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振り込め詐欺の『顧客』のヒモになった、フンザ在住A君の話

 のどかカフェがあるアルチット村に住んでいるA君は、特に仕事をせずに、あたりをぶらぶら歩き、自由にのんびりと過ごしている。マリファナと酒と女性が好きな30歳で、酒はマイ蒸留器を持っていて、自作のワインや焼酎を造って楽しんでいる。フンザ川とカラコラムハイウェイが見える崖の上で、彼が作ったマンゴー酒を飲ませてもらったけど、喉が焼けるほど強かった。マリファナはギルギットの売人から買っているらしい。「金は信用できない。信用できるのは友だちだけ」と、気持ちよさそうに言う。
 そんな彼は数年前、カラチにいたときに、振り込め詐欺の掛け子をやっていた。組織から渡される名簿を元に、アメリカ在住の人に電話をかけ、銀行の融資話とか、政府の給付金とかを装って金を振り込ませるのだ。そんな「仕事」に就いていただけあって、A君は英語がとても堪能だ。(ちなみに彼は中学校しか出ておらず、英語は独学。英語の読み書きは出来るが、パキスタン公用語のウルドゥー語の読み書きは出来ない)
 パキスタン人が、遙か遠いアメリカ人を相手に振り込め詐欺をしていることに驚いたけど、A君が、掛け子の仕事で知り合った「顧客」の女性二人と、数年後の今でも連絡を取りあい、個人的にお金を送ってもらっている(つまり2人のヒモになった)というから、なお驚いた。
 女性の一人はニューヨーク在住の、民主党を支持する弁護士、もう一人は居住地不明の毎日教会に通う敬虔なカソリックで、熱心なトランプ支持者らしい。二人とも、本当の名前はわからないし、会ったことも、顔を見たこともないが、毎晩、深夜に電話をしあっている。
 彼女たちとは、振り込め詐欺の電話をかけた後、個人的に電話をするようになり、詐欺をしていることを打ち明け、お金を送ってもらう仲になったのだという。だから彼女たちは、A君が詐欺の仕事から足を洗ったのは、自分たちのおかげだと信じているし、僕もそう思う。A君は「俺は詐欺なんてしたくなかったから、自分でやめようと決めたんだ」というのだが。
 詐欺を働く相手のヒモになれるほどの恐るべしコミュニケーション能力を持つA君だが、実際に会える距離にも懇意にしている女性は数人いて、彼女たちは、ギルギットやフンザのずっと山奥など、アルチット村から数時間離れたところに住んでいる。時々、彼を見ないと思ったら、数日間、その子たちのところへ泊まりに行っている。また、アルチット村を一人で旅行している女性によく声をかけ、そしたらかなりの確率で、デートに成功した、のどかカフェにお茶を飲みに来てくれる。
 そんな彼は、同性の僕から見ても面白く、性格も良くていいやつだ。だから、彼のことはこれからもちょくちょくこのブログで取り上げたい。ちなみに、トランプ支持者の女性は、僕のYouTubeの熱心なファンでもあるらしい。アメリカから見てくれているなんて、うれしいな。

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