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肖像権と著作権と水島新司

 昔の野球マンガには、実在の選手が実名でバンバン登場していたものだ。『巨人の星』はもちろんのこと、『がんばれ!!タブチくん!!』なんてタイトルにまでしちゃってる。『タブチくん』のヒットで火がついた野球4コマブーム当時は、それこそ1軍レギュラークラスの選手はほとんど全員ネタにされていたと言っても過言ではない。

 しかし、今やそんなマンガはほぼ絶滅状態だ。プロ野球を題材にしたマンガがなくなったわけではない。「モーニング」連載中の『グラゼニ』なんかは非常に面白く人気もある。が、そこに登場するのはすべて架空の球団の架空の人物だ。
 なぜそうなったかというと、肖像権の問題。1995年、プロ野球電波肖像権委員会が、マンガからも肖像権料を徴収すると決定。以降、マンガに実在の選手を出そうとすると、年間数十万円の肖像権料を支払わねばならなくなった(時事4コマ、スポーツ紙の1コママンガなどは報道性の見地から例外とされる)。

 そんななか、今でも実在選手を登場させているのが水島新司である。95年の時点では、水島新司だけはプロ野球の人気アップに長年貢献してきた功績から、肖像権料を免除されていた。しかし、それは「2年間の猶予」という条件付きで、その猶予期間が切れた97年、「水島さんだけタダというわけにはいかない」として請求を決定。当時の記事では、ドカベンの愛称で人気だった元プロ野球選手の香川伸行氏(2014年死去)が「水島先生に承認料を? そりゃないでしょう。逆に機構側が宣伝料をお支払いしてもいいくらいですよ」とコメントしている(日刊スポーツ1997年5月16日付)。
 この香川氏の意見には激しく同意。肖像権は尊重されるべきだけど、プロ野球機構が水島新司からカネとっちゃいかんでしょう、と私も思う。結局、「取材謝礼」の名目で出版社側が支払うことで決着したようだが、何とも無粋な話である。

 ところが、その水島氏自身が、権利関係の問題について非常に残念な対応をしているのだ。2008年、「別冊SPA!」で「野球マンガで[最強ベストナイン]決定!」という企画をやったときのこと。当然、水島作品のキャラも候補に上がり、図版の使用許諾をもらうため、水島プロに連絡した。ところが、先方いわく「ほかの野球マンガと同列に扱われるのは困る」とのことで、使用を拒否されてしまったのだ。
 別にネガティブな記事ではなく、数ある野球マンガの中からベストナインに選ばれたということなので……と説得するも、ダメなものはダメの一点張り。しょうがないので著作権法で認められた引用の要件に則った形で図版は掲載したし、その後クレームもなかったが(たぶん気づいてないだけ)、とりあえず私の中での水島株は大暴落。「あの水島新司がそんなセコいことを言うなんて……」と、ひどくガッカリしたのを覚えている。

 そして2012年9月。某スポーツ誌から「野球マンガの最強打者は誰だ!」というような企画の構成・執筆依頼があった。これまた当然、水島作品のキャラが候補に上がったが、前回のことがあるので、担当編集者に「以前こんなことがあって……」と説明。まあ、4年前のことだし、媒体が変われば先方の対応も変わるかも、ということで担当者が水島プロに連絡したところ、やはり今回も「ほかのマンガと一緒にされたくない」との理由で断られ、企画そのものがボツになってしまった。
 水島氏本人の判断なのか、側近スタッフの判断なのか、そのへんはわからない。が、いずれにしても、何ともケツの穴の小さい話。男・岩鬼がこれを聞いたら、どんな顔をするだろうか。

(※当記事は「季刊レポ」が発行していたメルマガ「メルレポ」2012年7~9月配信分を再構成して掲載しています)

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