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天久聖一『こどもの発想。』

※2011年3月掲載

 あまりのバカバカしさゆえ、逆に「あんたはエライ!」と賛嘆せずにいられない“天才的にバカな本”、略して「天才バカ本」を紹介する、というコンセプトで始めたこのコーナー。これまで紹介してきた本は、いずれもイイ大人がバカなことを真剣にやってるところに価値があるもので、バカと言っても本当のバカが書いた本(ビジネス書とか自己啓発本とかであるでしょ?)はもとより相手にしないのであった。
 しかし、今回ご紹介する本は、ちょっと例外というか変わり種。正真正銘のバカが書いたものが、なんと直筆のまま掲載されている。筆跡からしていかにも頭悪そうな感じだが、書いてる中身もひたすらバカ。でも、そのバカさ加減がどこか懐かしくて笑っちゃう――という不思議な本なのである。
 それもそのはず、本書の主役は小学生男子。子供向けマンガ誌『コロコロコミック』の伝説的投稿コーナー「コロコロバカデミー」に寄せられた作品の中から厳選の名作を集めたものなのだ。
 たとえば、織田信長の肖像画を見せて〈右の人物にあなたの考えたニックネームをつけなさい〉というお題では、〈たんきちゃん〉〈あけちみつひでに殺されたバカ〉といった身もフタもないものから、〈顔立ながしょう軍〉〈おでこデカ・イプリオ〉など見たまんまの回答、さらには〈ライターを100しゅるいあつめる人〉なんて意味不明なものまで、フリーダムな答えが続出。同様のお題で、シェークスピアに〈毛たまご〉というのは納得だが、チンギス・ハンに〈サイコロで必ず6をだす人〉、バッハに〈ヤングムーチョ〉とは、いったい何を考えておるのか。
〈ベートーベンの代表曲をまちがえて答えなさい〉というお題では、〈かんきせんは回る〉〈50mの高さからキムチが落ちた〉といった前衛的楽曲が発表され、〈夏目漱石の代表作をひとつ答えなさい〉と言われれば、〈ベンキに足をつっこんだら!〉〈きみのうんこはクレオパトラ〉と文豪が吐血しそうな下ネタを炸裂させる。
 何しろ敵は小学生男子だから、この手の下ネタが大好きだ。どんなお題でもすぐに、うんこ、しっこ、ちんこ、おしり、おならといった要素を盛り込んでしまう。〈エジソンの発明品をひとつ答えなさい〉では〈1mちょうどのチンゲ〉〈ケツふいた花柄ハンカチ〉。〈孫悟空の武器はなんですか?〉と問われれば、〈オナラスプレー〉〈うんちのはんこ〉。〈オーケストラの指揮者が手に持っているものはなんですか?〉なら、〈木のささったうんこ〉〈ウンコが少しついているかれた花〉……って、お前らホント、バカだなー(笑)。
 まさにナチュラルボーン・バカの実力をまざまざと見せつけてくれる小学生男子たち。しかし、その一方で、大人の頭からは決して出てこない天才的発想にも驚かされる。夏目漱石の代表作で〈原始人と再会〉とか、エジソンの発明品で〈十六茶〉とか、孫悟空の武器で〈イタんでる歯ブラシ〉とか、そんなの絶対思いつかない! 〈桃太郎の家来になった動物はなんですか?〉と聞かれて〈かおダニ〉と答えることができますか!?
 破壊力あるストレートなネタと、じんわり効いてくるシュールなネタとの絶妙のコンビネーション。この緩急自在の波状攻撃には、証言台に立たされた小沢一郎だって笑うだろう。言葉では説明しづらい“お絵描きネタ”も満載で、本編に収まりきらなかった作品がちりばめられた見返し部分や章扉の裏側も見逃せない。
 もちろん、一番すごいのは投稿した子供たちだが、彼らの秘孔を突くような的確なお題を出し、膨大な数の投稿から秀逸な作品をセレクトした著者の功績も大。この手のネタを大量に見ていると、何が面白いのかわからなくなってくるものだが、そこは『バカはサイレンで泣く』『味写入門』などで知られる投稿界の巨匠・天久聖一だけあって、選択眼に曇りはない。しかも、単行本化の話が一度ポシャったにもかかわらず、段ボール何箱分もの投稿ハガキを捨てずに取っておいたというのも立派。最近流行りの「断捨離」とかしてたら、この本は世に出ていないのだから。
 あとがきで著者は、今は成人してるはずの投稿者たちについて、〈果たして彼らは当時のことを覚えているのでしょうか。ハガキを出したことは覚えていても、ほとんどの子供たちは、なにを書いたのかなど、とっくの昔に忘れているに違いありません〉と述べている。まあ、仮に覚えていたとしても、本書を見て「コレ、俺が投稿したんだよ!」とは、恥ずかしくて言えないと思うけど。シンデレラがお城に忘れてきたものが〈しっこまみれのワゴム〉って……。

アスペクト/2011年2月4日初版


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