月刊食品工場長

月刊食品工場長

『月刊食品工場』ではない。『月刊食品工場長』である。世の中に食品工場がいくつあり「工場長」という肩書きの人が何人いるのか知らないが、ここまで読者を絞り込んだ雑誌も珍しい。といっても、『週刊プレイボーイ』の読者が必ずしもプレイボーイとは限らないように、食品工場長以外の人が読んでも差し支えはないものと思われる。

 表紙は毎号、食品メーカーの社長とその工場の写真。2003年12月号は、日本食塩製造の社長・江口輝夫氏の登場だ。トップ記事も江口社長のインタビュー。食塩といえば、平成9年に塩専売法が廃止され、平成14年4月からは完全自由化された業界である。以前は「専売当局から委託された規格の塩を指示通りに生産して、すべて指定された倉庫へ収める仕組みとなっていました」というお役所並みの安閑とした仕事ぶりだった会社が、自由化によって世間並みの競争の波にさらされることになったわけだ。
 しかし、江口社長は「でも完全自由化により、やっと自己責任による主体的な経営が可能になりました」と逆境を前向きな転機と捉え、「既存商品の大幅な見直しを行い、さらに原料としている粗塩から医薬用にも使用できる高付加価値塩などの商品の体系化を図り、量販塩と付加価値塩を明確に区分できる体系化を進めています」と語る。
 高付加価値塩ってナニ? という疑問はさておき、あらゆる面で社会環境が激変する時代にあって、この江口社長の姿勢は見習うべきだろう。

 一般の新聞や雑誌では、一時期ほど話題にならなくなったが、食品への異物混入や偽装表示問題はここではいまだに大きなトピックス。なにしろ「異物混入 複眼的視野からのHACCPシステム導入への対応」と題された連載が、今号で47回にも達しているのだから、関心の高さがわかろうというものだ。
サンプルとして掲載されている虫の写真には「どこで入ったか、この悪ムシ!! 流通の衛生管理は大きな課題である」との解説が。が、その虫がどういう状況でどういう商品に混入した、どういう種類の虫なのかについての説明は一切なし。まさか「悪ムシ」という名前の虫がいるわけじゃないよねえ?
 一方、表示問題についての連載「食品表示への提言 消費者に信頼される表示とは」の第三回は「表示に耐え得る原材料の確保」。「甘さひかえめ」といっても糖分が少ないとは限らず、「うす塩味」といっても塩分が少ないとは限らない、といった「あいまい表示」の問題点を指摘し、「『表示したくなる。消費者に自慢したくなるような原材料を使うこと』が不可欠なのだ」と主張する。「たとえば、梅干の原料原産地が『国産』と表示してあれば、これは紀州(和歌山県)産ではないということになる。原料原産地は都道府県表示でも構わない。紀州産であれば、当然紀州と表示されているはずだ」といった話は、消費者である我々にとっても役に立つ知識である。

『月刊食品工場長』というからには、もちろん「工場長インタビュー」もある。今号の工場長は金印わさび静岡の中西和平氏。外資系消費財メーカーに18年勤務していた中西氏、「最後の大仕事はエンジニアリング部門のプロジェクト。マネジャーで、新商品の機材・機器の導入からラインのスタートまで担当しました。起業のような感じで本当に面白かったです。それで『工場経営をやってみたい』という気持ちになりました」と現在の会社に転職。未経験の食品業界にもかかわらず、コスト意識の徹底、完全成果主義の給与体系の導入、トップダウンではなく水平型の「楽しい職場」、開発部門を持つ「提案型工場」をめざすなど、外資系出身らしい施策を次々に打ち出しているという。

 また、“工場美女”を紹介する「笑顔いきいき」のコーナーでは、富士パン粉工業・鴻巣工場の矢部由美子さんがニッコリ。総合病院で医療事務の仕事をしていたが、女性ばかりの人間関係に疲れて退社。その後、「以前より食品工場に興味があり、『どんなところかな』と、まずはアルバイトで冷凍デザートの工場に勤めました。クリスマス前の繁忙期でたった三ヵ月でしたが、とにかく楽しかった。『やっぱり食品工場で働きたい』と思いを強くし、アルバイト期間終了後に、今度は富士パン粉工業に就職しました」というから、よほど食品工場が水に合っていたのだろう。
 今は生産ラインを離れ、製造管理を担当している矢部さんだが、「私はとにかく忙しい中でがんばるのが好きなんです。ラインが好きなのは、いつも動いているからなんですね。あの忙しさや慌ただしさが好きなんです。汗をかきながら作業する中、粉がまつげについたりすると『ああ、私は仕事してる!』って実感が得られたんですね」と言う。人間、どこで天職とめぐり合うかわからないものである。みなさんは自分の仕事にこんな充実感がありますか?

 ほかにも工場改築に関する連載「食品工場の劇的ビフォーアフター」、エコロジーに配慮した工場を紹介する「エコフードファクトリー」などの記事が満載。これを読めばあなたも食品工場で働きたくなる、かもしれない。

(※2002年から2004年にかけて『トップジャーナル』という警察官向けの雑誌に連載した原稿です。情報は掲載当時のままで、取り上げた業界紙誌が現在もあるかどうかは未確認です)

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