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【ちょっと昔の世界一周】 #7 《出会いと別れ》

肩を叩かれてハッとした。

目を開けると先輩が立っている。

「一旦休憩だよ」

そう言ってバスを降りて行く。

私も慌てて貴重品入れを持ち後に続く。

バスから降りた人たちの流れにのって歩くと、トイレに着いた。

状況を整理しよう。

いや、整理するまでもない。

どうやら私は熟睡していたらしい。

用を足し外に出ると先輩がバスに座りっぱなしで固まった体を伸ばしていた。

「初めての夜行バスはどう?といってもあんだけしっかりと寝てたから問題なさそうだけど(笑)」

私は少し恥ずかしかったが、大丈夫です!と答えた。

「不用心というよりも肝が据わってる感じだわ〜。俺は初めて夜行乗った時、不安で寝れなかったもん」

先輩がこう続ける。

確かに私も不安はあった。

しかし、先輩・師匠も近くにいるのでそこまでの不安はなく、隣の人はすぐに空気を入れる枕を膨らめ始め、寝る気しかなかったのでこれは私も寝る流れだと思っただけ。

なによりもバスの揺れ具合がちょうどいい。

そんなことを考えながら先輩とバスまで戻る。

「そういえば海外でバスに乗る時のアドバイスがあった。トイレとかで休憩で降りる時に自分のバスの特徴・場所は絶対に確認しといたほうがいいよ。日本と違って、うちらが乗るような値段だと、置いてかれることあるからね」

またしてもサラッとなかなかのことを教えてくれる。

確かに、似たようなバスが並んでいる。

日本では行き先やバス会社の名前を確認すればいいが、目的地の表示が英語ならまだいいがタイ語で書かれているものもある。

荷物のこともそうだが、こういったことも実際に旅をしていかなければ分からないことなのだろう。

やっぱり旅慣れしてる人はすごいな...

そう思いながらバスに乗るとすでに師匠が戻ってきていた。

「いや〜爆睡してたね(笑)」

斜め後ろの席からでも分かったらしい。

「でも度胸あるわ!そういう奴のほうが旅を楽しめるよ!」

2人に言われたが、確かに楽しめるのかもしれない。
用心はするにしても、緊張ばかりでは疲れてしまう。

これが私なりの旅の仕方

席につき2人と話していると、出発時と同じように乗務員が人数を数え始めた。

「しっかりとしてる人はいいけど、パフォーマンスだけで置いてかれたって人と何人もあってるからね」

先輩がボソッと言う。

ひとまず全員いたのであろう。

バスは再び動き始めた。

次は国境で止まる。

初めての陸路での国境越えを期待しつつ、私はもう一度眠りについた。

*****

朝日が昇る頃私たちを乗せたバスはタイとラオスの国境に着いた。

今回は到着前に目が覚め、車窓越しに見える景色を眺めながらの到着だった。

師匠・先輩に続いてバスを降りる。

降りるとすぐに出国手続き。
流れるようにパスポートを渡しスタンプを押してもらい、あっという間にタイ出国終了。

そこでラオス側の出入国カード(イミグレーションカード)を受け取り、必要な部分を書き始める。

私がパスポート番号を確認しながら書いていると、2人とも何も見ずにサラサラと書き進める。

「書くの早いっすね」

そう言うと

「まぁ書き慣れてるからね。番号も覚えちゃってるからパッと言えるしね」

2人とも同じ返答。

さすがである。
私もそうなる時がくるのだろうか...

あっという間に書き終わった2人が待ってくれているので、私も急いで書いていく。

と、ここでペンが止まった...

