【違いについて】「ビスケット」と「クッキー」

記憶は遡るためにある。

だが、半世紀以上も前のこととなれば、ほとんどの記憶が気持ちよく消え去っている。

そんな中、消えないでいる記憶もある。

そのうちのひとつだが、小学三年生の春のこと。

クラスのマドンナ的存在だった女の子、M・Kさんから、お誘いを受けたことだ。もちろん、いまでも彼女の名は、フルネームで覚えている。

「ノボチャンも!わたしの誕生日パーティーに来てくれる」

ひそかに憧れていた金持ちの令嬢M・Kさんからの自宅へのお誘いだ。
<やまのぼ>は、もちろん二つ返事で快諾した。

あの日、プレセントとして何を携えて行ったのか、全く忘却の彼方だが、当日御馳走になった<オムライス>の美味かったことや、<クッキー>の洒落た味わいは、半世紀以上の時空を越えても見事に蘇ってくる。

昭和三十年代前半当時も、我が家は御多分にもれず、シッカリとした貧乏だった。

おそらく、まともな<オムライス>や、<クッキー>を食したのは、あのM・Kさん宅にてが、生まれて初めてだったと思う。

ところで、「クッキー」は、アメリカから伝わった焼き菓子。サクッとしたモノすべて、「クッキー」と呼ばれている。一方、「ビスケット」は、イギリスから伝わったお菓子。小麦粉で作られた焼き菓子の総称である。

つまり、本来両者に明確な違いはないのだ。

古希を越えてもなお<やまのぼ>の心の内で燻っている。「クッキー」は高級品で、日頃よく食していた「ビスケット」は、安物だとする偏見。

それは、多分あのときM・K宅で、幼な心に刷り込まれてしまったのだろう。

余談だが、日本の全国ビスケット協会では、1971年以来、手作り風の外観をもち、糖分と脂肪分の合計が40%以上のものを「クッキー」と呼ぶ、自主規約を設けているらしい。

それにつけても、M・Kさんに、もう一度だけでも逢ってみたい!
おそらく、チャーミングな老婦人になっておられることだろう。


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