テレビドラマが好きだ2

テレビドラマが好きだ」で申し上げました『古畑任三郎』と『ケイゾク』について、私のお気に入り回をご紹介したいと思います。記事を書くに当たって、なぜこのドラマが特別に好きなのか改めて考えてみたところ、私は多分このドラマに出てくるキャラクターが好きなのだと思いました。
面白いドラマはこの二つの他にも沢山あるのですが、私は『古畑任三郎』に出てくる古畑やその犯人たち、『ケイゾク』に出てくる柴田純や真山徹やその犯人たちを見たくて、彼らのセリフを聞きたくて、ドラマを見るのだと思いました。
好きなキャラクターや断片的な場面についてしか語れないかもしれませんが、どうぞ気軽にお読みいただければ嬉しいです。今回は『古畑任三郎』編になります。

はじめに

『古畑任三郎』と書いていますが、正確なタイトルは『警部補・古畑任三郎』です。刑事ドラマといえば刑事ドラマですが、古畑任三郎と犯人との心理戦がメインで、警察内部のあれこれ等はほぼ描かれません。
スペシャルなどを除き、まず犯行の場面からドラマが始まります。田村正和が演じる主人公の古畑任三郎(以下、古畑)は、抜群の観察力によっていつも序盤で犯人の目星をつけ、その後の古畑と犯人との会話が話の展開の大部分を占めます。紳士的なのに一癖も二癖もある古畑と個性的な犯人たちの、危うくておしゃれでユーモア溢れた掛け合いは、何度聴いても飽きません。

第1シリーズ #1死者からの伝言

犯人は、中森明菜演じる少女コミック作家の小石川ちなみです。
作家として若くして成功を収め、暖炉と柱時計と金庫室のある大きな洋館を仕事場に持ち、ゴールデンレトリーバーを飼っています。中森明菜の儚げな美しさに加え、重ためのふわふわ黒髪ロングにゆったりとした長袖黒ワンピースに赤リップがとてつもなく可愛いです。
人も羨む生活を送る彼女ですが、自己評価は低く、すぐに自分や自分の作品を卑下します。古畑の前で自分が描いたコミック作品に散々駄目出しするも、彼がそれを読んで感涙しているのを見たら嬉しくなって卵スープまで作ってあげてしまう、嘘がつけない人です。

第1シリーズ #5汚れた王将

犯人は、板東八十助演じる将棋棋士の米沢八段です。
舞台は、とある旅館で開催された将棋のタイトル戦。王者はマザコンの若手天才棋士、対する米沢八段は年配の挑戦者です。何かと遣る瀬無い米沢八段が、遂に古畑に追い詰められ、自供した後の語りが好きです。負け惜しみといえば負け惜しみなのですが、何とも筋が通っているのです。舞台も犯人像も渋く、小さい頃は興味を持てなかったであろう要素が多いので、これに感じ入ることができるなんて、我ながら大人になったと思えた回です。

第1シリーズ #11さよなら、DJ

犯人は、桃井かおり演じるラジオDJの中浦たか子、通称おたかさんです。
おたかさんが、番組の途中の3分のCMの間に殺人をやり遂げます。スタジオのブースから駐車場まで行って、一瞬で事を遂行して戻ってくるのですが、CMが始まった直後、ヒールを脱いでクラウチングスタートからの猛ダッシュをする桃井かおりが見ものです。小学生のときにリアルタイムでやっていたのを観てから、ずっと記憶に残っていた場面です。

第2シリーズ #5偽善の報酬

犯人は、加藤治子演じる脚本家の佐々木高代です。序盤、派手で金遣いの荒い佐々木高代と、彼女のマネージャーをしている地味で堅実な妹が姉妹喧嘩をする場面があるのですが、お互いに言いたい放題で実に気持ちがいいです。
佐々木高代は、古畑にあれこれ聞かれても、口うるさい妹を亡き者にできてご満悦なのか、終始楽しそうに話します。彼女の、世間知らずのお嬢様のような、わざとらしいような、茶目っ気のあるカラッとして響く声は、永遠に聴いていられます。
話は変わりますが、つい最近、ジブリ映画『魔女の宅急便』に出てくるニシンとカボチャの包み焼きの老婦人の声をこの方が演じていたのを知り、今更ながら胸が高まりました。

