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三国志13 蜀志劉備伝 #12

孫劉同盟

185年1月

 劉備は孫堅が出兵を巡って大将軍何進と配下の陳珪との上下板挟み状態になっているのを知る。碌に物資も支援せず出兵しろと出鱈目な命令をする何進、物資窮乏を理由に出兵を渋る陳珪に孫堅は頭を痛めていた。劉備はまず孫堅の鬱憤を一騎討ちで発散させ、悩みの根源である物資不足を劉焉軍が補うことで問題が解決できるよう、孫堅軍と劉焉軍の関係構築に奔走していた。

 

 1月9日、黄巾の残党が兗州の陳留を強襲したとの一報が徐州に届いた。こちらが討伐に動く前に黄巾の残党が動くとは、劉備は予定を繰り上げて孫劉同盟の締結を早めることにした。

 「孫劉同盟を結びませんか、我が軍の黄河渡河を南から支援頂けば、孫堅軍への物資供給の道筋がつきまする」

 居並ぶ文武の諸官の前で劉備は孫堅に孫劉の同盟締結の利を説いた。

 「むむむ、官軍の命ずる黄巾討伐よりも、劉焉軍の南進支援を優先することに利が有りや無しや」

 孫堅は揺れ動いていた。大将軍何進の命令を無視して劉焉軍の支援を優先させてよいものか、徐州豪族の理解が得られるのか。

 「孫劉の利害は一致しています、どうか英明なご決断を」

 劉備は孫堅が苦悩する様子を察知して一旦謁見の場を後にした。まずは出兵を渋る徐州豪族の筆頭陳珪を説き伏せてみせる。劉備は陳珪の館の前で主の帰りを待った。

 帰宅した陳珪に孫劉同盟に賛同してもらえるよう劉備は頼み込む。

 「孫劉同盟の根拠、聞かせて貰おうかのぅ」

 陳珪は劉備を論破しようと得意の舌戦を仕掛けてきた。

 陳珪は徐州一の切れ者で名を馳せており、弁舌の達人でもある。劉備は自らの不利を承知で陳珪の舌戦を受けることにした。

 「ここは集中して理を練るか・・・」

 一戦目、陳珪、劉備はお互いに集中し理論を練り上げると才気を高めた。

 (こんなところで負けるわけには、雲長ならば必ず大義をなせと言うだろう)

 関羽との絆を思い出し、劉備の才気は高まった。

 「まず物資が不足していて戦どころではないわ」

 「物資は劉焉軍が供給できまする」

 物資不足で出兵を渋る陳珪の主張に劉備は劉焉軍が物資を供給できると反論し、ニ戦目の陳珪の攻勢を防いだ。劉備の才気がひとつ高まる。

 「幽州と徐州の間には黄巾党が蔓延っている、物資は届く前に賊に奪われるわっ」

 「同盟により劉焉軍の南進を孫堅軍に支援いただければ、孫堅軍に物資供給の道筋ができまする」

 三戦目は陳珪の主張を劉備の大いなる主張が呑み込んだ。劉備の優勢で舌戦が進行する。

 「支援の出兵が物資が足りずできんのじゃ」

 「既に劉焉軍は、孫堅軍が一度出兵できる程度の物資の支援は行っています、出兵を渋る理由はもうありませんぞ」

 またもや劉備の大いなる主張が陳珪の主張を跳ね飛ばす。舌戦は劉備の圧倒的優勢で最終局面に持ち込まれた。

 「失礼とは存ずるが劉焉は信用できぬ」

 「この劉玄徳、徐州の民を救うためならば命を賭して主の劉焉を説き伏せてみせる」

 苦し紛れの陳珪の主張は劉備の反論であっけなく防がれた。最終戦は劉備の圧倒的優勢で幕を閉じた。

 「徐州の民を救うか、劉軍師のその言葉信じよう、この陳漢瑜、孫劉同盟に賛同致しまする」

 奇蹟と言える勝利だった。劉備は知略でも弁舌でも陳珪に大きく劣る。もしや陳珪殿は最初から同盟に賛成で、この劉備を試したのであろうか。
 いや既に陳珪殿は賛同したのだ、終わったことを詮索して何の意味があろう、今は孫劉の同盟が最優先なのだ。

