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2021年8月12日(木)・塚本監督オンライントークレポート@フォーラムネットワーク

7年目の『野火』。この日は東北のフォーラムシネマネットワークの5劇場をオンラインでつないでの合同アフタートークを実施しました。フォーラム福島の阿部支配人の進行で仙台、山形、盛岡、八戸、福島の5都市のお客様よりメールで届いた質問にリアルタイムで塚本監督が答えました。

2021年8月12日(木) 19:00の回上映後
会場:
フォーラム仙台フォーラム山形フォーラム盛岡フォーラム八戸フォーラム福島
MC:フォーラム福島 阿部支配人

MCのフォーラム福島・阿部支配人のご挨拶よりスタート。メールで続々と集まったご質問・ご感想を編成ご担当の長澤綾さんが打ち込んで下さり、スクリーン上のチャット欄に映し出されていきます。
 
まず阿部支配人より公開当時がちょうど集団的自衛権の行使を容認する方針の安保法案が可決された年であったことを問われ、塚本監督は「戦後70年の年が最初の公開でした。制作時は(政治への)アンチテーゼとしてつくったというよりはあくまでも大岡昇平さんの原作の素晴らしさを今こそ描きたいということと、戦争の方に近づいて行ってるという心配がありました。つくっているときはこのような法案が通るということはまだ知らなかったですが、ちょうど公開の年にいろいろな法案が通っていく時期とあわさって、驚きとまさに発表するタイミングだったなと思いました。きな臭いし危ないとは明らかに感じていたのですが、つくっているときは世の中がまだそういった危機感を感じているようなところまでは行ってないように見受けられました。でも戦後70年の年になったら“ちょっとおかしいぞ”と思われる方がだんだん増えてきて、国会の前で声をあげる人もたくさんいて、ぎりぎりのタイミングで間に合ったと感じました。」と振り返りました。
 
続けて公開当時とアンコール上映を重ねる中でのお客様の反応の違いについて問われると、「この年になると2回、3回と見て下さる方がいらっしゃいます。1回目はただ圧倒されて終わってしまったけれども、2回目は物語を見られるようになった、落ち着いて違う側面も見られるようになった、と『野火』の世界のことを新たに感じてくださる方がいて、非常にありがたいなと思っています。何回も見てくださるのもありがたいですし、はじめて観て下さる方がいるのもまたありがたいです。はじめて観てくださる方がいる限り、毎年上映を続けていけたらなと思っています。」と述べました。
 
それからチャット欄に寄せられたご質問を阿部支配人に読み上げていただき答えていきます。
 
(以下、一部抜粋、改行の編集等をさせていただいています。)
 
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Q:手榴弾で削げた自分の肉をポイっと口に入れる場面がとても印象に残っています。自分もそうするだろうと思ってしまうのです。わかるなあという感じ。あのシーンにはどんな思い、意図があったのでしょうか?
 
塚本監督:あれははっきりと原作に書いてあったんですね。原作のどこをピックアップするかということが映画のつくり手の作業になってくるのですが、僕はあそこが(原作で)非常に印象に残っていて大事なシーンだと思うので、取り上げさせていただきました。まさに書いてある通りなのですが、今まで人の肉を食べるかどうか散々悩んで考えるわけですけど、それが自分の肉だったら自分のだからいいでしょ、ということでぱくっと反射的に口にしてしまう。すごく不思議な感じがしたのでぜひ入れたいと思いました。やっぱり(映画を観た方で)あそこのシーンが印象に残ったという方が多くいらっしゃいました。
 
Q:3年ぶり、2回目の鑑賞です。撮影時に一番苦労したことはなんでしょうか?
 
塚本監督:全編、お金がかなりない中で本来大作である映画をつくらなきゃならなっかたので様々な頓智を考えたんですけれども。最終的にはフィリピンに極小人数で撮影に行きました。スタッフもキャストを兼ねていて痩せ衰えているんですけど、瘦せ細った体で機材を運んで、自分も納得のいく絵が撮れるまで暑い中何度も森の中を走って撮っていく。最初のフィリピンの撮影が一番大変でした。日本での撮影はスタッフが助けてくれたので想像しうる大変さでしたが、最初のフィリピンの撮影はちょっと想像を絶する大変さでした。
 
Q:田村はなぜ、生き残れたと思いますか?田村を演じられた監督を通してのご意見を聴かせていただければと思います。生涯寄り添う作品を知るきっかけを下さってありがとうございます。
 
