ナース専科

ナース専科

 雑誌にリニューアルはつきものだが、今回取り上げる専門誌も5月号でリニューアルされたばかり。本誌読者の警察官諸兄同様、世のため人のために働く看護婦さん向けの雑誌『ナース専科』である。「看護婦さん向け」と書いたが、今は「看護師」というのが正式名称。でも、『ナース専科』の誌名は変わらない。
「新装刊」と書かれた5月号と、その前の4月号を比べてみると、表紙のイラストが変わっているほかに、キャッチコピーが変更されているのに気づく。従来は「ナースの自己成長ヒントマガジン」だったのが、リニューアル後は「臨床現場の問題解決マガジン」と、より堅い感じに。それに伴い、誌面もなんとなく堅くなったような印象が。より実用的に、ということかもしれないが、雑誌ウォッチャーとしては、ちょっと残念だ。

 新装刊号の巻頭特集は「ケーススタディとフローチャートでみる・わかる! 看護トラブル解決法」。「急変対応」「日常ケア」「人間関係」の3つのくくりで、さまざまな場面での対応法について説明している。どんな仕事にもトラブルはあるが、ナースの場合は人命にかかわるだけに大変だ。何しろ「ケース1」が、いきなり「呼吸停止」である。挙げられている事例は、こんな具合。
「60歳代後半の男性患者さんで、末期の白血病。いつ亡くなってもおかしくない状態で、家族も控えていた。呼吸状態は悪化していたが、バイタルは安定していたので、個室に移すことはせずに、そのまま2人部屋で経過を観察していた」
 その中で「呼吸状態は~移すことはせずに」の部分に「NG!」マークがあり、「呼吸状態の悪化自体がバイタルの不安定さを示しており、循環器にも影響がある。この時点で、急変への準備が必要」とのアドバイスが付いている。
この患者は、その後、呼吸が停止し、やがて心臓も停止する。そこで、「蘇生はしないという希望だったので、同室の患者さんを起こさないように、静かに退室して、リーダーに『呼吸停止です』と報告」となるのだが、ここにもやっぱり「NG!」が。で、「退室してはいけない。必ずナースコールで人を呼ぶ」とアドバイス。さらに、「これはゼッタイやってはいけない!」というコラムで「急変時には絶対に患者さんのそばを離れてはいけない」と書いてある。うーん、心臓が停止しても離れちゃいけないんですね。
「ケース2」以降も、「大出血・心停止」「ショック症状」「激しい頭痛」「意識レベル低下」など、シャレにならない事態の連発。「人間関係」の項でも「希死念慮(『死にたい』という患者さん)」「遺族対応」といったヘビーなテーマが続く。

 今の日本で、目の前で人が死ぬ場面に遭遇することなんて、一生に1~2回あるかどうかだろう。警察官なら普通の人より多少は多いかもしれないが、それにしたって、そうしょっちゅうはないはずだ。ところが、ナースの場合、それが日常なのである(もちろん部署によっても違うだろうが)。
 精神的にも肉体的にも厳しい仕事にもかかわらず、「ナースリポート2003 頑張れ!向上ナース」(4月号掲載)というアンケート記事によれば、平均の給料は27.1万円(税込み)。20万円未満の人も18.5%いて、こんな原稿でお金をもらってるのが申し訳なくなってくる(いや、もらえるものはもらいますが)。休日は月平均7.9日だから、ほぼ週休2日。が、夜勤などがあることを考えれば、決して恵まれているとは言えまい。それが証拠に「現在のあなたの仕事上の悩みはなんですか?」という質問には、20.2%の人が「人員不足による忙しさ」と答えている。同じ質問に14.7%「看護技術の未熟」を挙げているのはやや不安だが、それも向上心の表れと見るべきだろう。だからといって、「向上ナース」というネーミングはどうかと思うが……。

 いつまで仕事を続けるかについては、「定年まで」がなんと55.4%「育児で一時休職するが、復職したい」24.4%で、「出産まで」「結婚まで」という人は合計しても12.5%しかいない。一方で、「現在の職場に満足していますか?」の問いに対して、「不満がある」42.3%「どちらともいえない」40.0%で、「満足している」17.7%にとどまっているのは不思議だが、「仕事上の悩み」の3位が「人間関係」であるのを見れば、別の意味での大変さが浮かび上がってくる。
 それかあらぬか、巻末にはいろんな病院の看護職員募集広告が掲載されていて、「自分の持てる力を十分に出し切っていますか?」「『もっと』はばたきましょう。新東京病院で……」「素敵な病院で育む、これからのケア。あなたの力を生かしましょう」といった惹句が並ぶ。「素敵な病院」というのも妙な気がするが、「魅力の環境、新都心・新宿まで20分」なんて不動産広告みたいなのよりはマシか。「患者さまには愛を、職場には和を」のコピーからは、逆に職場の人間関係の難しさがしのばれる。

 そんな激務で疲れた心を癒してくれるのは、やはり動物。というわけで、「今月のカワイイ」というペット自慢のコーナーもあり。さらに、アザラシや熊の写真をちりばめたアラスカ旅行の広告も。「ゆったりのんびり 広~いアラスカでそんな休日を過ごしてみませんか!」な~んて夜勤明けに言われたら、ついフラフラと申し込んじゃうかも。
 いつ何時お世話になるかわからないナースの皆さんには、心身ともに健やかでいてほしい、と心から祈りたくなるこの雑誌。いろんな意味で勉強になります。

(※2002年から2004年にかけて『トップジャーナル』という警察官向けの雑誌に連載した原稿です。情報は掲載当時のままで、取り上げた業界紙誌が現在もあるかどうかは未確認です)

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