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湯殿山麓明るい村

2021年秋、夏は何してたか思い出せない。
あ、オリンピックやってたか。疫病禍が収まるどころかやたらギスギスしてたよね、人々。
で、秋くらいにちょっと波が収まり気味だったんで出掛けたんだ、鶴岡。
鶴岡は私の住んでる江戸川区と姉妹都市で親近感があって心の距離が近い感じだった。
で、山形だから東京から山形新幹線でさーっと行けると思ってたら
山形も広くて鶴岡へは予想してたルートと違って上越新幹線で新潟出て
奥羽本線で行くのが最適解のようだ。
日本海ルート、あまり利用したことなかったからむしろ楽しみだ。

今回の目的は出羽三山の宿坊に泊まること。


宿坊が近年カジュアルに利用されているらしくどうやら一人でも泊まれて
当然精進料理もいただけるということでちょっと違った趣向の旅を楽しめるのでは?と目論んで新幹線に乗った。
さて姉妹都市鶴岡ですがリアル距離はなかなかで4時間くらい。
戦時中江戸川区の人々が疎開先として鶴岡に行ったことからの関係らしいが
当時ここまでくるのは丸1日はかかったであろう。
そして鶴岡の街はきれいだ。
天気も良く10月なのに夏のようなさわやかな青空。
日本海側に対する東京人の勝手に暗いイメージを覆す明るさだ。
かつてこの地は映画「湯殿山麓呪い村」などというおどろおどろしい
タイトルで全国に周知された過去もあり暗いわ怖いわ、ほんといい迷惑だったと思われる。
角川に代わって謝ります。
鶴岡駅から出羽三山へはバスで1時間くらい。時間は充分あるので鶴岡の街を散策。

ところで鶴岡といえば木乃伊(ミイラ)

お前が一番怪奇イメージに乗っかってるではないかと言われそうだが
普通の街の中、即身仏いわゆるミイラが見られる(しかも複数体)
土地なんか他にない。
この辺のお寺は半分家屋みたいな感じで普通の一般家庭の客間みたいな感じのところに即身仏様が鎮座している。
普通のお宅のように呼び鈴を押して待つとご住職の奥様なんでしょうか?
丁寧にその仏様について説明してくれます。
間抜けな私「この方は亡くなられたのは何歳くらいなんですかね?」
なんて聞いてしまいましたが、自ら仏になられた方に「亡くなられた」
はないだろ。
近年まで即身成仏は行われており立ち会った関係者が自殺幇助の罪に
問われたなんて話も聞いた覚えがある。
それこそ過去の疫病禍を終わらせることを望んで入道されたお坊さんもいたでしょう。尊いことです。
説明してくれた奥様から「他も見るの?」と。
ちょっと遠いが他にも2体ほど仏様がいらっしゃるのだがヘタレの私は
このお方だけでお腹一杯。実際時間もなかった。
周辺がごく普通なだけにその中にいる即身仏の存在感は強烈だ。
仏教フィルターなしならちょっとした事件の現場でしょ。
なんせお茶の間に剝き出しのご遺体ですからね。

鶴岡駅から宿坊へはバスで約1時間。
出羽三山の麓に何軒も大小宿坊が並んでいるらしい。
まずは駅から宿坊へ何時のバスに乗って行くか知らせる。
電話先の声がなんか厳つい。
そうか、山伏が働いているんだと勝手に想像。やはり普通の民宿とは違う。観光気分でやって来る浮ついた奴に厳しい扱いが待っているのか?
軽い気持ちで来てしまったことをちょっと後悔。
六時過ぎのバスに乗り出羽三山方面へ。10月にもなるとさすがに北の方は
この時間かなり暗い。バスはどんどん明かりのないほうへ進んでいく。
しかも工事中とかでバスは宿の前の道を迂回するため割と手前で降りなければならないとのこと。
いろいろ不安の中手前と思しき停留所で降りる。周り真っ暗。
とは言え山道とか崖際とかではなく住宅も多いのだが一方で山の麓感も強い。多分このまま工事中になってる道を進めばいいのだが・・・

「ほりさん・・・?」


初めて来た土地で闇の中から自分を呼ぶ声。
待て待て!有り得ん!何この稲川チックな展開。
あ、即身仏の霊がついてきたか?!賑やかしで会いにきた奴に仏罰を与えに来たか?俺も乾燥させられるのか?いろんな考えが巡る中・・・

「ご予約のほりさんですよね?」
山伏、じゃなくて宿の御主人だった。
バスの時間から歩かなきゃならない道を車を出して
迎えに来てくれたのだ。普通のホテル以上のサービス精神。
宿の御主人、山伏のイメージとは程遠いインテリっぽい雰囲気の方だった。

着いた宿坊だが、でかい!
和建築2階建てだがとにかく奥行きが凄い。
いわゆる講という団体さんをメインで迎える宿のようで
当時自粛が緩くなりつつあった時期だったがお客は私を含め4組。
これも疫病禍が成せる技。
2021年秋当時、少しは観光関係も回復ムードとも言われていたが
まだまだだった。
通された部屋は二間ぶち抜きの20畳くらい。
天国だ(ここでこの表現はありか?)
到着が遅かったためすぐに食事(もちろん精進料理)
他の宿泊客も同じ食堂にて頂くようになっている。
神道の宿坊なので魚肉はあり(そうなの?)
あまつさえビールまで!いいのか?
私もいい歳なんで山菜主体の珍しいメニュー(量かなり多し)はほんと丁度よかった。
食堂の客は私以外に2組(翌朝もう一組いることがわかる)
仕事絡みと思われるおじさん二人(でも私より一回りは若そう)、
そしてさらに若そうな男性一人。
おじさん二人の話が丸聞こえなんだが娘が鬼滅にハマってるので付き合いで単行本を読んだら漫画の読み方がもうひとつわからんと。
おいおい、今の40代そんなんか?漫画オワコンの危機。(←お前が言うな)

だが、それ以上のインパクトだったのがもう一人の男性。
所作がきれいというか、
少量の一口、
そしてその一口ごとに箸を置く、
ゆっくり咀嚼。

アカン!ガチだ!ホンモノがおる!
一方の私ときたら頭髪は一見ガチっぽい五厘刈り(嫁に刈られた)
そしてかえってふざけてる感の強い般若心経Tシャツ
(しかもここは神道だ)
そんな奴がビール飲みながら珍しい料理を「え?これ何?何?」と
落ち着きのない箸づかいでちょっとずつパクパク。
なんと軽薄な!

そんな軽輩もガチの修験者も等しく迎えてくれるのが現代の宿坊だ。
翌朝には出かける前に自分の名前の入った御祈祷もしてもらえる(要予約)
朝食もガチの人と同じ食堂。こちらも至らずも一口ずつありがたく
いただいたつもりだが圧倒的速さで食べ終わってしまう。
食堂を出るのがあんなに恥ずかしかったことはない。

とは言え宿坊泊というのはなかなかお勧めの旅行スタイルだとことが
わかった。
2年経った現在は団体客も増えていることだろう。
でも、あのようにゆったりした宿坊の思い出は疫病禍ならではの
ものだったのかもしれない。

ところで宿坊へ電話をかけた時に出た荒々しい声の人物、
あれ何者だったんでしょうね?(急に稲川チックに終わる)

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