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取締役会を初めて設置する前に読むnote

まとめ

 こんにちは。テンキューブ㈱の伊藤です。スタートアップの資金調達周りやPart-time CFOをさせて頂いています。
 今回は、スタートアップがシリーズA調達するとほぼ必須になる取締役会についてです。なんだか面倒くさそう。でも、設置の時期とか人数とか運営方法とか、一回は頭入れておくか、、という経営者の皆様への解説です。もう慣れてる会社様や担当役員の皆様でも、頭の整理のためにチラ見しておいてもいいかもしれません。
※なお、毎度のことですが、個社ごとの個別論点などはカバーしていませんから、「ウチではこうじゃないよ?」はあるかもしれません。顧問弁護士の先生と詰めてくださいね。逆にもっといい案や別解は僕も知りたいのでどんどん教えてください!

1.そもそも取締役会って何だ?


 取締役会は、会社法に定義されている株式会社の業務執行の決定機関で、株主総会で選任された取締役によって構成される会議体です。未上場会社では設置義務があるわけではありませんが、設置された場合は、会社法で定める特定事項については株主総会ではなく取締役会の決定事項とされています(後述します)。取締役会の設置により、一定以上の規模や複雑な事業を行っている会社において、わざわざ株主総会を開催するまでもないように意思決定の機動性や専門性を担保するとともに、執行の監督を委ねることが重視されているためだからです。
※この辺の詳細な定義論・あるべき論については割愛しますが、興味ある方は会社法の専門書などを見てください。

2.置く必要はあるのか、いつ頃から設置する?


 スタートアップでは、会社設立からしばらくは、取締役会を置かないケースがほとんどと思います。その場合は、「取締役の過半数の同意を証する書面」=いわゆる「取締役決定書」があれば、たいていの事案については決定できます(これすら作っていない会社が大半かと思いますが)。起業家1人で運営している会社などでは、創業者=取締役1名=オーナーというケースも多いでしょう。取締役会は最低3名以上ですし、ごく小規模の場合は意思決定の機動性の面から取締役会を置く必要は殆ど無いと思います。
 VCからの調達をした場合でも、シード特化のVCなどの場合は、投資契約もシンプルで、取締役会の設置や社外取締役の派遣を求めないケースも珍しくありません。ガバナンスを効かせるよりも、「まずは事業を伸ばし、1円でも売上を立てること/PMFに到達すること」の方がよほど大事ですし、そもそもガバナンスで揉めるような複雑な事象もあまり起きないからです(この先事業が伸びないというリスクの方が大きいし)。
 一方で、シリーズA規模(1億円~)の資金調達をして、種類株式を発行するような場合には、ほぼ確実に取締役会の設置を求められるはずです。
※さらに進んで、IPO準備を具体化するステージの会社では、取締役会に加えて監査役会(3人)+会計監査人(いわゆる監査法人)の設置が必須です。監査法人との契約は最初は任意監査、直前期の定時総会で法定監査の契約などをすることになります。

3.設置を巡る投資家との交渉

(1)設置の是非についての議論

 さて、VCからシリーズA規模(1億円くらい~)の資金調達をすることになったとしましょう。交渉事として、取締役会を置くか置かないか議論になります。
 会社法上は、取締役会は3名以上でなければなりません。また、取締役会を設置した場合、監査役も1名以上は選任する必要があります(※例外として、会計参与を置く場合は監査役を置かなくてもよいことになっています)。
 すると、起業家=社長=オーナーは代表取締役だとして、残り2名以上にどの人を充てるか、という問題が出てきます。共同創業者で取締役に耐えうるような人がいれば、その共同創業者+VCリード投資家からの社外取締役1名、といったケースが多いと思います。ただ、悩ましいのは、「数合わせ」で取締役にしてみたはいいものの、実際には機能しないことも少なくないということです(経営課題を論じるようなスキルがない/向いていない/論じるほどの経営課題がまだなく、現場の方が大事など)。したがって、人員リソースの問題から、リード投資家からの社外取締役は受け入れるものの、取締役会の設置自体は適切な時期まで留保してもらう、といった解決策もありうると思います(投資家がOKなら)。

(2)設置する場合の構成

 投資家との討議の結果、やはり取締役会を置くことになったとしましょう。その場合、株主間契約などで、「各種類株主を代表して社外取締役を1名ずつ派遣できる」+「オブザーバーを1名派遣できる」といった規定が設けられることが多いかと思います。スタートアップ側としては、通るかどうかは別にして、
「社内取締役で過半数にはしておきたい」
「複数種類の種類株式にわたって同一投資家が大きなシェアを持つ場合には、同一投資家からの取締役は1名に集約すること」
「取締役を派遣できる投資家のシェアは●%以上とすること」

はリクエストする価値はあると思います。ごく少ないシェアなのに役員派遣されても手間ばかり増えるし、どちらにしてもオブザーバーは派遣できるだろうからです。

4.どんな人を取締役にすべきか?