第2シリーズ #7動機の鑑定

犯人は、澤村藤十郎演じる、骨董商春峯堂のご主人です(劇中で名前は出てきません)。
ある歴史的価値の高い壺があり、ある人間国宝の陶芸家が、訳あってその贋作を作ります。本物の壺と偽物の壺、二つの壺を巡り、春峯堂のご主人の意地と、陶芸家の意地と、ご主人と結託する美術館館長の意地がぶつかり合います。
これがまた渋い話で、子どもの時に観た記憶もあるのですが、大人になって改めて観たからこそ沁みました。最後、春峯堂のご主人が、贋作ではなく本物の壺を凶器なんぞに使用した理由を語る場面があるのですが、その理由が、プロフェッショナルでありながら血が通っていて、一気に持っていかれます。

第3シリーズ #7哀しき完全犯罪

犯人は、囲碁棋士の主婦、小田嶋さくらです。
この犯人には自分に似たところがあるので、このドラマに出てくる犯人の中で一番共感できます。と同時に、彼女をみて、反面教師にしなければとも思います。
小田嶋さくらは大雑把なところがあって、几帳面な夫に、電気を付けっ放しだったやらゴミの分別ができていないやら、いつも細かく指摘されます。
また彼女は自己愛が大きく、自分をあまり客観的に見れていないのですが、夫はそんな彼女に対し冷静に意見をぶつけ、彼女の意見を否定します。
他人から見て恥ずかしくても自分に満足して、自分の好きなように生きる力のある小田嶋さくらも、客観的な視点で向き不向き、適材適所を見極めようとする夫も、どちらも素晴らしいのに、お互いが頑なになりすぎたばかりに起こる悲劇です。
ラストで、古畑と一緒に警察に向かう小田嶋さくらの姿が本当に哀しくて可笑しいです。

FINAL 第1夜 今、蘇る死

これはもう事件の全貌が傑作過ぎです。FINALの3作はどれも作り込まれている印象がありますが、これは特に考えられている感じがします。この話の舞台は東京都内にある田舎地域で、そこに古くから伝わるわらべ歌の歌詞になぞらえて殺人が起こります。
途中、古畑が事件に疲れ果ててしまって、自分には田舎は合わない、都会がいい、ハニートースト食べたい、というようなことをつらつらこぼす場面が好きです。
本回には石坂浩二も主要人物として出演しており、市川崑監督の映画金田一耕助シリーズのオマージュが各所に散りばめられているようです。
私自身は金田一耕助はよく知りませんが、私の好きな他の探偵ドラマも金田一耕助の影響を受けているものが多いので(『トリック』や『金田一少年の事件簿』)、いずれちゃんと観てみたいと思っています。

FINAL 第3夜 ラスト・ダンス

これはFINAL中のFINAL、古畑の最後の事件です。犯人は松嶋菜々子演じるドラマ脚本家の加賀美京子です。この犯人像もかなり好きです。
ちなみに古畑に出てくる犯人の女性たちは基本的にどなたも素敵です。男性の犯人は結構情けない感じだったり救えない感じだったりすることもあるのですが、女性の犯人は優しさをもって描かれている気がします。
また珍しいことに、古畑と犯人が友達以上恋人未満のような雰囲気になります。私の中で、田村正和といえば古畑任三郎だったので最初に見たときは意外でしたが、もとは二枚目俳優で恋愛ドラマ流行の立役者でいらっしゃったのですね。
古畑は、物まねの定番になるくらい独特な話し方で、極端にマイペースで、細かいところでこだわりが強くて、一緒にいるには面倒くさい人として描かれていますが、一方で静かに犯人の心に寄り添う様子に説得力があるのは、そのためかと思いました。

おわりに

『警部補・古畑任三郎』シリーズでは、刑事と犯人という敵対する関係でありながら、表面上穏やかで上品な会話が繰り広げられます。刑事と犯人という関係は単なるきっかけに過ぎず、後は会話を楽しむだけ、とすら感じられます。もし登場人物に命があるとしたら、心のどこかで腹の探り合いを楽しんでいるに違いありません。
あくまでドラマで、作り込まれたセリフではあるのですが、あんなに個性的でユーモアのある会話をできたらきっと愉快でしょう。私にはあんな余裕のある会話とても無理です。実際の日常生活では、形式ばかりのフラットな会話や振る舞いで済む場面の方が圧倒的に多く、私のような臆病で面倒くさがりの人間が心穏やかに円滑に暮らすには、その方が都合が良いことも確かです。憧れてはいてもあり得ないからこそ、きっといつまで経っても古畑は永遠に楽しいのです。

この記事を推敲中、田村正和さんの訃報をニュースで拝見しました。世代の離れた俳優さんが演じるキャラクターで、古畑任三郎ほど愛着のある人物は他にいませんでした。ご冥福をお祈りいたします。



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