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ぐんどぅるの木、ふくの木

 のどかカフェ2年目のフンザに着いたのは、3月18日。去年もこの頃、旅行者としてフンザに来ていたけれど、その時と比べて今年はまだ花が少ない。谷は全体的に寒々としていて、時々、アーモンドの木が、薄ピンク色の花を咲かせて春を呼んでいる。シェールさんによると、今年は去年よりも春の訪れが10日ほど遅い、とのこと。
 のどかカフェには、昔のフンザ王の居城である「アルチット城」の「カバシ庭園」が隣接していて、庭の様子を窓から一望することが出来る。カバシ庭園には、まだまだ裸木が多いのだが、そんな中、カフェの建物に寄り添うように生えている木だけは、僕が到着した当日から、白い、可憐な花をしっかりと咲かせていた。この木の名前は、近所の女の子によると「ぐんどぅる」というらしいのだが、じつは根元には、僕が2012年に長崎県の福江島で拾い、ちょうど10年間寄り添っていた飼い猫のふくの骨が埋まっている。到着した日の夜、「ぐんどぅる」の花が咲いていたことを、電話で彼女のきのさんに話したら、「ふくちゃんが出迎えてくれたみたいね」と言った。ああ、確かにそうだ、と思った。それから、この木の花を見るたび、ふくが近くにいる感じがする。ふくの小さな骨の成分が巡り巡ってあの小さな花びらになっているのかもしれないし、きっとそうだろうから。
 カバシ庭園のあんずの木も、この数日でつぼみがぐんと膨らんできていて、遠くから見ても、枝先が紅色に染まりつつある。もう、一週間以内には開花しそうだ。花が咲く。春が来る。胸がドキドキと高鳴っている。

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