 取締役会の仕事は、筋論から言えば株主から任命されて代表取締役の業務執行を監督することです。しかし大規模な上場企業ならいざ知らず、社員数人~数十人クラスの規模では執行と監督を分けるのはかえってナンセンス、という場合が多いでしょう。人数がごく少数なら、将来、部門のヘッドになりうる力量・実績を出している人をひとまず任命せざるを得ないのが実態ではないでしょうか?
 しかし、ある程度売上が立ち、組織が出来てきてガバナンスの巧拙自体が会社の成長に欠かせないレベルになってきたら、その役職の職責ありきで選びなおす、という英断がどこかで必要になることもあります。その場合、取締役の職責は、
 ①方針(戦略)・リソース(人・モノ・カネ)の配分の決定
 ②投資家(株主)への説明
という2つがメイン
になります。①は、執行との区分は必ずしも明確にはしにくいですが、決定された方針や予算の枠内での運営は代表取締役以下の執行役員陣に委任されており、それより上のレイヤーを取締役会が枠を嵌めて見ている、という構図だと思ってよいです。また、②は、取締役が株主から選任されていることからの当然の帰結ですね。これが執行役員会や経営会議であれば、より幅広く現場寄りの議論や意思決定をすることになります。
 したがって、上記①②の観点で議論についていけない、自分なりに方針や戦略について意見表明できない、説明できない、といった場合は取締役としては厳しいということになるでしょう。ただし、だからといって執行役員や部長・本部長としてダメということでもありません。「役割が違う」ということです。

5.議題・議案は?

 取締役会で決議や報告が必須のものと、任意のものとがあります。なお、ちょっと細かい話ですが、議題とはたとえば「金銭消費貸借契約締結の件」などの案件名を指し、議案とはその具体的中身(相手方、金額、期限、返済方法、利息etc)をいいます。
 ①必須の決議事項
 会社法において、取締役会設置会社であれば取締役会での決議(承認)が必要と定められている事項です。具体的には、以下などをご参照。

 ②必須の報告事項
 3か月に一度以上の業務執行状況の報告や、利益相反取引を承認した場合の、その執行状況の報告などがこれにあたります。
 ③任意の事項
 会社法で必須なわけではないものの、重要な経営課題として、あるいは投資契約で取締役会での承認事項とされた事項などです。たとえば、新事業への進出の是非とか、重要な契約の交渉経過の報告、労務問題といったことがそれに当たるでしょう。この辺の基準は、実務上は、社内で「取締役会規則」・「職務権限規程」などを定めて、取締役会・代表取締役・それより下の階層の執行部門との権限分けを決めて扱うことになるでしょう。投資家との契約で取締役会決議事項とする旨定めた案件も、当然その対象になります。

6.開催頻度は?


最低3か月に1回
 会社法では、代表取締役は、最低3か月に一度は業務の遂行状況を取締役会に報告する義務があります。したがって、3か月一回は必要だということになります。
 もっとも、VCから資金調達をして同時に取締役会を設置したような会社では、ほぼ毎月取締役会を開催して月次予算差異の報告などをしていると思います(投資契約などにも明記されているはずですね)。

7.開催方法は?


バーチャルでもよい
 取締役会は、開催場所を特定したリアル開催でも、オンライン会議ツールなどを利用したバーチャル開催でもOKとされています。ただしバーチャル開催の場合、その出席者の出席方法(電話かオンライン会議ツールかなど)と、バーチャル出席によっても、「双方向かつ同時に円滑な意思疎通が可能である」ことを議長が確認することが必要であり、その旨を議事録にも記載することになります。
 なお、実際には取締役会を開催せず、書面で開催したことにする「みなし決議」も認められていますが、その場合は「全議案につき取締役全員の同意」が必要となります。
※Tipsですが、取締役会には代理出席という制度はありません。本人の経営能力に期待して選任されているからです。リアルでもバーチャルでも、できるだけ本人が出席し、それが叶わなければ欠席となります。

8.事前の根回しは必要?