塚本監督:素晴らしい感想をありがとうございます。つまらない答えになってしまうかもしれないのですが、田村が生き残れたのは偶然的なことでもあって奇跡です。現に大岡昇平さんが生き残って帰って来られたのも本当に偶然で。数々の難しい状況の中をぎりぎり生き残れたからこのことを文章に書けてみなさんに伝えることができたんです。平たく言うと生き残れて帰って来られたからということなんですけど。戦中には才能のある方がいっぱいいたはずで、もし生き残って帰って来られたら絵やら漫画やらさまざまなことで戦争のことを描ける人はいっぱいいたはずなのに帰って来られなかったという。帰って来られたからみなさんに伝えることができた。僕も大岡昇平さんからこのことを伝えられて描くことができた。本当に偶然。(戦争に)行ったらもう死んでしまう確率の方が高いし、とっても恐ろしい場である、それほど嫌な場である、ということは間違いないかなと。お答えになっているかわかりませんが、そんな順序になっちゃうかなと思います。
 
Q:監督ご自身はどれくらいの頻度で観返していらっしゃいますか?
 
塚本監督:実は結構な頻度で観返しています。ついこないだもある劇場で音の確認のために観に入ったらつい全部観てしまった、みたいな感じで。自分自身も体感として『野火』の世界に浸りたいという気持ちがあるものですからわりとときどき見ています。何度も見るようにしています。
 
Q:今回で、6度目の鑑賞となります。人と自然の対比を改めて素晴らしいと思いました。テレビ画面ではなく、映画館でなければとも思いました。これからも上映し続けていただけたら幸甚であります!次回作についてお話しを聞かせていただければ嬉しいです。
 
塚本監督:本当にこれからも何とか上映を続けていけたらと強く思っています。次回作に関しては3年近く考えている大きな企画がコロナの状況で先延ばしになっています。いよいよ動こうと思うと緊急事態になったりで思うようになかなか進んでないんですけど、今やはり戦争がどうしても気がかりなので、その大きな企画は戦争をテーマにした映画です。一方で小さな自主映画の企画も同時に進行しているのですが、それもまだどうなるかわからなくて毎日楽しみつつ悶々と闘っています。
 
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ほかに、音楽について、飛行機の音について、ラストのある場面について、などなどのご質問をいただきました。
また「たいへんな労作と思いますが、特に感じたのは、戦争というものの徒労です。娯楽としての戦争映画ではなく、徒労がこれ以上ないぐらいに表現されていて、感動します。カタルシスを呼び込まない塚本監督の姿勢を信頼します。」「以前見て、戦争の恐ろしさを擬似体験してから、“もう勘弁して下さい”という思いでした。今回また見にきたのは、前回とは違った感想を持つのではないかと思ったからです。2回目の『野火』体験で、戦争について深く考えてみます。」「重いテーマです。直視出来なくて、メガネを外したり、目をつむったりしてみました。日本は、食料は現地調達の無謀な戦争を始め、戦死者より、“餓死、栄養失調等の病い”の方が多かった事!七回目の再上映ありがとうございました。」「『野火』を初めて拝見させていただきました。なんだかひたすら恐ろしくて、私は絶対にこんな体験はごめんだと強く思います。頭を整理して、また見させていただきたいと思います。」
などなどたくさんのご感想をいただきました!
 
最後に塚本監督より「難しい状況の中、こうして集まって『野火』を観てくださいましてありがとうございます。戦後70年、危機感を感じて、その時期につくらなきゃと何とか無理やりつくった映画で、その当時は何とか間に合ったという感じがあったのですが、世の中安心な方向に向かったかというと全く向かってないばかりか、ほぼ修正するのが難しいのではないか、戦争をしないできた75年というのは今後続けていくのは難しいのではないかという事態にもう来ちゃっている、おそらく3年以内になかなか動かしづらい状況がはっきりしてきちゃうという感じがしているのですが、最終的に政治をつかさどる人たちを選ぶのは自分たちの手にゆだねられていますので、アンテナを張って大事に考えていけたらなと思っております。映画自体は政治的なメッセージ云々ではないので、自分の考え方の方に持っていくような映画作りはしないんですけど、おひとりおひとりが『野火』を観て感じていただいたことを念頭に、アンテナを立てて行ってもらえたらなという気持ちはあります。今後とも『野火』をよろしくお願いいたします。東北のみなさま本当に今日はありがとうございました。」とのご挨拶で拍手に見送られ合同オンラインアフタートークは終了しました。
 
仙台、山形、盛岡、八戸、福島のお客様、ありがとうございました!また進行をつとめてくださったフォーラム福島の阿部支配人、たくさんの時間をかけてご準備くださったフォーラムシネマネットワークのスタッフのみなさま、ありがとうございました!
 
フォーラムシネマネットワーク
フォーラムシネマネットワーク (forum-movie.net)

7年目の『野火』上映記録
フォーラム仙台 8/6(金)~8/12(木) ※メイキング併映
フォーラム山形、盛岡、八戸、福島 8/12(木)
8/12(木) 上映後、5サイト合同塚本監督オンライントーク
 

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