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魅惑なるカレーの世界

香り高いスパイスと濃厚な味わいで多くの人達を魅了するカレー。
数々のスパイスが奏でるハーモニーは国を問わず、愛されています。
そんな魅惑のカレーの世界へと、ご案内します。

東京・新橋、「カリカル」の印度カレー(写真:筆者)

スパイス魔法の誘惑

何といってもカレーの醍醐味は様々なスパイス。
インドカレーや欧風カレーなど、種類によって使われるスパイスも様々。
たとえば、クミン、ターメリック、コリアンダー、チリペッパーなどを使うインドカレー。ひと口にインドカレーといっても、北インド、南インド、西インドなど地域によって、まったく異なります。
一方、玉ねぎや野菜をバターで炒め、肉と一緒に煮込む欧風カレーは、インドカレーほどスパイスは使いませんが、とろみのある濃厚な味わいは世代を問わず、多くの人々に受け入れられるもので、日本でもっとも一般的なカレーも欧風カレーです。

大阪発祥のスパイスカレー、「コロンビア8」。2022年、東京に初進出。(写真:筆者)


近年は大阪から広まったスパイスカレーや、札幌が発祥のスープカレーなど、どれも個性豊かで、ときには刺激的に、ときには優しくマイルドに包み込むような味わいは、まさに「スパイス魔法の誘惑」そのものです。


個性あふれるカレーたち

ジャンルによって、まったく違う顔をみせるカレーですが、専門店に出掛けると、お店ごとの特色があるので、さらに楽しみの幅が広がります。
ここでは私が食べ歩いたカレー専門店の中から、いくつか、ご紹介しましょう。

神奈川県川崎市幸区、「スパイスカレー6時間」の八丁味噌ラムキーマ(写真:筆者)

神奈川県川崎市、JR川崎駅近くにある「スパイスカレー6時間」。
お店は間借り営業のため、ランチタイムのみの営業です。
写真のカレーは八丁味噌ラムキーマ。その名の通り、カレーに八丁味噌を加えていますが、八丁味噌の味は、ほとんど感じられません。
八丁味噌を加えることでカレー全体にコクが出て、とても濃厚な味わいですが、卵黄と混ぜることで美味しさも倍増!
店主の拘りを感じることができるカレーです。


東京・大森、「昼飯屋」の海苔カレー(写真:筆者)

東京・大森、京急大森町駅前の「昼飯屋」。
写真は海苔カレー。大森は古くから海苔養殖で栄えた街でしたが、昭和38年(1963年)、東京湾の埋め立てに伴い、その長い歴史に幕を閉じました。
以降、海苔養殖から海苔の加工問屋の街へと姿を変え、全国から集まった海苔を加工し、出荷するようになり現在に至ります。
こちらのお店は、そんな地元の海苔屋さんの海苔をふんだんに使ったもので海苔の風味が豊かなカレーと添えられたパリパリの海苔は相性も抜群です!


東京・西荻窪、「フェンネル」のドライカレー(写真:筆者)

東京・西荻窪にある「フェンネル」。
お店のテーマはインドカレーと日本のカレーの融合。
これはインドのホテルのレストランで修業し、帰国後は都内の高級インド料理店や、人気インドカレー店で研鑽を積み重ねて独立したオーナーシェフの拘りです。
豊富なスパイスを使ったインドカレーがベースながらも米は国産米。味付けも日本人に合うようにアレンジしており、インドカレーが苦手な人でも安心して食べることができます。
そして食後は店主拘りの自家製チャイもオススメです!


東京・森下、「月と亀」の、いわしとつみれカレー定食(写真:筆者)

東京・森下にある「月と亀」。
インドカレーには、ワンプレートにカレーの他、いくつもの副菜がついた「ミールス」という定食がありますが、こちらのお店は何と和風にアレンジしたミールスを提供しています。
見た目はインドのミールスながらも、ご飯は十六穀米、カレーもいわし、つみれの2種類。完全に和風ですが、パパド(豆や米粉で作られるインドのおせんべい)が付くあたりに店主の拘りを感じます。


東京・銀座、「ナイルレストラン」のムルギーランチ(写真:筆者)

東京・銀座にある老舗、「ナイルレストラン」。
「ナイルレストラン」は、国内初の本格インド料理店でもあります。
お店のイチオシ、ムルギーランチは提供時、骨付きチキンが、まるごと、お皿にのったまま、運ばれてきます。これをインド人の店員さんが目の前でナイフとフォークで肉をほぐして骨を取り除いてくれるのですが、このパフォーマンスを見ているだけでも、とても楽しく、早くカレーが食べたいとワクワク感も高まります。
カレーの辛さ自体は、一般的な中辛程度ですが、チキンの下に隠れているマッシュポテトを混ぜ合わせることでマイルドな味に変化。
辛さが苦手な方にも美味しく楽しんで頂けます。


新潟県新潟市、万代シティバスセンターのカレー(写真:筆者)

