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「生きる」という題で600字以内で論じよ

「生きる」という題で、具体例をひきながら、600字以内で論じよ。
('99年・京都教育大学)

 うーん、いきなりそんなこと言われてもねえ……。古今東西、数多の哲学者や宗教家や作家が生涯をかけて考え続け、それでも答えの出ないようなテーマを、18歳や19歳の受験生にたった600字で論じさせようなんて無茶な話。
 しかも、これが国語の第1問なのだ。緊張でドキドキしながら席に着き、問題用紙を開いた途端、こんな壮大かつ深遠なテーマを突きつけられた受験生たちの心中やいかに。思わず無常感に襲われ、悟りを開いちゃったりして!? それが狙いだったら別の意味ですごいが、こんな問題を試験の時間内にスラスラ答えられるようなら、大学なんか行かないで、今すぐ教祖にでもなったほうがいい。もしくは、「いのちの電話」の相談員とか。
 ていうか、そもそもコレが国語の問題として出題されること自体、ヘンじゃない? 参考にすべき文章があるわけでもなく、突然、この問題なのである。「採点は、着想・構想・表現・表記について行う」なんて但し書きがついてるけど、こういうのは小論文の領域だろう。
 とはいえ、仮にコレが小論文の問題だとしても、答えにくいことに変わりはない。真剣に考えれば考えるほど悩んじゃって、2問目以下に手をつけないままタイムアップ――まじめな受験生ほど、そんな悲劇に見舞われそうだ。
 そういえば、黒澤明の映画で「生きる」というのがあったけど、その上映時間は143分。世界の巨匠がそれだけの時間をかけて描いたテーマを600字で書けって、それこそ「生きる」ことをナメてんのか、って話である。出題した先生には、まずご自分の人生を600字以内で語っていただきたい。

(※2005年に某誌より依頼を受けて拙著『笑う入試問題』から抜粋・再構成した記事が先方の都合でボツになりました。そのときの原稿を順次掲載していきます)


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