見出し画像

神社新報

 今年のお正月、皆さんはどこに初詣に行きましたか? ちなみに今年(2003年)の人出ランキングは、1位・明治神宮、2位・成田山新勝寺、3位・川崎大師、4位・伏見稲荷大社、5位・熱田神宮……といった具合。ベスト20のうち、お寺は2位の成田山新勝寺と10位の浅草寺だけで、残りは全部神社である。クリスマスにはパーティで盛り上がり、どこかのお寺から聞こえてくる除夜の鐘を聞きながら年越しそばをすすっても、初詣にはやっぱり神社に行くのが日本人。
 そんな日本人の心に訴えるべく頑張っているのが、今回紹介する神社人のための新聞『神社新報』(月4回発行)だ。

 この新聞、何がすごいって、まず言葉遣いがすごい。なんと、旧仮名遣いなのである。新年度最初の号となる4月7日付の一面には、「本紙を初めて読まれる方に」という告知があり、次のような説明がなされている。
「本紙は昭和二十一年の創刊以来、歴史的仮名遣ひを使用してゐます。いまでは全国唯一の歴史的仮名遣ひの新聞となりました。
 私たちは、先人らが積み上げてきた仮名遣ひを、敗戦・占領といふ混乱期に検討らしい検討もないまま、文法的にも欠陥の多い現代仮名遣いに変へてしまった“国語の破壊”を悲しみます。
 もちろん自然の変化を拒むわけではありませんが、言葉こそ民族文化の核心であり、国語の伝統を守る心は麗しき自国文化を守る心につながります。本紙が歴史的仮名遣ひを用ゐる理由です」

 いやはや実に立派な態度。言ってることは至極真っ当だし、その志の高さは尊敬に値する。とはいえ、現代仮名遣いで教育を受けた人間にとっては、いささか読みづらいのは否めないが……。

 その4月7日付のトップ見出しは「皇太子・同妃両殿下 明治天皇山陵など御参拝」。そう、この新聞のメイン記事のひとつは皇室関連記事なのだ。美しい日本語を旨とする同紙のなかでも、皇室関連記事にはひときわ典雅な言葉が並ぶ。
 まず小見出しからして「京都行啓の砌に」と、いきなり難しい。「砌(みぎり)」はまだしも、「行啓(ぎょうけい)」なんて、実際に使われてるのを見たのは初めてだ。当然、本文はすべて敬語で、京都で開かれた「世界水フォーラム」に「台臨」された皇太子殿下を「京都府民は、水フォーラム会場前や府立植物園、京都駅などで奉送迎申し上げた」と、普通の新聞ではありえない表現(ただし産経新聞は除く)で綴られる。
 2月24日号では、今年1月に前立腺ガンの手術を受けた天皇陛下が公務に復帰したニュースがトップを飾る。見出しは「聖上 御公務復帰」である。そのほかにも「お出まし」「出御」「奏上」「還啓」といった表現が目白押し。ある意味、とても勉強になる新聞なのだ。

 もちろん皇室関連記事ばかりではなく、神社界の動向も細かくフォロー。「春の訪れ告げる祭頭祭に十万人 鹿島神宮」「大きくなぁれ 鎮守の杜 地元小学生が植樹 天理市大和神宮」「地域文化発展に貢献 和田神宮禰宜が受賞」「今年初の『一日神社本庁』九州・宮崎で開催」などの記事がぎっしり詰まっている。
なかには「境内清掃三十年 百一歳の阿部さんに『小さな親切』実行章」なんてほのぼの記事も。「いつもお元気に掃除をされて、氏子の規範として感謝してをります」と宮司さんはコメントしているが、感謝だけで済ましていいのか?
 一方、社説では、「ブッシュの戦争 戦略と実行力なき日本の政治」なんて一般紙と区別のつかないような意見を述べたかと思ったら、「相撲と女人禁制 目に見えない神聖視を尊ぶ」と題して、「我々は、男女の役割が自然に享受されてゐた時代の、両性の謙譲の美徳を護持していきたいと願ふ」と復古主義を高らかに謳い上げる。この社説でも触れられているのだが、どうやら同紙は「ジェンダーフリー」という概念が大嫌いらしく、「ジェンダーフリーで育てると、脳の発達が阻害され、人格がをかしくなる」「これは生物学や脳科学を無視した異常な発想だ」「端的にいへば、ジェンダーフリーは革命運動である。男女の区別を解消すると称して、家族の解体を図り、文化や文明を攻撃する」といった学者の意見を大々的に紹介しているのだ(個人的には過剰な男女平等には疑問を感じるものの、「人格がをかしくなる」とか「革命運動である」とか、そこまで大げさに考えなくても、という気はする)。

 そして、この手の専門業界紙でやっぱり見逃せないのが、広告である。
「社寺建築 『心の時代』だからこそ私たちの気持ちを形にして伝えませんか 設計・施工・改修・屋根替え 基本計画は無料にて行います」(青木工務店)、「各種神社のありかたとあらゆるものを より早く、より安く提供できる 燈ろう・神馬・座牛・狛犬・案内板・手洗龍・鳥居」(平和合金)。さらには「鳥居、玉垣、燈篭 硬質樹脂FRP製 耐久性は抜群 他の材質よりお値打ち」(アサヒ鳥居)なんてのも。なるほど、狛犬や鳥居のような神聖に思えるものも、それぞれの会社が商売で作ってるんだなあ。
 な~んて思っていたら、もっとビミョーな物件を発見した。
「おみくじ各種(著作権所有) 山口県神社庁御推薦 創業九十余年の御信用 神道訓話入りおみくじ外(カタログ進呈)」(有限会社 女子道社)
 ……カタログ進呈って、そんなにいろいろ作ってるのか。別におみくじなんかそんなに信用してるわけじゃないけど、こんな広告見ちゃうと、身もフタもないというか、なんだかありがた味が薄れる感じ。この会社はほかに「自動・電動おみくじ機」の広告も出していて「十円から百円入まで各種」取り揃えているらしい。値段は書いていないが、いったいいくらぐらいするものなのか。ぜひ、カタログを見てみたい。
 というわけで、神社好きはもちろん、皇室マニアも必見の『神社新報』。質実剛健、文武両道な日本男児たる警察官の皆さんにもオススメだ。

(※2002年から2004年にかけて『トップジャーナル』という警察官向けの雑誌に連載した原稿です。情報は掲載当時のままで、取り上げた業界紙誌が現在もあるかどうかは未確認です)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?