みなさん、株やってますか？　私はやってません。
　言うまでもなく、株式とは資本主義の基本である。ニュースでは必ずその日の日経平均株価が報じられ、新聞は株式相場の一覧に紙面を割く。つまり、「株式市場の動向は、社会的に非常に重要な情報である」という暗黙の了解がなされているわけだ。
　が、実際のところ、金融関係に勤めている人や、個人投資家以外にとって、株は意外と縁遠い世界なのではないか。新聞の株式欄の読み方すらよくわからない、というのは私だけではないだろう。

　そんな株オンチにとって未知の世界を垣間見させてくれるのがこの雑誌。
なにしろタイトルが『株主手帳』である。株主でない方お断り、という感じ。巻頭コラム「企業Ａ！＆Ｏ！」では注目企業を紹介する。03年12月号では、制御・情報通信関連の電子機器メーカー「タイテック」をピックアップ。「光学関係は一月に買収した『エルモ』関係だが、監視カメラが犯罪多発の余波から予想以上の売上げの伸びを見せているようだ」とのことで、「前期比一〇二・八％の増収、一一八・二％の経常増益、三六・九％の純益増益が見込まれている」とか。犯罪多発も、株式相場の世界では好材料になったりするのだから、まさに“風が吹けば桶屋が儲かる”。「同じジャスダック市場で、同じ名古屋本社の会社でダイテックという会社があるので要注意」と細かい心配りも。「こちらもガソリンスタンドの情報処理中心の会社でいい会社だが、間違えるとてんで話にならないことになる」とはシャレも利いている。

　特集は「２００３年ジャスダック新規上場企業の強みと展望」。10月末時点で47社に上る新規上場企業の中から、注目企業をピックアップして紹介している。選ばれたのは、トシン電機、三光マーケティングフーズ、コメ兵、セリア、エーワン精密、創建ホームズの６社。なじみのない会社も多いが、今どき右肩上がりの成長企業ばかりである。
　たとえば、三光マーケティングフーズは、居酒屋「東方見聞録」「月の雫」などをチェーン展開している会社と聞けば、「なるほど」と納得する方も多いだろう。また、エーワン精密は、小型旋盤向け部品の製造販売会社。従業員数わずか85名だが、自動旋盤用カムで約９割、保持具コレットチャックで約６割のシェアを誇り、１万社に上る得意先を抱えているという。「保持具コレットチャック」と言われても何のことやらわからないが、とにかく安定した会社だということはわかる。

「年末相場で飛翔期待の好材料銘柄一本釣り！」との記事では、昭和電工、三洋電機といった有名どころに交じって、筒中プラスチック工業、サトーなど、聞いたこともないような会社も登場している。筒中プラスチック工業は、ポリカーボネート樹脂平板では業界首位。同社のポリカーボネート樹脂平板は、ゲームボーイの液晶を保護する樹脂版として使用されているほか、携帯電話やプラズマディスプレーなどへの需要増が期待されているという。一方のサトーは、バーコードシステムの大手。純利益が前期比43・６％増と、絶好調だ。

　連載モノには「注目！指名手配株」「闇会議」「麻布男爵の遺言」など、怪しげなタイトルが並ぶ。
　今号で「指名手配」されているのはスター精密と日本エム・ディ・エム。前者はシチズン系の電子プリンターのメーカー、後者は骨接合材料・人工関節を主力とする輸入商社である。骨接合材料ではトップシェアを誇り、「人工関節、脊椎固定器具などが好調に伸びた」ため、「前年同期比八・九％の増収、一一一・二％の経常増益、一四五・五％の純益増益と好調」だとか。
「闇会議」では、４人の事情通が匿名で語り合う。「四ケタ台乗せ必至の日産化学を引き続き狙っていきたい」「キナ臭い動きが噂されている日本高周波鋼業も少々拾ってみたい」「年末にまたひと暴れを期待して世界第二位の楽器メーカー・河合楽器の仕手性発揮を期待している」「力を入れていきたいのが空港施設だ。同社は羽田、伊丹など全国一一空港の施設の運営賃貸、ビルそのものの賃貸も行なっている」などと、耳寄りな情報が満載。これを信用して株を買っても、ホントに儲かるかどうかの保証はないが。

　それ以外にも「拝啓　投資家様」「10万円あるならこの株だ！」「投資実戦教室」「株式投資大法廷」といった記事が詰まったこの雑誌。どことなく競馬雑誌やパチンコ雑誌に似た雰囲気が漂うが、結局、株も一種のギャンブルなのだから、当然と言えば当然か。
　実際に株をやるかどうかは別にして、「こんな会社があるのか！」「こういうことで株価が上下するのか!?」といった発見がたくさんある。世の中の仕組みを知るうえで、勉強になる一冊だ。

（※2002年から2004年にかけて『トップジャーナル』という警察官向けの雑誌に連載した原稿です。情報は掲載当時のままで、取り上げた業界紙誌が現在もあるかどうかは未確認です）