リード投資家との前ネゴは丁寧に
 取締役会は、会社の実質的な最高意思決定機関ですので、本番でちゃぶ台返し(笑)とかになりなくないものです。そこで、ある程度各役員に事前に根回ししておく、あるいは執行役員だけで構成される「経営会議」とか「執行役員会」「部長会」などで話を固めておく、というケースが多いかと思います。
 しかしポイントは社外役員で、特にリード投資家からの派遣役員には日常的に相談して意見をもらっておきましょう。もちろん、投資契約や株主間契約において、「事前同意事項」や「事前報告事項(通知事項)」と定められているものについては書面やメールで前もって知らせ、協議するのは当然であり義務となります。また、「事前」といっても会議の3分前などにいわれても相手も対応しようがありません。大手VCなどでは社内決裁が必要なケースもあるでしょう。できれば招集通知を出す数日前までには知らせましょう。場合によっては本番の2週間以上前までに原案が必要となる投資家などもいます。スケジュールには十分余裕が必要です。
 なお、ここが難しいところなのですが、投資家派遣役員は、取締役であると同時に株主代表でもあり、常に利益相反のポジションにあることは覚えておきましょう。助言された内容が会社にとってどうか?株主にとってどうか?を常に念頭に置きながら解釈し、時には鵜呑みにせずに対案を出す、という勇気が必要となります。しかし、そうやっていい意味での緊張関係をもっておくことが、長い目でみれば、投資家からみても「経営者として成長してきた」と評価されることに繋がると思います。

9.開催時間は?


 法的な決まりはありません。
 形式的な決議だけなら5-10分で終わるケースや、紛糾したらいつまでも終わらないケースもあるでしょう。しかし一般的には1時間、長くても2時間以内メドには終わらせましょう。会社によっては、延々と「前月の事業の進捗は、、、」とやっている場合もありますが、場がダレるだけで議論がちっとも深まらないケースも多々あります。おおまかな区分としては、
 ①最低限必須の決議事項・報告事項
 ②毎月の予算差異説明と対応策
 ③重要な経営課題の討議

に分別して、なるべく論点を明らかにして、時間どおりに終わらせましょう。持ち越しとなる場合も、「何の情報が不足しているか、何が満たされると意思決定できるのか」を極力合意したうえで継続案件としましょう。

10.準備資料と討議はどの程度とするか?

(1)資料は「意思決定に足る」もの

 取締役会の資料に決まった形式はありません。出席者が意思決定に足るだけの内容が揃っていれば十分としか言いようがありません。
 しかし、当日いきなり膨大な資料を送信してきたり、細かすぎる現場のメトリクスを示されても、ガバナンス面で参加している社外役員などは読み切れませんし意見も言いようがありません。また、業務の執行自体は執行部に委任されているのですから、たかが月1回の取締役会で出された情報で、その場の思い付きの意見を言われても執行側としても振り回されるだけで困る、という現象にもなりかねません。
 したがって、9でも書いた①~③の区分におおむねしたがって、「意思決定に足る」資料を出すことになります。
 ①最低限必須の決議事項・報告事項
  → 予算・人事・購入・借入・増資など、条件が明らかなものはその内容を明示したものや、契約書案
 ②毎月の予算差異説明と対応策
  → 単月および累計の予算・実績差異と、その要因説明・リカバリー策のサマリー ※未達率が大きい場合や業績不振の場合は当然手厚くすべきでしょう。まだ月次予算すら作れていない場合は、実績を並べるだけでもOK
 ③重要な経営課題の討議
  → 事業の多角化・撤退、組織変更、IPO方針など、論点が多岐にわたるもの、整理が必要なものは、毎回の論点・宿題を明示して意見交換する

(2)討議のあり方

 どの会議でもそうですが、ダラダラやってもしかたありません。法定の決議事項や報告事項はもちろんのこと、その他の審議事項・討議事項などでも、
 ・(とりあえず)目指すゴール
 ・意見を求めたい論点

