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昭和の“元少年”を刺激する野球と科学への斬新な視線

※過去に書いた書評を順次アップしていきます。

2006年5月

 ドイツW杯開幕まであとわずか。が、昭和の時代に生まれ育った人間にとってスポーツといえば、何をおいてもまず野球である。本稿執筆時点で、セ・リーグは巨人がトップを快走しており、阪神ファンの私としては夜も眠れぬ日々であるが、実はこの巨人の躍進を予見していた人物がいる。スポーツライターの小関順二氏。著書『野球力』のなかで同氏が巨人再建案として挙げたスタメン候補は、矢野、亀井、鈴木ら、まさに今季の巨人の変身ぶりを象徴する選手たちだ。

 小関氏が彼らを選んだ基準は明快。足が速いということだ。なーんだ、と思うかもしれない。が、そこにはきちんと裏づけがある。小関氏は野球観戦の際にストップウォッチを持参し、打者走者の一塁到達タイムを逐一計測しているのだ。そうやって数値化することで、今まで見えなかった野球の新たな側面が見えてくる。野球ファンにとっては目からウロコの“衝撃の事実”が次々と明らかにされていくさまは、まるでミステリーの謎解きのごとく痛快。図らずも巨人の快進撃が同書の主張の正しさを証明してしまったのが、極めて遺憾ではあるが。

 野球同様、昭和の子供たちを魅了したのが「科学技術が拓く未来像」だ。少年雑誌のグラビアに描かれた未来イメージに心躍らせた人は少なくないだろう。原克『ポピュラーサイエンスの時代』は、そんな少年時代の興奮を甦らせてくれる。

 といっても、同書が扱うのは空想の産物ではなく、実在の身近な20世紀の発明品。電動歯ブラシ、コンタクトレンズ、体温計、トランジスタラジオなどが、どのような社会状況を背景に、どのような経緯で生まれ、それが人々の生活をどのように変化させたかを、当時の大衆科学雑誌の記事を基に読み解く。谷崎潤一郎のエッセイや「はっぴいえんど」の歌などを枕に語られる科学技術と人間の関係には、うなずかされる部分も多い。と同時に、飽くなき利便性を求める人間の欲望の深さを感じずにはいられない。

小関順二『野球力』(講談社+α新書)
原克『ポピュラーサイエンスの時代』(柏書房)

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