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SHINJO

※過去に書いた書評を順次アップしていきます。

2003年3月

メジャーリーガーたちをも魅了した“新庄マジック”の全貌が明らかに!

 いよいよメジャーリーグ開幕。今年もイチローは当然のようにヒットを積み重ね、野茂は黙々と三振の山を築くに違いない。そして何より松井の一打席一打席がTVや新聞をにぎわすことだろう。しかし、メジャーにはもう一人、忘れてはならない日本人選手がいる。イチローと比べれば打率は1割も低い。にもかかわらず、イチローと同じくらい、いや、もしかしたらイチロー以上にファンやチームメイトに愛される男。そう、新庄剛志である。

 本書は、SFジャイアンツでワールドシリーズにも出場した新庄のメジャー2年目を、地元紙の野球担当記者が誠実に追ったリポートだ。気難しいと評判のバリー・ボンズが新庄とはすぐに仲良くなった。新庄グッズは飛ぶように売れ、とくに子供たちに大人気。数字だけを見れば二流でしかない選手が、なぜかくも人を惹きつけるのか。その理由が本書を読めばよくわかる。

 芸術的な守備と底抜けに明るいキャラクター、そしてさっぱり打たないので見限ろうとすると突然爆発する打撃。長年にわたり阪神ファンを惑わせた“新庄マジック”は、メジャーでも通用した。「1週間、すばらしい当たりを連発したと思ったら、次の週はノーヒット。守備以外は当てにできなかった」とジャイアンツのGMは言う。阪神ファンにとっては自明の新庄という選手の特異性に、アメリカ人たちが驚きハマっていく様が痛快。著者の抑制の効いたユーモアにも好感だ。野球というスポーツを愛する者なら、新庄の超美技と同様、本書にも拍手を送りたくなるだろう。

『SHINJO』
ジョン・シェイ/著、寺尾まち子/訳
朝日新聞社 1500円

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