を予め提示し、
 ・結論or宿題(期限と宿題の担当役員)
を明らかにして案件が進むようにします。議長は、ただ単に語りたいだけの人・重箱の隅系の質問魔・資料読んでるだけの人・担当部門の案件以外我関せずの人などから議論を促し、了解を取りながらゴールを目指しましょう。なお、あまりにも非生産的な人や貢献度合いが低い出席者は、どこかで見直す必要があります(これが、取締役としての適性にも関係します)。
※ただし、取締役会の運営はいきなり100点満点を目指す必要はなく、徐々に進化させるで構いません(法的に必要な事項は当然満たすものとして)。会議の高度化よりも重要なのは事業の進捗であり、事業のステージが上がると自然にガバナンスも整えざるをなくなる、という感覚です。それに応じて取締役会も平行して進化していければ問題ないと思っています。

11.決議と賛否

(1)決議の方法

 取締役会で決議事項がある場合、議長は、決議事項ごとでも、一括でも、明確に採決しましょう。ディスカッションして、なんとなく「よろしいですね?」とかで丸めるのは後々揉めるます。
「では、議論がおおむね出尽くしたと思いますが、追加のご意見がなければ決議を採りたいと思います。第●号議案について、賛成の方、挙手をお願いします」
などと発言し、出席取締役に賛否表明を求めます。バーチャル開催などの場合は、法定の参加者はビデオオフなどは好ましくなく、投影にして明確に賛否を表明すべきです。または、オンライン会議ツールで賛否を投票させるのも一法と思います。

(2)消極的でも賛成となる場合

 ここで、積極的に賛成ではない/不満があるが、カドも立てたくないから黙っている(異議を述べない)とどうなるか→議事録において賛成とみなされます。出席していながら、明確に反対の意思表示をしないことは、賛成と推定して扱われますので注意しましょう。

(3)条件付きの決議となる場合

 決議事項について、原案に意見がついたり、原案のミスが発覚した場合。議案を取り下げるのも一法ですが、それでは手間だったり、それほどまでの重要性がない場合は、その場で議案を修正するなり、修正の充足を条件にして決議を採ることもあります。その場合、取締役会で付された条件がその後どうなったかは取締役会で報告しておくべきでしょう。なお、何でも「代表取締役に一任させてください」と強弁する社長がたまにいますが、代表取締役に一任できる程度のことと、一任できず、きちんと決議を採りなおすべきこととがあるので、微妙な案件ではしっかり顧問弁護士等に確認しましょう。
※なお、監査役については、賛否の権限はありませんが、「意見を表明する」「異議を唱える」ことは認められていますので、監査役に意見があるか無いかも確認してください。
※スタートアップの場合、大株主との利益相反取引が避けられないケースが少なくないと思います。その場合は、取引内容を明示して、該当する特別利害関係者は議事・決議に参加しないことです。また、出席者全員が何らかの利益相反取引に関与する場合は、該当する取締役の決議部分について、議長を持ち回りで交代しながら決議を採る、といった方法がとられるようです。

12.議事録にどこまで書くか?


 取締役会が終わったら、必ず議事録を作成し、出席取締役・監査役は記名捺印するか、電磁的方法により署名します(登記で必要となる場合などは、まだ捺印となる場合が大半かと思います)。形式的に必要な内容としては、以下などをご参照ください。

 このとき、会議の模様を議事録にどこまで反映させるか?というのが悩ましいかと思います。大別して以下2つの考え方があるかと思います。
 ①決議したこと、報告したことの結果以外、極力書かず、定型文で済ます
 ②出席者の発言をなるべく記載し、議事の経過も残す

これは、なかなか難しい問題です。まず、登記に提出するような形式的な(といっては失礼ですが)場合は、①に徹することが考えられます。理由としては、ダラダラ長いと法務局の担当官からツッコミが入る可能性があるし、また正当な理由があれば提出されたものを外部者が閲覧できる場合があるので、あまりナマナマしい情報を記載するのには向いていない(守秘義務の観点からも)、ということです。登記以外の場合でも、取締役会のような実質的に会社の日常的な最高意思決定機関の議事録が細かすぎると、そこにある記載に縛られてしまう可能性や、記載された極論が法的リスクを含むケース、また自由闊達な議論の妨げになりかねないケースなどもあるので、シンプルに書いておこう、という考え方になります。
 一方、②は、あくまで議論の実質を担保し、「誰が何をどういう文脈で発言し、賛成又は反対に至ったか」を明らかにしようという、議事録本来の役割を重視するスタンスです。これもどこまで書くかは難しいところで、録音を一字一句文字起こしする必要はありませんが、抜け漏れがあっても困ります。僕個人としては、形式的に必要な場合(登記や書面決議など)では①、日常の議論では②で書くべきと思います。その際、少なくとも、発言があった取締役・監査役については、短くてもいいので「取締役●●からは、・・・について×××という意見があった。」程度の記載は必要と思います。また、普段から意見が割れがちな取締役会をされている会社の場合は、詳細に書くべきというのが私見です。理由としては以下です。
 ア)意見をちゃんと書くことが、1人1票を持つ取締役としての責任を明確化し、緊張感を持たせることになる、
 イ)どういう議論をするかで、それが記載されることも含めて、運営の高度化やレベルアップに繋がる、
 ウ)きちんとロジカルな意見を表明しておくことが、結局その人個人を守ることにもなる
 
