無職日記51 訃報

昨日(2018/07/03)、訃報があったため衝動的にnoteを開いたのだが、自分でも驚くほどに動揺したため、一日明けてからこの日記を書いている。

マンガ雑誌が好きだ。

特に好きなのは少年ジャンプと少年チャンピオン。おそらく少年誌で対極にいる二誌だと思う。陽キャと陰キャ、メジャーとマイナー、ぐっさんとぐっさんじゃない方。例えるならそんな感じだろうか。しかしどちらもかつて少年誌で天下を取っている。

特にチャンピオンは尖ったマンガが多くて好きなのだが、読み始めたきっかけは大学の同級生がおおひなたごう先生のファンで、かつ小倉優子のファンだったからだ。その頃のチャンピオンが小倉優子をやたらとグラビアで推しており、表紙が多かったため、彼の家には大量のチャンピオンと小倉優子があった。家に入り浸っているうちに漫画にハマり、僕も定期購読を始め、家には小倉優子の表紙が増えた。

10年単位でチャンピオン購入を続けている中、印象に残っている漫画がある。「いっぽん!」という柔道漫画だ。なぜ印象に残っているかというと、見開きの構図が異常な迫力だったから。普通、柔道の投げ技を見開きで描こうと思ったら、2人の顔が見えるように描く。ところがこの漫画は見開きで跳ね上がる直前の足、アキレス腱のあたりから描く。この構図に度肝を抜かれた。こんな表現があるのだとものすごく感動した。表情だけじゃなくて、全身を使って柔道の迫力をぶつけている。そう感じた。

佐藤タカヒロ先生。

「いっぽん!」の後、相撲漫画「バチバチ」シリーズを描いて「いた」漫画家さんだ。先日、公式から訃報が発表された。ちょどその頃、いつも行く居酒屋にいる時に訃報記事がスマホに表示された。思わず「えっ!?」と大声を上げてしまった。秋田書店から発表が出たらしく、サイトにアクセスするも繋がらず。それならと業界の方にLINEしたら「マジです」と返事がきた。本当にショックだった。

相撲漫画は少年誌では「鬼門」だと思う。どちらかというと年配向けの競技だ。オリジナル技というのも作りづらいし、どうしても絵面的に地味になる。それを少年誌向けにカスタマイズするのは至難の業と言える。これを少年誌で成功させた稀有な例がジャンプの「火ノ丸相撲」とチャンピオンの「バチバチシリーズ」だと思っている。

前者はジャンプ然とした王道展開で、必殺技もあり、横綱候補達を刀剣に例えるなどした工夫がある。もちろん迫力も申し分ないし、高校相撲を題材にした第一部は、まさに友情努力勝利のジャンプの王道を申し分なく進んだ傑作だと思う。

後者はとにかく相撲を通した生き様を伝える圧倒的な熱量。骨から内臓、筋肉の動きを描き、相撲という超短期決戦の迫力を漫画で伝えてくれる。必殺技を叫ぶコトもなければ、チートで勝つコトもない。特訓もない。主人公はただただ愚直に、真っ直ぐに、自分を鍛え続ける。主人公鮫島の、その愚直で真っ直ぐな相撲は、読んでいていつも泣きそうで、たまに本当に泣いていた。

現在のバチバチシリーズ「鮫島、最後の十五日」は、幕内にあがった鮫島のひと場所を描いたものだ。第一話の冒頭、鮫島が倒れ込んでおり、おそらくこの物語の最後のシーンが描かれている。タイトル通り、最後のひと場所を描いているのだろうと容易に想像がつく。

バチバチはシリーズもので、不良だった主人公が角界に入り、幕内に至るまでをシリーズごとに描いている。つまり読者も主人公、鮫島鯉太郎の生き様とその変化を見守り続けてきたのだ。最初はブチカマシしかできない、狂犬のようだった主人公が、兄弟子やライバル達と研鑽し、技術を学び、品格を学び、いち力士として成長していく。このプロセスをずっと見続けてきた人達にとって、その集大成である「鮫島、最後の十五日」は、間違いなく素晴らしい結末を迎えると確信できるものだった。

だからこそ悲しい。

第一話の冒頭に至るプロセスが読めなくなってしまうコトが悲しい。あんなに胸が熱くなる漫画が読めなくなってしまったコトが悲しい。鮫島鯉太郎の物語の結末を見届けるコトができなくて悲しい。何より、そんな素晴らしい作品を描き続けた佐藤タカヒロ先生が亡くなってしまったコトが悲しい。

相撲は少年誌では「鬼門」だと思っている。けれど、そこに果敢に挑み、相撲の熱量を伝えてくれる作家さんは間違いなく本物だ。そんな本物の作家さんの訃報。

心よりお悔やみ申し上げます。

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