最後のあがき


死に体の蝉がベランダでバタバタしているから

なんとかしろっ!!と嫁から厳命が下った。

ここはマンションの6F、”自然”とはかけ離れている。

きっと最後の力を振り絞って、ここへ軟着陸してきたのだろう。

仰向けにひっくり返ったアブラゼミにティッシュを当てがうと、

捕まりたくなかったのかブルブルと最後の足掻きを見せ、

そのままもう2度と動かなくなった。

私は、アブラゼミの一生を想った。

人生の大半を地中で暮らし、最後の1ヶ月だけ生まれ変わって、

文字通り命を燃やして恋をする。

これほどドラマティックな人生があるだろうか。

階下に響き渡る蝉時雨は愛の讃歌でもあり、

そして同時に葬送曲でもあるのだな、

とそのとき初めて気がついた。

蝉の一生になぞらえると、自分の人生もそろそろ

土から這い出し、目の前の木を登り始めた頃ではなかろうか。

何も恋をしたいわけではない。

今この目の前にある一杯を、慈しみ、味わい尽くすのみである。

【真打ち英太朗 味噌ラーメン】

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