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『もののけ姫』と残念な私

※ややネタバレありm(_ _)m

実家を離れてもうかれこれ10年以上経つ。
そろそろ自分の荷物を片付けないと、と思い、先日整理をしにいった。

整理していると懐かしい品がたくさん出てくる。
カードダス、角が丸いプリクラ、缶バッチ……その中に映画のチケットがあった。

『もののけ姫』の前売り券だ。

今から25年ほど前の話。小学生の私は夏休みに家族と『もののけ姫』を観にいった。

ジブリ映画は金曜ロードショーで観ることがほとんどだった。
『となりのトトロ』や『魔女の宅急便』は家に録画テープがあり、兄弟や近所の友達とよく観ていた。

なぜ『もののけ姫』は金曜ロードショーを待たずに映画館へ行ったのか。
たぶん単純に夏休みの思い出に親が連れていってくれたのだと思う。
もしかしたら、5歳離れた弟が映画館で静かに観ていられるくらいになったので、時期が良かったということもあるかもしれない。

うちは夕飯以降、常にテレビがついているような家庭だったので、CMで予告映像を何度も観た。
「風の谷のナウシカから13年」「生きろ」といったコピーと共に本編映像がちらほら。
そこで見たヒロインの姿はとても印象的だった。

大きな白い山犬の前に立つ凛々しい美少女。口の周りが血で汚れていて、こちらをじっと見つめている。

この場面は映画のチケットやポスターにも使われていたので、それもあって印象的だったのかもしれない。

そんな僅かな予備知識がありつつ実際に映画館に足を運んだのだが、これが小学生の私には思った以上に刺激的であった。

冒頭からおどろおどろしい凶暴なタタリ神。
予告映像でちらっと見たはずの戦いの場面もやはり映画館だと迫力が違い、例えば風をきる弓矢は重みと速さが感じられ、すぐ耳元を掠めたような臨場感があった。

子供時代に素直な感受性で映画の世界を味わえたのは、今振り返るとなんだか嬉しい。
大人になった今は、ときどき既存の名作にとらわれすぎて、新しい作品をありのまま曇りなき眼で観ることが難しい。

臨場感あふれる映画館で、恐怖心も緊迫感も真正面から受け入れたせいだろうか。
場面が落ち着いたあたりで緊張の糸がほぐれ、お腹が痛くなってきたのだ。

私の席は前方の扉に近い通路沿いだったので、トイレに立つにも周囲にあまり気を遣う必要はなかった。
我慢できるような状態でもなかったので、さっと行ってこようと思い席を立った。

席を外したのは恐らく5分程度だったと思う。
幸い戻ってからストーリーがわからなくなることもなく、その後は無事に最後まで観終わったのだが……。

ふと、あの場面がなかったことに気がついた。

大きな白い山犬の前に立っていて、口の周りが血で汚れていて、こちらをじっと見つめていた、あの凛々しい美少女の場面。
テレビの予告映像で見て、映画のチケットやポスターにも使われていたあの有名な場面を、私は見ていなかった。

一緒に映画館に行っていた兄に言われた。私がトイレに立った時にその場面をやっていたと。
しかもそれは主人公とヒロインが初めて出会う場面だったのだ。

主人公とヒロインの初対面……。
そんな大事な場面を見逃してしまうなんて、なんて情けないのだろう。しかも理由がトイレとは。
実のところ、そのお陰で当時悩まされていた便秘は一旦治ったのだけれど、そんなことは全然嬉しくない。むしろ、なんだか嫌だ。
私はしばらく引きずった。

その翌年、『もののけ姫』のVHSが出たということで親が買ってきてくれたときは、とても嬉しかった。
ついにあの名場面を観られるのだ。

それもまた夏休みだった。
昼食にマクドナルドという、休日ならではの特別な食事を済ませた後、家で鑑賞会をした。

そして、私は晴れて念願のあの場面を見ることができたのだった。

しかし物語も終盤、クライマックスにさしかかるあたりで、呆れたことに私はまたお腹が痛くなってしまったのである。

『もののけ姫』を観た人で、中には共感してくれる人がいるかもしれない。
物語終盤で大変なことになってしまった猪神が、主人公の前に姿を現す場面、もの凄く不安にならないだろうか。

私はその場面でいつも凄く不安な気持ちになる。その気持ちが胃腸にきたのだと思う。
『もののけ姫』の威力が凄まじいのか、私のメンタルとお腹が弱すぎるのか。

こうして二回目の鑑賞でも結局まるごと通して観ることはできなかった。

家族からは『もののけ姫』を観ると便秘が治るね、などと言われ、それは映画にも失礼だし、情けないし、という話である。

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