくて涙が滲んだ。更に送料もかかるなんて儲けはあるのだろうか?と心配にもなった。私の元にやって来たたった四百円の商品は、沢山の人の手がかけられている素晴らしく価値のあるものだと知った。新しい部品は驚く程すぐ届いて、R34というひとつのエンジンになった。

二ヶ月に亘った私とひとつのガチャの物語は幕を閉じた。トイズキャビンよ感動をありがとう。宝物を探す冒険の日々よさようなら。友には未だ会えておらず、このお宝を渡せていない。その瞬間は私自身も幸せを味わえるはずだ。喜ぶ顔が早く見たい。







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