見出し画像

俺らの声が聞こえるか?

 さっきからずっと雷の音がしているが、稲光は見えない。ここは一年中こんな天気なのだという。空が晴れたことなど一度もないらしい。
 THE BARANNSUのフロントマンであるフレドリック・カールマンに会える日が来るなんて、思ってもみなかった。しかも場所は地獄だ。これは比喩じゃなくてマジの地獄だ。ここにいるのは、ツノとかシッポとかが生えた奴らが半分、あと半分が骸骨だ。イカれてる。
 しかしこんなアホみたいな状況だというのに頭に浮かんでくるのは、カールマンは自宅の玄関のドアに鍵を6つつけているというさらにアホみたいなゴシップだった。俺は笑った。そうだ、この話もコモダに聞いたんやった。

「さすがに6つは嘘やろ」
  病室で俺がツッコむとコモダは真面目な顔で
「僕は本当だと思ってますよ。すごく繊細な人っぽいじゃないですか」と言った。元々痩せていたのにさらに体つきが細くなっていた。
「少なくともメディアはそういう感じで伝えとるけどな」
「カールマンに会ったら聞いてみてくださいよ」
 痩けた頬でコモダが微笑む。
「は? 会えるわけないやろ」
「バンド続けてたら会えますよ」
「お前なあ」
「続けてくださいよ。バンド」コモダが真っ直ぐに俺を見た。「実際、良いバンドですよ」
「なら戻ってこいや」と俺は言った。煙草が吸いたいと思った。
「ですよね」
「死ぬなや」
「はい」
 コモダは俺らのバンドのマネージャーだった。マネージャーのくせにバンドのメンバー全員の顔面を組み合わせても勝てないイケメンで、腕っ節もメンバーの誰よりも強かった。そして聞いたこともない病気にかかって、死んだ。なんやねんこいつ。お前がいちばんロックやんけ。バンドやれや。
 さて、この物語には死神とか悪魔とかサメなんかがでてくるが、けっきょくはバンドの話だ。あるバンドの再結成、そして解散の物語だ。ビールでも飲みながら聞いてほしい。俺もビールを飲みながら話すから。

【続く】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?