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私には自転車があるから

なんかあんまり良いことが無いので、仕事が終わってから、常々ネットでチェックしていた古着屋さんに行く事にした。バンドTシャツや映画、野球ものなどを主に扱っていて、パンクとかバンドには特段興味は無いが、Tシャツが好きなので、見てみたくなった。関戸橋を渡り、聖蹟桜ヶ丘をこえていく。

橋を渡る時には、ちょうど夕暮れで、それが多摩川に落ちていくところだった。道ゆく人も、前に歩いていたのに、後ろにわざわざ後退しながら歩いてきてその美しさに目を奪われていた。

こんな綺麗な夕陽見たら幸せになった

多摩地区はこれだから好きだなぁ。どんなに嫌なことがあったとしても、景色に癒されることばかりだ。

見慣れない景色をかいくぐって、ようやくお目当ての場所についた。

指にクロムハーツのようなごつい指輪をした店主が訝しむように私を一瞥した。

ラックには所狭しとたくさんのTシャツが並べられている。

「ずっとネットで見ていて、一度来てみたかったんです。あの傘を持った柄、雨のプリントかな?可愛いなと思って」

ああ、あれねという感じで店主がガラスケースの中から出してきたのは、まさに私がネットで見ていたTシャツであった。しかし、ガラスケースから出てくるという事は高額なはずで……

「これは、名古屋の方から問い合わせがあって、着用画像送ったり色々したんですけど、高額って事もあって依頼主さんも悩まれた上で、今回は見送ります、と泣く泣く。」
「そうなんですね、珍しいものなんですか?(なにも知らない私)」
「ニルヴァーナのカートコバーンが着ていたTシャツなんです。彼は他のバンドTを着るのが好きで、これ売れちゃったらもう2度と僕も巡り合うことが出来ないだろうな、という代物です」
こういうエピソードが面白い。値段はやはり手が出ないけれど、試着は出来るとの事だったので、着てみるとサイズや色味、どれをとっても可愛らしい。


空が広い。

試着室から出ると、マイケルジャクソンや、プリンス、パルプフィクションなどの映画のパロディTシャツや、メタリカなどメタルバンドのものなど、私が背が高いので大きめのものを何枚も「これもどうぞ」と、試着を勧めてくれた。野茂英雄Tシャツにも目を奪われてしまい、どうしようか悩む。
「野茂英雄さんは人気ありますよ、ただ流通はしているので、また巡り合うこともありますね」

色々着ているうちによくわからなくなり、最終的にプリンスが良いような気がしてきた。

「プリンス好きなんですね」
「いえ、好きでも嫌いでも無いっていうか、普通っていうか…」
「そうなんですね…」

結局、柄が面白いアニメTシャツとブリトニースピアーズの(懐かしい!)パーカーを購入。先日断捨離をして、古着屋に自分の古着を売りに行き臨時収入があり、気が大きくなってしまった。

自転車で来た事を伝えると、店先まで心配そうに「気をつけて」と見送ってくれた。

帰り道は肌寒く、橋からはネオンが瞬いてまるで先程の多摩川とは違う場所にも見えた。私には自転車があるから、どんな場所にも行ける。だって道は全国どこへでもつながっているから。

夜の多摩川。いのちの源。



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