Who am I ?
最近、TwitterでこのCMが再度注目されたらしい。
Googleが作った、初音ミク、ひいてはボーカロイドを世に知らしめるコトとなったスタイリッシュなCMだ。電通の人が、いかにこのCMが素晴らしいかをTwitterで解説し、話題になっていた。
僕はこのCMをちゃんと見たコトがない。いや、1度だけあった。
このCMが出た8年前、僕の曲はそこそこハネていた。公式のイベントで使って頂いたり、ゲームに収録されたりもした。そういう驕りがあったのだろう。ある日の飲み会で同席した知人が「CMの撮影が来た」と言っていて驚いた。
え、そんなコトになってんの?知らん知らん。連絡くれよ。僕の曲だってそこそこ有名になったじゃん。イベントで使ってもらったり取材受けたりしたじゃん。
聞くと、その知人もまた別の知人経由で依頼が来たらしい。収録はだいぶ急ピッチだったようで、連絡が来て一週間としないうちに自宅に撮影スタッフが来たそうだ。そういう意味で、横の繋がりですぐに捕まりやすい所に話が流れていった感じだった。
そして流れたCMを見た。様々なクリエイターが大勢、細かく写っている。ざっと見て知った顔が5、6人は居ただろうか。「tell your world」という完璧な曲と共に、CMは駆け抜けるように終わった。
非常にイヤな言い方をすると、前述の通り、飲み会に同席した知人より僕の曲の方が知名度はあった。はずだ。
なんで呼んでくんないの?
僕だって出たかったよ。シーンの一部になれたと思ってたんだよ。カラオケに曲が入って、印税の契約をして、イベントに出て、インタビューされて。それなりの実績があるのに、声がかからなかった。
昔からそうだった。みんなで遊んでいても自分1人だけが気づかれないとか、先生に呼ばれないとか、僕の意思とは無関係に、周りは僕の存在を自然に忘れた。それがとても嫌だったし、自分が世界に存在してはいけないのではないかと、本気で不安になったコトさえある。子供の頃はその思いはなおさら強く、それは今でも心のどこかに暗い影を落としている。
その、心に残った暗い影が、このCMを見て顕在化してしまった。
僕の曲は誰に届いたのか?たくさんの人が聴いてくれたのは数字でわかる。わかるけど、その数字の向こう側に居る人達は本当に僕のコトを知ってくれているのか?僕が自惚れていただけなのか?僕の存在感の薄さが、曲にも反映されてしまっているのか?
CMの最後に流れる。「Everyone,creater」と。
その「everyone」に、本当に僕は居るのか?
要するに自己評価の低さと自分の存在感の希薄さに対する自嘲、それとは真逆の自惚れに対する羞恥と、他の音楽仲間への嫉妬から、僕はCMを1度しか見られなかった。非常に器の小さい話だ。
それから8年が経ち、またTwitterでこのCMが騒がれ、僕が蓋をしていた記憶が一気に開いてしまった。だからCMのツイートをした電通の人はブロックした。思い出したくないし、見たくないから。
どこまでやったら、僕は世間から認めてもらえたと思えるのだろうか。答えはもう出ている。いい曲を作り続けるしかない。矮小な自分だけど、そんな自分すら信じて、曲を作り続けるしかない。素振りを続け、打席に立ち、三振とファール、そしてヒットを繰り返して、いつかホームランを打てるように、続けていくしかない。あの頃の鬱屈とした気持ちを思い出すと共に、初心に戻れたような気もする。
もっとたくさんの人に発見されるまで、僕はまだ何者でもない。
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