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運転

※過去に書いた書評を順次アップしていきます。

2003年3月

あらゆるマシンの“運転”の極意を楽しみながら疑似体験できる一冊

 男にとって「クルマの運転がヘタ」というのは「SEXがヘタ」というのと同じくらい屈辱的なことであろう。それはつまり、食欲や性欲と同じレベルで“運転欲”みたいなものが遺伝子に組み込まれている証拠ではあるまいか。そうでなければ、いい年した大人が『電車でGO!』に熱中したり、飛行機を操縦したいからってハイジャックまでしちゃったりする理由がわからない。

 ウソだと思うなら本書を読んでみるといい。きっと“運転欲”の存在を確信できるはずだ。「1週間に2日休めますけど、2日目にはもう運転したくなりますから」と地下鉄の運転士は言う。「水中を全速で走っているときは、気持ちがいいです。計器を見ていると、自分のとった舵が、深さや姿勢角にすぐ出る」と語るのは自衛隊の潜水艦の操舵員。「常に人間がコントロールしていないと、じっとしていない。5秒間目をつぶってたら、どっかへ行っちゃう。コケはせんけど、そういう意味ではバイクみたいな乗り物ですかね」とはホバークラフト船長の弁だ。

 それ以外にも、ヘリコプター、ジャンボジェット、タンカー、雪上車、熱気球、グライダー、果ては胃カメラやアシモまで、あらゆるマシンの運転のプロに、その極意を聞き、ときには著者自身が体験する。著者ならではの当意即妙の比喩と軽妙なユーモアで綴られる記事は臨場感たっぷり。クルマの運転しかしたことのない人間には未知の驚きがいっぱい。健康な男子なら、どれかひとつでも運転したくてたまらなくなること請け合いである。

『運転』
下野康史
小学館

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