滞在先を書く欄。

日本からの飛行機で書いた時は宿泊先が決まっていた。

なので問題はなかったが今回は決まっていない。

どうしよう?そう思っていると師匠が気づいてこう言ってくれた。

「滞在先はね適当でいいんだよ。俺はだいたい〝シェラトン〟って書くけどね。おかげでスペル覚えちゃった」

笑いながら教えてくれた。

「俺は〝Travelers In〟かな〜。こんな名前の宿って絶対あるでしょ」

先輩も続く。

これもさすがである。

2人からのアドバイスをもらい無事に書き終わり、入国手続きに向かう。

空港の入国審査といった感じだが、あきらかにボロボロの空間に入っている入国審査員にパスポートと出入国カードを渡す。

2つをしっかりと見比べ確認してからスタンプを押す。

無事にラオスに入国できたようだ。

手続きを終え先に進むと、すでに終わらせた人たちが座っている。

同じバスの人たちがそろうまで待ち時間。

師匠・先輩と共に空いている場所に腰を下ろし、しばらく待つ。

3人ともスムーズに進んだのですぐにバスに乗れるかな。と思ったがなかなか時間がかかる。

「日本のパスポート最強だからね。うちらみたいな旅行者でも手続きも早いけど、他の国の人たちは結構かかるよ」

師匠が教えてくれた。

海外から見て日本は信用されている。
日本人として嬉しくなった。

その後もしばらく話をしながら時間を潰した。

師匠はすでに世界一周の経験者。
それも世界一周航空券ではなく、好きなように回ってきた。

なので経験豊富。

インドで猿◯石のロケに遭遇しスタッフに宿を聞かれたり、南米で首絞め強盗にやられた時の体験談など(面白い?)タメになる話をたくさん聞けた。

そうこうしていると私たちが乗ってきたバスが見えてきた。

どうやら乗員の手続きが終わったようで出発できるらしい。

バスに乗ると恒例の人数チェック。
そして出発。

こうして無事に初めての陸路での国境越えを経験し、2カ国目であるラオスの旅が始まった。

*****

流石にぐっすりと眠れたので今回は景色を眺めながらバスの旅を楽しんだ。

窓から見える景色はなぜか心を落ち着かせてくれる。

地元とも田舎の親戚の家の雰囲気とも違う。
しかし、どこか懐かしさを感じる景色。

旅をする前に聞いたことがあった。

アジアを旅していると、どこか懐かしさを感じる瞬間がやってくる

まさにその感覚。

見渡す限りの草原と空。

なんでこんなに見晴らしがいいんだろう?

よく考えてみると電柱・電線がない。

ということはこのあたりは電気がないのだろう。

もちろん、電気がない暮らしをしたことはない。

それでもそんな風景に懐かしさを感じるのは自分の人生よりもさらに深い部分の記憶なのかもしれない。

流れる景色を見ていると少しずつ建物が見えてきた。

とはいえ昨夜までいたバンコクの街並みとは全く違う。

そろそろ到着予定時間なので、目的地であるラオスの首都【ビエンチャン】に着くころ。

多分ここはビエンチャンの町外れといった所かな?

そんなことを思っているとバスが止まった。

交差点でもなく信号があるわけでもない。

どうしたのだろう?

そうしていると、バスに乗っていた人たちが荷物を持って立ち始めた。

そこへ乗務員の声が響く。

「ビエンチャン、ビエンチャン」

先輩を見るとみんなと同じように荷物をまとめている。

「着いたよ」

先輩がそう言う。

話には聞いていたが、想像以上に何もない。
これがビエンチャンか...

そう思いながら私も荷物をまとめ降りようとすると、師匠が

「俺はもっと北まで行くから、ここでお別れだね。気をつけてね〜」

そういえば、ビエンチャンは帰りに寄るからもっと北まで行くと言っていた。

師匠とはここでお別れか...

たった半日程度、さらに移動・睡眠時間も考えればわずか2、3時間の付き合い。

しかし、これまでの人との関わりと比べものにならないほどの関係性を作ることができた。

先輩とバスを降りる。

預けた荷物を受け取り窓を見上げると師匠が手を振っている。

私たちも手を振り、さらに北へ向けて出発していくバスを見送った。

人との関係の強さは時間の長さではない

師匠との時間はこのことを教えてくれた。

ここからラオス、いや、私の旅が本格的に動いていく。

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