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建築という行為を一味違った視点から見てみると……

※過去に書いた書評を順次アップしていきます。

2006年6月

 人生で一番大きな買い物といえば、やはり家だろう。限られた予算のなかで、いかに理想に近い住まいを手に入れるか。誰しも頭を悩ませるところである。

 夫は普通のサラリーマン、妻はフリーライターという、とある夫婦の場合もそう。さまざまな物件を2年近く見て歩き、たどり着いた結論が〈築25年の中古住宅をリノベーションする〉というものだった。信頼できるパートナー(建築家やデザイナー)とともに自分らしく快適な住まいをつくりたい――そんな願いは、しかし、思わぬトラブルから頓挫する。

 なんと、工務店が倒産してしまったのだ。しかも、契約を済ませ工事費の半額を振り込んでから、半月も経たないうちに……。『辛酸リノベーション』は、そのトラブルの顛末を当事者であるフリーライターの妻が、臨場感たっぷりに綴ったルポルタージュ。といっても、告発調のドロドロしたものではない。最初に設計を依頼し、その工務店を紹介した建築家とは訴訟沙汰にまでなるのだが、著者の筆致はあくまでも淡々としており、どこか呑気さすら感じさせる。結局、別のインテリアデザイナーをパートナーとして仕切り直し。友人たちの力も借りて、“納得できる家”をつくり上げていく過程は、大変そうだが楽しそうだ。特殊な事例ではあるが、これから家を建てようという人には、大いに参考になるだろう。

 住宅でも商業ビルでも、あらゆる建築物は建築基準法等の法律に則って建てられている。なかには姉歯物件のような違法建築もあるから困りものだが、逆に建築法規を遵守したがために妙なことなってしまった建物も。『超合法建築図鑑』は、そんな物件77件を写真とイラストで解説する。街を歩いていて、「なんでわざわざこんな形に?」と疑問に思う建物があるが、それにはちゃんと理由があったんだ、とヒザを打つ発見の連続。苦し紛れのデザインがユニークなランドスケープを生み出している物件もあり、そうした創意工夫に思わず頬が緩む一冊だ。

小森知佳『辛酸リノベーション』(ラトルズ)
吉村靖孝編『超合法建築図鑑』(彰国社)

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