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愛着は時間ではなく、視点に宿る。

月が綺麗な夜だった。
両手を合わせる。美しいものを見た時は感謝とも言いがたいぽわぽわした感情をその手でむぎゅっとまとめてあげる。
友達の家で大量のホットドッグを食べて、スマブラをして帰った。久しぶりに学生のような過ごし方できゃっきゃした。
時刻は午前1時30分。

2023年になってから少しずつだけれど出来るようになったことが多い。その中でも個人的に一番大きな変化は「寝る前に必ず歯みがき出来るようになったこと」例え、1時半に帰ろうとしっかりと磨くようになった。

は?歯だけに。
極度の面倒くさがりのぼくは歯磨きの1分さえ他のぼーっとすることや寝ることを優先してしないことが多かった。その結果、数年前の歯科検診では虫歯は上下左右にみつかるし、治療費は高いし大変だった。26歳にもなって大変な怠け者。

そんな歯みがきしないマンだった僕が歯磨きをするようになったのは、とある歯磨きの歌に出会ったから。

「しまじろうのわお!(ペトロールズ) 『はの うた』」
雨やアンバーが有名なペトロールズがだした8年くらい前の曲らしい。はじめて聞いた時、サビのメロディと歌詞に度肝を抜かれた。
歌詞だけ聞いたら歯の気持ちを歌っているとは気づくまい。

ねえ ぼくが みにくい
すがたに なったとしても
ねえ きみは ぼくを すきでいてくれる?

しまじろうのわお!(ペトロールズ) 『はの うた』:サビ

ムシバキン せめてくる
ぼくは むりょくだ たたかうことも
にげることも できない

しまじろうのわお!(ペトロールズ) 『はの うた』:Aメロ

そうだよな。歯からしてみたら戦うことも逃げることもできない。でもいつも一番近いところで寄り添っててくれる存在。ある日突然ロンギヌスの槍につかれるような衝撃をうけた。

みにくい姿にしてしまうのは自分が理由なのに、最近では詰め物をしたり、時にはまるごとセラミックにする人がいると聞く。歯からしてみたら「君が選んだことならぼくは受け入れるよ」としかいう他ない。
なんて切ない。
そんな歯たちのわずかばかりの反抗が親知らずなのかも知れないなぁなんて考える。親知らずと虫歯の回数に相関があるかはわからないけど、そんな架空のストーリーを思い浮かべる。

人知れずぼくらは人目線でものごとを捉えている。PC、スマホ、アクセサリー、コーヒー、靴、ベルト、etc…
ものだけで考えても僕らの周りにはいろんな視点が溢れている。昨日捨てた歯ブラシも、歯ブラシからしてみたら「まだ役に立てるよ!」と思ってるのかも知れないな。なんて思った。

ぬいぐるみが可愛そう。おもちゃに優しくする。とか小さい頃は無意識に人以外の視点に立っていた。空から見たときの自分、車や自転車から見た時の自分とか。日本にはかつてより物には魂が宿り、八百万の神様が宿るという話があるけれど、もしかしたら人目線以外が大切にされていたのかもしれない。

ふと愛着という言葉が浮かぶ。
この言葉はその物・人・空間・場所の視点に立った時に初めて生まれる感情な気がした。
自分に寄り添ってくれる、気がつくとそこの場所が包んでくれる、道を外れそうになったら叱ってくれる。
パートナーや赤ちゃんに愛着や愛情が湧くのは、何しゃべっているかわからないからこそ理解しようと彼らの目線になって考えているからなのかも。

愛着は時間ではなく、視点に宿る。
視点が先にあって、結果的に時間が伴っている感覚。

こんな怠惰なぼくに寄り添ってくれる歯の気持ちを想う。
急に愛おしくなる。今年もありがとう。
今日も忘れず、歯を磨く。

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