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あにの 動物の話

 どうも。あにです。
 先日おとおとの家にお呼ばれされて、一家揃って行ってまいりました。
 赤ん坊の頃から抱っこさせてもらうたびに両親からダッシュで引き離すなどの悪さをしてきたせいか、あにおじさんを蛇蝎のごとく嫌っており、あにおじさんの顔を見るたびに号泣していた長女姪っ子。
「あにさんがだめなんじゃなくて、すごく人見知りなだけだから…!」
なんて具合におかあさんが気を使ってフォローをしてくれてまたそれが傷を深くするという感じでしたが、今回ついにペレストロイカが成され、一緒に自転車でお買い物に行ったり、絵本を読んであげたり、一般的なおじと姪っ子の関係を築くことができました!
 読んだ絵本がアンパンマンでおなじみのやなせたかし先生著「チリンの鈴」。お母さんを殺した狼に弟子入りした子羊チリンが、羊でも狼でもないけだものに成長し復習を遂げるも、それまで自分を育ててくれた狼を愛していたことに気づくというお話。こういう事するから嫌われるんだよな。

 さて、動物の話です。

 先日、群馬県で四国犬が人を噛みまくったという事件を目にしました。令和の世の中に痛ましい話ですが、しばらく考えるうちに、くっきりとした姿が浮かんできたわけではないけど、おぼろげながら浮かんできたんです。とある場面が。
 

 前回も触れましたが、バブル期の好景気をわりと享受していたあに一家。サイパン島を筆頭にロタ島、ニューカレドニア島と、毎年のように両親の好きな南の島へと旅行に行っていました。はいバブリー。
 もちろんどこの国でも子供二人で地上に取り残されるわけですから、比較的治安のよい地域とはいえおおらかな時代です……。

 それはニューカレドニア島に行ったときの話です。たしかあにが小5の頃だったでしょうか。
 日中さんざん海で遊んで、ホテルに帰ってくる途中に、車の窓から1件の小さなレストランを発見したあに少年。それまで滞在中の晩御飯はホテル内のレストランや、近くのスーパーで買ってきた食材をホテルの部屋の簡易キッチンで調理したものでしたが、せっかくだからああいう地元のレストランにも行ってみようと提案。両親も海外旅行の非日常とちょっとした冒険心をくすぐられたのでしょう。早速その夜、行ってみることになりました。

 まだ明るいうちにレストランへ向かい、各々読めないメニューから謎の料理を注文。とても満足なディナーになりました。
 ちなみにニューカレドニアの公用語はフランス語。今思うと父の英語なまりの岡山弁と母の純正岡山弁だけでよく注文から支払いまで意思の疎通ができたものかと感心しますが、それはまた別のお話。

 ご飯を食べ終わって店を出る家族。
 ホテルまでの道のりは20分程度。
 街灯……ゼロ。

 東京暮らしの長い家族。たまに帰る岡山の田舎でも、町村部はそこそこ街灯が整備され、家々の灯りもあり、夜中でもに真っ暗で困るなんてことはありませんでした。
 しかしここは南の島。ホテルとレストランまでは、道しかありません。
 あに少年、生まれて初めて体験する、完全な闇。真っ暗闇。
 さすがにこの未知の道を20分家族4人で帰るのは無理じゃなかろうか……

「ふっふっふっ……こんなこともあろうかとね!」

 不敵な笑みとともに父がウェストポーチから出したのが、単三電池2本で動くちっちゃな懐中電灯。
 明るい町中ではあれほど弱々しく頼りげのなかった小さな灯が、鼻を摘まれてもわからないような真っ暗闇の中ではなんと頼もしく思えたことでしょう。
 迷子にならないよう、転ばないよう、父はあにと、母はおとおとと手を繋いで、小さな懐中電灯が照らす足元の僅かな未舗装の道をたどり、暗闇のなかをヨチヨチと帰っていく一家4人。
 大きく曲がる道路をすぎて、ようやくホテルの灯りが見えた時、背後の、今まで歩いてきた方向から、何やら音が聞こえてきました。

 チャッ チャッ ……チャッ チャッ……。

 決して勝俣州和がいたアイドルグループがいたわけではありません。
 アスファルトの車道を切りつけながら暗闇走り抜けるなにかの足音。
 父が小さな懐中電灯の灯を、音のする方へ向けます。
 そこに浮かび上がるのは、まるで高橋よしひろ先生の漫画に出てくるような大量の野犬の群れ。
 父のライトに照らされて目を光らす十数頭はいるであろう犬の群が、突然の人工的な灯に興奮したのでしょう、一斉に吠え始めました。
 普段犬といえば近所の阿部くんちで飼っているペスくらいしか知らないあに少年。当然こんな群れを見るのも吠えられるのも初めての体験。


 あ、誰か死ぬ……


 若干11歳のあに少年にそう思わせるには十分な迫力でした。

 しかしそこは流石お父さん。一家の長。
 腰に巻いていたポーチを外すと、ブンブンと振り回しながら

「うわああああ!くるなあああああ!」

と犬の群れを威嚇。
 果たしてフランスの犬を日本語で威嚇して効果があるのでしょうか。
 そんなあにの疑問をよそに、父は私達に向かって

「逃げろ!早く!」

 幸いホテルの灯は見えてきており、暗闇に慣れた目なら灯なしでもなんとか進めそうです。
 オルフェウスの如く後ろを振り返ることなく、一目散に走る兄弟と母。
 ありがとうおとうさん。さようならおとうさん。
 あなたの残した熱い想いをかばんに詰めて我々は今も生きています。
 まあ我々がホテルに逃げ込んですぐ、父も無事に帰ってきたわけですが。
 
 あにの、やっぱり父は強かった。お父さんありがとうの話でした。

 十数年後、会社帰りに犬に噛まれ帰ってきた時
「平成の!? 東京の!? ど真ん中で!?(新木場周辺だったのでど真ん中ではない) 犬に噛まれる!? 藤子不二雄の漫画の世界の話じゃなくて!?」
ってさんざん大笑いしちゃってゴメンネ。
 でも、狂犬病のこととか考えると、わりと本気でピンチでしたよね。無事でなによりでした。

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