 1月10日、劉備は再度徐州の政庁に赴き、孫堅の説得に取り掛かる。

 「陳漢瑜、孫劉同盟に賛同致しまする」

 同行した陳珪も孫劉同盟に賛同することを文武の諸官の前で表明した。

 「陳大夫が賛同するとは驚きだな・・・」

 いつも出兵に難色を示し、裏で工作をしていると疑っていた陳珪が同盟賛成に回ったことに、孫堅は不思議でならない様子だ。

 劉備は同盟の成否を孫堅の説得で果たそうと舌戦を挑んだ。状況は劉備に不利、孫堅が僅かに知で上回っているのは劉備も悟っている。

 「大将軍何進が出兵せよと言っている、まずは陳留の救援が先じゃ」
 
 「出鱈目な命令ですな、陳留にいくまでに黄巾の城小沛を落とさねばなりますまい、陳留に着く頃には戦は終わっております、いくだけ兵糧の無駄でしょう」

 一戦目は孫堅の主張を劉備が反論で弾き返した。劉備の才気がひとつ高まる。しかし孫堅の優勢に変わりない。

 「理を練るために集中しよう」

 孫堅も劉備もお互いに集中し才気を高めてニ戦目は終わる。孫堅優勢に変化なし。

 「官軍より、劉焉軍を優先する理由がどこにあるかっ」

 「官軍は孫堅軍を見捨てました、劉焉軍は孫堅軍を救いまする」

 三戦目、孫堅は意を決して大きく主張を繰り広げるも、劉備の反論がそれを封じ込める。劉備の才気が満ちて、孫堅は才気を使い果たした。

 「それでは何大将軍から儂が咎められる」
 
 「誰よりもまず、徐州の民の声をお聞き下さい、黄巾賊を討伐して徐州に安寧をもたらして欲しいと願っています、このまま孤立無援では討伐もままなりませんぞ」

 劉備の大いなる主張が孫堅の主張を圧倒する。徐州の民を救う大義のため、大将軍の命令を無視せよという劉備に孫堅の心は大きく揺さぶられた。四戦目は劉備が猛追するも、僅かに孫堅優勢で最終局面に向かう。

 「徐州豪族どもが同盟に反対するぞ」

 「ご懸念にはおよびません、徐州豪族の筆頭陳珪は同盟に賛成しました。孫劉同盟を結び、共に黄巾賊を討ち果たしましょう、南進が成れば我等は必ず徐州の民の救援に駆けつけるでしょう」

 最終戦は孫堅の主張を徐州豪族の陳珪を味方につけた劉備の大いなる主張で覆い尽くして逆転し、劉備の勝利となった。

 「孫劉同盟を結んで頂けますな」

 孫堅は頷いて、劉備の手を取って感謝の意を表す。

 「同盟締結は了承した、劉幽州に宜しくお伝え下され」

 ここに三年の約定で孫劉同盟が結ばれることとなった。

 報告の為に早馬で送った伝令が帰ってくると、劉焉が同盟締結に大変満足したということを劉備に伝えた。

 更に劉焉は同盟締結の功績を評価し、劉備を五品官へ昇格させると伝えてきた。

 五品官の位は一城の主である太守となれる権利を有する。劉備は功績を評価してくれた劉焉に心から感謝した。

登場人物

劉備 ・・・ 主人公。字は玄徳。劉軍師とも呼ばれる。幽洲涿郡涿楼桑村の出身。漢の皇帝の末裔であったが、父が早く亡くなり家は没落、筵を売って生計を立てていた。身の丈七尺五寸(約173センチ)、大きな耳をしている。武器は家宝の双剣『雌雄一対の剣』。現在は劉焉軍の軍師として孫堅軍との協力関係を築こうと奔走している。

孫堅 ・・・ 字は文台。孫徐州とも呼ばれる。揚州呉郡の人。孫子の末裔を自称し、十代での賊討伐を切っ掛けに頭角を表す。若くして出世し、現在は徐州刺史。統率力、武勇に優れ、知勇兼備の英傑である。性格は豪胆。多くの兵士を従える威風を全身から発している。戦においては獅子奮迅の働き振りで自部隊の攻撃や士気を極限まで高め、周囲の部隊に兵撃を与える戦術を使う。武器は名品古錠刀。孫策、孫権の父。

劉焉 ・・・ 字は君郎。劉幽州とも呼ばれる。漢室の末裔で幽州を統べる刺史(行政長官)。文官としての才能には秀でるが軍事には疎い。その為、黄巾の乱鎮圧を前に優秀な武官を必要としていた。性格は冷静沈着だが強欲。子に劉璋がいる。現在は本拠地を冀州の南皮に移し、私財を増やす為部下に南皮での収奪を密命した。黄巾の乱平定後の未来を強欲に画策し始めている。

何進 ・・・ 字は遂高。元は肉屋(屠殺業)だったが、宦官の推挙で妹が後宮に入り霊帝の寵愛を受けると、その威光を背景に出世した。妹が皇后に取り立てられると外戚として朝延の要職につく。黄巾の乱が勃発してからは大将軍に就任、官軍の総大将になった。何れも宦官による朝廷の私物化の副産物であり、何進自身が宦官に裏で操られていることを知らない。無能を絵に描いたような出鱈目な命令を乱発し、漢の内憂となっている。小心で強欲な男。

陳珪 ・・・ 字は漢瑜。陳大夫とも呼ばれる。徐州一番の名士で交渉、弁舌、知略に優れる。徐州出身の豪族で、黄巾討伐を名目に徐州の主となった孫堅には完全には服従していないようだ。裏で出兵を邪魔するような画策をしていると孫堅は疑っている。

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