全ドラ

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 景気がいいのは一部だけで、給料は上がらず、ボーナスもカット、リストラや倒産の恐怖に脅える多くのサラリーマン家庭にとって、「切り詰められるところは切り詰めよう」と考えるのは当然のこと。そんなとき、削減項目リストの上位に挙がるのが、「クリーニング代」であろう。
 おかげでクリーニング業界は顧客確保に四苦八苦。そんな苦境に「消費者は今、業界に何を求めているか」との見出しを掲げ、「クリーニング市場の変化と業界の問題点」を探るのがクリーニング業界の専門紙『全ドラ』だ。

 その見出しが1面を飾った7月1日付の紙面の目玉企画は都内の主婦6人による消費者座談会「私の見たクリーニング店」。同紙では7年前にも同様の座談会を行っているのだが、そのときと比べても「やはりクリーニング支出は大幅に減少していることがわかった」という。なにしろ「今は必ず手洗い可能な衣料品質表示を見て買っており、家で洗うことが多くなった」「ドライマークが付いていても、エマールやアクロンを使って、家で洗うことも増えました」というのだから、主婦も大変だがクリーニング店も大変だ。年配の主婦の「主人の定年退職後、クリーニング支出はほぼ半分以下になった」「山のように出していたのがウソみたいで今、少ししか出さないので恥ずかしい」との発言には、思わず涙……。
 主婦たちのシビアな意見を聞いた記者は、「思った以上に家庭洗濯への依存度が強まっていることは知っているつもりでもショックでもありました」と衝撃を隠しきない様子。「もっときれいにシミをとってくれないの?と言ったご意見も需要減の一つの要因になっていると思われるご意見もありました」と日本語も怪しくなっている。

 苦境にあるのは一般消費者相手のクリーニング店だけではないようで、同日付の紙面には全国おしぼり協同組合連合会による「クリーンおしぼりキャンペーン」の記事もあった。おしぼりとクリーニングと何の関係があるのかと思うが、おしぼり業界というのは「産業クリーニング」という業種に含まれるらしい。
 で、肝心のキャンペーンだが、「同会では、『おしぼり離れ』に終止符を打ち、『おしぼりの復権』を目指す方策を採ってきたが、15年度をその第1歩として、外部に向けて全国統一の『クリーンおしぼりキャンペーン』に取り組むことを決めた」「全国キャンペーンは全組合員がユーザーに対して、『根気よく真剣に訴え』続けていくことによって消費者から『おしぼり待望論』が湧きあがってくるのを狙う」と意気盛ん。我々の知らない間に、おしぼり業界はやけに盛り上がっているのであった。それにしても「おしぼり待望論」って……。
 一方、同じ産業クリーニング業界に属するのが「貸おむつ」。紙おむつに押されて、生産量が約30%の減少で、「紙おむつ対策が急務となっている」という。気持ちはわかるが、今どき貸おむつというのはどうなんでしょう?

 そんなさまざまな課題を抱えるクリーニング業界だが、技術開発には怠りない。
「夏だ!汗だ!ドライで汗抜きだ!!」との見出しが躍るのは、ドライで水溶性汚れを除去できる「アクアゾールシステム」についての記事(6月10日付)。そもそもドライクリーニングとはどういうものかも知らない人間にとって、技術的なことはチンプンカンプンであるが、「パートさんでも安心して使用できる」「ウェットと違いクレームがゼロ」と、とにかく素晴らしいシステムらしい。
 また、「ふとん丸洗い」も業界では注目の市場。5月10日付の紙面では、7ページを費やして「ふとんクリーニング」を特集している。
「『ふとんは洗える』ということが社会的に広がり出した」との書き出しで始まる特集は、「ふとん市場のインフラ構築10年」「オゾン溶水ふとん丸洗い」「伸び率トップのふとん“宅配”クリーニング」「なぜ?今年は早めに布団類が集まる」「マンション生活者のふとん 洗浄・回収事業しませんか」と“ふとんづくし”。思わずふとんをクリーニングに出したくなってくる。
 見逃せないのは「クリーニング店の『シミ抜き』」という連載。アイシャドウから始まって、インク、お茶、カレー、コーラ、朱肉、醤油、血、ファンデーション、マジック、ミートソース、ワインなど、68種類のシミ抜き法が解説されていて「なるほど」と思わされる。が、墨汁の項は「まずは油性処理から水溶性処理をします。しかし、漂白は不可能なので諦めましょう」って、つまり墨汁のシミは落ちないってこと!? 皆さんも墨汁には気をつけましょう。

(※2002年から2004年にかけて『トップジャーナル』という警察官向けの雑誌に連載した原稿です。情報は掲載当時のままで、取り上げた業界紙誌が現在もあるかどうかは未確認です)


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