私の故郷でもある新潟ですが、市内中心部にある万代シティバスセンター内の蕎麦屋にあるカレー。「バスセンターのカレー」として親しまれ、新潟県内ではレトルト商品化されるほどの人気ぶりです。
昔ながらの黄色いカレーは、子供の頃に母が作ってくれたような懐かしくも、とても優しい味わいです。


横浜中華街「保昌」の牛バラカレー(写真:筆者)

神奈川県横浜市、「保昌」。
横浜中華街にあるお店で、当然ながら中華料理店です。
200店以上もの中華料理店が連なる中華街の中でも、メニューにカレーがあるお店はほんの僅か。その数少ないお店のひとつが「保昌」です。
大きく柔らかい牛肉がゴロゴロ入った牛バラカレーは絶品!食べた印象としては、カレーながらも基本は中華料理ということ。どちらかといえば中華丼のあんかけがカレー風味になっているような味わいですが、他では見ることのないスタイルは、とても新鮮です。


神奈川県川崎市中原区、「シナモンの木」の濃厚ビーフカレー(写真:筆者)

神奈川県川崎市中原区にある「シナモンの木」。
最後に御紹介するのは、私がもっともリピート率の高いお店です。
オーナーシェフは、横浜ベイシェラトンのブッフェレストランで料理長まで務めたフレンチシェフ。
お店のメニューは写真の濃厚ビーフカレーの他、スパイシーチキンカレー、シーフードグリーンカレー、チキンと彩り野菜のスープカレーの4種類のみながらも、とてもフレンチ色が濃く完成度の高いカレーです。
何よりも、お店を切り盛りするシェフ御夫婦の人柄に惹かれ、カレーを食べるだけでなく、シェフ御夫婦とお話するのも、お店に出掛ける楽しみのひとつでもあります。


【番外編】インドカレーにナンがつくのは日本だけ?

インドカレー店に入ると、カレーと一緒にナンが出されることが多いですが、このナン。日本独自ってご存知でしたか?

もちろん、本場のインドにもナンはあります。
しかし、インドではカレーを食べる時は米、もしくは全粒粉で焼いたパンの「チャパティ」で食べるのが一般的。
理由はナンを焼くためのタンドール壷が、高価であり、本場、インドでもナンは御馳走の位置づけのため、一般家庭では、あまり浸透していないからです。実際、日本に来てはじめてナンを食べたというインド人もいるほど。

では、なぜ日本のインドカレー店ではナンがつくようになったのでしょうか?
時代は大正時代にさかのぼります。当時、東京で石材店を営んでいた高橋重雄という人物。お店はパン臺を製造しており、戦後は学校給食用として石材で作ったパン臺が主力製品でした。
ところが高度成長時代に入ると大手メーカーの電気オーブンが給食用のパン製造の主力となり、石材を使ったパン臺が衰退を辿ることになります。
そこで中華料理店のキッチンで使われる中華用の臺に方向を変えるも、すでに中華用の臺を製造する会社が存在しており、新参者が入る余地はありませんでした。

ある日、都内の老舗和菓子店の、あんこを練る臺の煙突修理に出掛けた高橋重雄氏。その時、雑誌のある記事が目に入ります。それはインドでナンを焼くための臺、タンドール。
「インド料理には臺が必要なのか!日本にはまだ作っているところはない。これはチャンスだ!」と考えた高橋氏は早速、タンドールについての研究を始めます。

そして、作られた30台ほどのタンドールでしたが、タンドール自体がインドでも北インドの一部高級店のみで使われるもの。
インドの一般家庭での主食は米から作るピリヤニや全粒粉で作られる薄く焼いたチャパティであり、それを知らずにタンドールを大量生産した高橋氏の早とちりでした。

当然ながらタンドールはまったく売れないどころか、当時、日本にはインド料理店自体が少ない時代。ただ、ここで諦めない高橋氏は商談に歩き回る中、麹町の老舗インド料理店「アジャンタ」にも何度も顔を出し、持ち前のコミュニケーション能力で石材職人として培った腕力をアピールするため、店員に腕相撲を持ちかけます。

腕相撲を行う中、その人懐っこさからインド料理店のコックと意気投合し、ここで念願だったタンドールが一台、売れました。
するとインド製の臺に比べて寿命が長い石材の臺は、狭いインド料理のコミュニティの中でも、ちょっとした話題に。
インド大使館御用達でもある「アジャンタ」が使うだけでもブランド力があるため、「アジャンタ」から独立してインド料理店をはじめた人達からは「アジャンタで使っているなら間違いない」との評判が広まり、その結果、全国のインド料理店に広がったタンドール。ナンが出されるスタイルも、すっかり定番化して現在に至ります。

嘘のような本当の話ですが、日本のインドカレー店でナンが出されるようになったきっかけは、この高橋重雄氏の早とちりによるものだったのです。

参考:チコちゃんに叱られる


まとめ

カレーは多くの人達の気持ちを穏やかにしてくれる魔法の食べ物。
色んなお店を食べ歩くのも楽しいですが、皆さん、それぞれの作り方で、カレーをもっと素敵な食べ物にして頂けたらと願うばかりです。


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