ムーンライト・クリスマス

12月10日、友だちのえりちゃんと下北沢に行った。
イラストレーターをしている、私の妹の展示を見るためだ。

展示の名は、「MOONLIGHT CHRISTMAS」。
その名の通りクリスマスをテーマにした展示だ。

私は妹の絵が好きだ。
妹は、ひとや動物や植物をとてもやわらかい曲線で描く。
絵の具や色鉛筆をつかって描かれた色とりどりのそれらは、ちょっと現実離れした風貌だ。なんだか踊りだしそうで、絵の中で気持ちよさそうに、のびのびと息づいている。

描かれているのは愉快なひとが多いけれど、気難しい顔をしているひともいる。単に愉快なだけではないところが妹らしい。作品をみていると、繊細で、ちょっと頑固で、そして誰よりもやさしい妹そのものだと、いつも思う。

妹はこの展示に向けて、多くの作品を作った。

絵をたくさん、たくさん描いた。
大きな絵に、小さな絵。クリスマスの浮き足立つような愉しさと、1年が終わっていく切なさがぎゅっと詰まった作品たち。

はじめて陶芸に挑戦した。
土をこねてこねて、釉薬をかけて陶器のオブジェを作った。彼女がたった一人で黙々と描いていた絵が、立体としてむくむくと立ち上がり、まるでやあ!と挨拶しているようだった。つるんとつややかな釉薬に包まれたそれらはあまりにもかわいくて、眺めていると幸せな気分にさせてくれた。

切手を作った。
明るい月と星のイラストが描かれた切手。ぴかぴかとした月や星の光は、手紙に込めたその人の思いを、きっと照らしてくれるだろう。

他にも、食べられないくらい可愛いアイシングクッキーや、ギフトボックスなど、たくさんのものを作った。

妹が近くで作る姿を見ていたから、作品を生み出すことは痛みや苦しみを伴うものなのだと教えてもらった。でも、作った作品たちを見てみたら、そんな苦しみはどこ吹く風。燦々と光が降り注ぐギャラリーで見る作品たちは堂々としていて、やっとお披露目してもらってとても嬉しそうだった。
学芸会で張り切っている子どものようだった。

ギャラリーの隅に、ぺらりと紙が貼ってあって、それにはこの展示を「MOONLIGHT CHRISTMAS」と名付けた妹の想いが書いてあった。

ひとり、公園でお弁当を食べていたときに目の前に生えていた木の真上に月があって、それがクリスマスマスツリーのように見えたこと。いつかクリスマスをテーマにする展示をするなら、このタイトルにしようと心に決めていたこと。
そんなことが書かれていた。

それを読んでいたら、ふと思い出した。
幼い頃のクリスマス、まだサンタクロースがいると信じていたあのころのことだ。

幼い頃は、24日に家族でささやかなクリスマスパーティーをしていた。母が作ってくれた料理やケーキを食べ、眠りにつく。
毎年サンタクロースが来るまで起きていようと思っていた。私と妹は2段ベッドで眠っていたから、2段ベッドの下にいる妹と今夜は起きていようと声をかけ合い、絶対にサンタクロースに会うぞと意気揚々と布団に潜りこんでいた。
しかし普段20時に寝ていた私は到底起きていられず、いつもすんなりと眠ってしまっていた。

だから25日の朝は、夜明け前に目がさめる。
まだ太陽がのぼっていない、月明かりが照らす部屋。

眠っている妹を起こしてはいけないから、電気はつけない。温かい布団の中に冷気が入らないように、布団の隙間から手を出して枕元を探ると、包装紙に包まれた四角い箱が手に触れる。

サンタさん来てくれた!と叫びたくなるくらいの嬉しさだが、起き出すには早すぎる時間だ。
だから箱をぎゅっと抱いて、包装紙の手触りを確かめたり、リボンを手でなぞったり、箱のにおいを嗅いだりする。包装紙につつまれたプレゼントはきまって、まあたらしい紙のにおいがした。

何度も何度も箱の手触りを確かめて、何度も何度もリボンをなぞり、においをかいだ。

そうして母が起き出した頃に私もベッドから出て、台所にいる母のそばで、床にぺたんと座りこみ、プレゼントの箱をあけた。

私にとってのクリスマスは、
初めて恋人と過ごしたあの日ではなく、友達と過ごしたあの日でもなく、夜明け前、月明かりをもとに枕元のプレゼントを探したあの時間だ。
あおじろい月の光の中、息をひそめてプレゼントを探した、あのたったひとりの時間だ。

やっぱり姉妹は似るものらしい。
妹だけでなく、私のクリスマスもまた、月明かりに照らされたものだった。

幼い頃、私と一緒にプレゼントを待ちわびていた妹は、サンタクロースに会おうと鼻を膨らませていた妹は、あの展示の日々、たくさんの人のサンタクロースになった。
文字通り、両手に抱えきれないほどのたくさんのプレゼントを用意して。

私は大人になって、初めてサンタクロースに出会ったのだった。
そしてその人は、幼い頃からずうっと隣にいる人だ。
誇らしくていとしい、私の妹だ。

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