もちろん、個別の議案への関わり方は人それぞれなので、上記ア)~ウ)は原則論である点はご理解ください。

13.経営が紛糾したら?

 会社経営が紛糾し、いわゆる内紛状態になってしまった場合。このような場合は、個別事情による違いが大きいでしょうが、大別して2つのケースがあると思っています。
 ①代表者などの独断専行、取締役会無視
 ②取締役会が派閥で割れた場合

(1)大株主創業者による独断専行、取締役会無視

 このケースでは、VCなどが出資している場合は、水面下での注意喚起が問題の本人に度々なされても治癒されない場合、投資契約・株主間契約などにおける経営株主としての義務違反や、事前同意事項・事前報告事項等の違反を指摘されることになり得ます。もちろん、事案の内容によってはそもそも取締役としての忠実義務違反や善管注意義務違反を問われる場合もあるでしょう。こうした場合は、応急措置としては代表権のはく奪(代表取締役の解任)が考えられますが、たとえ代取を解任されても、平取まで解任されるわけではありません。したがって株主総会での信任投票に発展する可能性があります。また、そもそもスタートアップでは代わりに代表取締役のなり手がいないことも少なくありません。投資家としてはそれを見越しているので、契約に基づく損害賠償か持株の買取またはその両方を請求することも視野に入れた対応をすることになるでしょう。本来、代表取締役が招集すべき臨時株主総会を投資家が要求しても開かないなどの場合は、監査役等とも諮って裁判所に判断を仰ぐ、といった流れになる場合もあります。もちろん、本来は話し合いによってそうした泥沼化を避けるべきなのは言うまでもありません。

(2)取締役会が派閥で割れた場合

 この場合は、たとえば経営方針を巡って取締役会の票が割れ、デッドロックになってしまった場合などです((1)と異なり法的な落ち度はない前提です)。重要な意思決定でいちいち対立し、予算・支出・人事などが停滞しお手上げの状態となります。場外の話し合いで落としどころを見つけられるのが最善ですが、事がそう簡単に運ばないことが殆どです。いずれの派閥も他の役員や従業員・大株主を自陣営に引き込もうとするため、事実に基づかない誹謗中傷やタレこみなどが横行し、現場も混乱します。おそらく、失望した者のうち優秀な人から見切りをつけて去っていくことになるでしょう。最終的には、いずれかの派閥が株主の過半を押さえて反対派を解任し、取締役会の主導権を握るといった手段を取らないかぎり正常化しないことになります。
 上記いずれのケースも、実はスタートアップの”あるある”なので、平時から取締役会運営は、きわめて慎重であるべきです。それまでは誰も気にしていなかった招集期間・招集方法の不備や書類のミスなどが後になって思わぬところで「取締役の善管注意義務違反」だの「忠実義務違反」だのとして糾弾されることがあります。僕自身も、業務上のミス(関係者次第で丸く収められなくはない内容)などで足元をすくわれるトップを何人も見てきましたし、自分も勝手に特定派閥に色分けされそうになったり巻き込まれそうになった経験もあります。取締役に就任する方は、ぜひこうした事象にも注意を払いながら、無駄な派閥争いなどにエネルギーを割かず、企業価値の向上に邁進して頂きたいものです。 


 以上、「取締役会を初めて設置する前」に最低限知っておいて損はない内容をまとめてみました。社長=100%株主で平和にやっていた会社が、外部からエクイティ資金を導入して会社運営をしていくには、それだけの手間が要るということです。しかし、一方でそれは会社が飛躍的に成長するためのテコともいえるので、ある意味”修行”と思って頑張りましょう。この他、法的なこととか、手続き論など、言い出したらキリがないくらい、他にも論点があるのですが、それを書き出すと終わらないし個社の事情や背景にもよりけりなので、この辺にしておきます。皆様のお役に立てたら幸いです。




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