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R.I.P. Ryuichi Sakamoto

坂本 龍一さんが今年3月28日に享年71歳で惜しくも亡くなられて、はや半年。今回は経営のお話ではなく、私の趣味の音楽・読書を通じた坂本氏の足跡と印象を少し振り返ってみたいと思います。

晩年(最近10年間)の活動

2014年に咽頭癌であることを発表されてから、回復と転移、療養を繰り返しながらも、数多くの映画音楽やCDアルバムの発売、東北大震災の復興支援、神宮外苑の樹木保護など様々な活動を続けて来られました。

その活動の中で、どんなことを思い・考えていたのか、前作(2009年)以降から最晩年までの足跡と最期の日々を綴った自伝が6月に発刊されました。
悲しみをこらえつつ読んでいくと、彼の尽きない創作意欲と静かで深い想いがじんわりと伝わってきます。


彼の最晩年の音楽活動、最期の力を振り絞ったピアノソロのスタジオ録音がNHKで放映されましたが、静かに心に染み入る響きは単に物悲しいというよりは清廉で無常に消えてゆく彼の人生、世界観が感じられます。それは色彩豊かで賑やかな音楽ではなく、微妙な空気・水の流れを感じさせる水墨画のようでした。


彼自らの作成した葬儀のためのプレイリストがSpotifyで公開されているのですが、その中にはドビュッシーやラベル、バッハなどクラシックの中でも静かに流れていく音楽が数多くリストアップされています。

2008年から2018年にかけては、彼の監修による「音楽全集」commmons: schola(コモンズ・スコラ)全17巻も発刊されています。

私も数冊買って、持っていますが、前出のバッハ、ドビュッシーだけでなく、ロック、ジャズ、アフリカの伝統音楽なども取り上げられていて、音楽好きの興味をそそるシリーズです。


また、彼が読んできた本の書評とエッセイもこれから発売予定とのことなので、こちらもぜひ読んでみたいと考えています。

「教授」と呼ばれた彼のバックグランドには、こうした西洋音楽や現代音楽、古典や哲学書への深い理解と洞察があったようです。この事実を書籍やプレイリスト等に残した亡くなられたのは、彼が自らの作品・活動とともに、何かを未来へと託そうとした想いの一端が感じられます。

作曲家・ソロ活動

時代を遡って、幼少期から芸大時代、YMOの活動、そして散会後にソロ・作曲家活動が中心になり、戦場のメリークリスマスラストエンペラーなどの映画音楽を手掛けるようになったこと、そして、2001年9月11日の米国同時多発テロ事件の頃までを描いた自伝が「音楽を自由にする」です。

「世界のサカモト」と呼ばれた成功者の自慢話にはならず、淡々とした語り口が非常に印象的でした。
数えきれないほどの作品・名曲を発表されてきたこの時期ですが、私が一番、印象に残っているのは1992年に行われたバルセロナ・オリンピック開会式で披露された壮大な曲「地中海のテーマ(El Mar Mediterrani)」と指揮ぶりです。

ここ10年の静かに流れるピアノ曲とは異なり、色彩感豊かで躍動感あふれるリズム隊を伴ったオーケストレーションが印象的な曲です。
オリンピック参加者だけでなく、TVで観ていた世界の人たちを感動させ、「世界のサカモト」をまさに感じさせた瞬間でもありました。

YMO時代

そして、彼 坂本龍一氏を一躍、世に知らしめたのは何といっても1978年に結成されたYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)でしょう。

ただ、彼らも結成当初は日本では知っているファンも少なく、翌年のワールドツアーで人気に火がついて、逆輸入する形で日本でもアルバムが売れ始めました。そして、満を持すかのように中野サンプラザで日本凱旋公演が開催されました。

実は当時、高校生だった私は幸運にもこのコンサートのチケットが手に入って、実際に聴きに行っています(^^♪

シンセサイザーを中心とした電子楽器がバンドでも、個人にもどんどん取り入れられ始めた時代にも重なっています。私も高校の入学祝いに親にねだったCS-5という入門モデルを買ってもらい、今となっては単調な音しか出せなかったのですが、当時はいろいろな音を作り出しては一人、悦に入っていました。

この頃、録音・再生技術がLPからCDへとデジタル化が加速度的に進んでいました。演奏というアナログ・感性的な世界も電子楽器により、一気にデジタル化が進むのかというのは当時の識者の間でも意見が分かれていたと思います。

そんな中、現代思想界の巨人 吉本隆明氏が坂本龍一氏と対談した書籍が1984年に発刊されています。(YMOが散会した後、戦メリに出演した頃)
いまでは電子楽器・編集機材を駆使した曲作りは当たり前のように行われていますが、40年近く前の話として読むとその先見性には驚かされます。

ちょうど私の大学時代はニューアカデミズムのブームとも重なり、吉本隆明氏はその中でも、多くの若手思想家から再考された知の巨人的存在でした。彼の著作の中では「共同幻想論」が最も有名ですが、始めて名前を聞く方はこちらの解説本を読んでみるのも良いでしょう。


日本が誇る音楽界の巨人が亡くなられたのは本当に寂しいことですね。
心からご冥福をお祈りいたします。




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