養豚界

養豚界

 やれBSE(狂牛病)だ、鳥インフルエンザだと、畜産農家には心配事が尽きない今日この頃。そんな状況を反映してか、養豚業界の専門誌『養豚界』11月号の付録は「全廃・一部廃棄につながる主要疾病」のポスターだ。「豚丹毒」「濃毒症」「サルモネラ病」「マイコプラズマ性肺炎」「豚赤痢」などの病気が写真入りで解説される。病気の内臓の写真なんかもあり、一般人には不気味なだけだが、養豚農家にとってはすこぶる便利なものに違いない。
 そんなふうに、昭和41年の創刊以来、「儲かる養豚」をテーマに養豚経営に役立つ実用情報を提供してきたこの雑誌。2004年1月号で誌面をマイナーチェンジ、キャッチフレーズも「明日の養豚がわかる総合雑誌」から「豚づくりの明日をリード」に変更された。が、表紙は変わらず、全国各地の養豚ギャルの写真がバーン! 「COVER GIRL TALK」というページでは、表紙に登場した女のコが養豚への思いを語っている。
 1月号のカバーガールは、短髪とクリクリした目がキュートな富士農場サービスの羽山良実さん。「動物が大好きだったので、求人募集を見てこの業界に飛び込みました。最初は豚のことが嫌いにならないかと心配だったけど、実際に作業をして、ますます好きになりましたね。正直、はまっています」とか。現在はミニブタの世話が中心で、「ミニブタがペットとしてもっと認められればいいなって思っています。今後、普及のために、がんばっていきたいですね」と抱負を語る。
1月号には2004年のカレンダーが付録に付いていて、毎月一人、養豚ギャルが登場する。子豚を抱いてニッコリ微笑む姿は、癒し系と呼んでも過言ではない。

 新年号だけあって、特集は「国産豚肉生き残りへの模索」とテーマがデカイ。
「今後、養豚農家は何をしていけばいいのか? 昨年はFTA問題、SG発動、豚価の長期低迷など多種多様な問題が噴出した。現状把握と解決策について取りあげたい」というのだが、いきなり「FTA問題」「SG発動」って言われても何のことやら……という人も多いのではないか。
 FTAとは自由貿易協定(特定の国や地域の間で関税や輸入制限を原則として撤廃する取り決め)のことで、SGとはセーフガード(特定の産品の輸入が急増し、国内産業に重大な損害が生じる場合に緊急避難的に行われる輸入制限措置)のこと。説明されれば、新聞などで確かに目にした覚えのある言葉だが、経済産業省のお役人や製造業の経営者でもなければ、日常的にそれほど馴染みのあるものではないだろう。
 が、記事中では、これらの用語について何の説明もない。つまり、養豚業者にとって、これらは常識であり、FTAやSGの成り行きは極めて重大な関心事なのである。今どきの養豚業は、グローバルな視点がなければやっていけない、ということだ。

 とはいえ、日々の仕事はやはり地道な積み重ね。動物相手だけに、記事からも苦労がしのばれる。巻頭カラーのルポは「ふん尿処理の今」。群馬県のとある養豚業者の事例を紹介する。豚舎の改造、浄化槽やコンポストの設置など、さまざまな環境対策を実施。「野積みはハエがわくし、雨が降った時などは近くの土地まで流れて不衛生です。密閉型コンポストを導入した当時は仲間の養豚家に『こんなものを買っていたら豚は儲からない』と笑われました」「『くさい、汚い』と言われる養豚農家になりたくないという気持ちが積極的な投資の根底にある」なんて記述を読むと、思わず頭の中に『プロジェクトX』のテーマが響いてくる。
 そのほかにも「ようこそ!豚づくり一年生」「こちら豚病相談室」「肉質ウォッチング」「ヨーロッパ養豚通信」「豚舎便り」など、隅から隅まで養豚情報がぎっしりだ。

 もちろん広告も豚づくし。「可愛い豚に風邪を引かさない!!」と謳うのは加湿と換気で豚舎の環境を最適に保つ「エアクール」。「離乳のトラブルにお悩みですか……? お悩みは二日で解決をお約束いたします!」と自信満々なのは離乳期の子豚用混合飼料「フーチーク」。「動物行動学の傑作 信頼のトンキッス」というのは国際特許取得済みの給餌器である。
 養豚業者にとっては、繁殖も重要な課題。「強い種豚おります!」という牧場の広告があるかと思えば、「雄豚の精液量、総精子数、精子活力向上! 雌豚の受胎率、産子数、育成率改善!」と豪語する飼料会社もある。「人工授精がもっと安価で簡単になりました」というのは液体タイプの精液希釈液「GPエクステンダー」。「水も要らず温めるだけ」「4日間活力保存!!」「とにかく面倒なのがイヤな方におすすめです」とお手軽感をアピールする。極めつけは「たねつけ棒 スーパーピンク」で、「挿入は押し込むだけでOK!」という……。やっぱり動物相手の仕事は大変だ。

(※2002年から2004年にかけて『トップジャーナル』という警察官向けの雑誌に連載した原稿です。情報は掲載当時のままで、取り上げた業界紙誌が現在もあるかどうかは未確認です)

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