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SSS第34弾『ヘンリー五世』は予習いらず!

彩の国シェイクスピア・シリーズ第34弾『ヘンリー五世』
観てきました。

(あらすじは、サイトより抜粋)

父ヘンリー四世の死とともにハル王子は新王となり、放蕩の限りを尽くした若い時代とはうって変わり才知溢れ尊敬を集めるヘンリー五世に成長した。フランス皇太子からの挑発を受けた新王は、ついにフランスへの遠征を決意する。勇猛果敢な新王のもと、意気揚々と進軍するイングランド軍。敵を迎え撃ち壊滅させようと、うずうずしているフランス軍。巻き込まれていく市民たち。"名誉“の名のもと、戦いは悲惨なものとなっていく。圧倒的な兵力で押し寄せるフランス軍に対し、瀕死の状態のイングランド軍。名君ヘンリー五世はこの窮地に何を考えるのか。どう立ち向かうのか。この大戦争は人々に何をもたらすのか――

すごくわかりやすい!
予習なしに見れるシェイクスピア、しかも歴史劇でってすごくない?
もし、他のシェイクスピア劇も知らず、本も読まずに観て、「わからないなー」と感じたとしても、さっと予習したくらいでは、きっとわかりません。
(地理的なこと、歴史的なこと、人間関係)

人間関係は、昨年(2018)、新国立劇場で行われた同じ『ヘンリー五世』の図がわかりやすくなっています。(「あらすじ」の下の人間関係図)

こちらも重厚さを持ったいい劇でした。
衣装も歴史劇を感じさせて、よかった。

客の間口を広げている

歴史劇、しかも、続きものときたら、わかりやすいわけがないとも思うんですが、前段の『ヘンリー四世』のハル王子(後のヘンリー五世)の奔放さは、幕が上がった後、映像として見せてくれます。

そして、そういう時代は卒業して王になったんだよ、ということを観客に見せるため、『ヘンリー四世』でハル王子を助けたフォルスタッフ(吉田鋼太郎さん)とハル王子の別れのシーンも、用意されています。

あのハル王子が、王として静々と行進しながら、舞台に入ってきます。

王は、行列の真ん中にいて、行列から離れた場所にいるフォルスタッフ(吉田鋼太郎さん)に声をかけます。王の口から吐かせます。もうそういう過去とは決別したんだ、と。

観客に劇を楽しんでもらう

シェイクスピアの劇には、元々、客席を巻き込む工夫が潜んでいます。
狂言のように、ここは、どこどこです。また、いまどういう時間帯かセリフにひそませます、客への呼びかけもそう。

『ヘンリー五世』でも、戦場や場面転換が多いので、案内役(吉田鋼太郎さん)が「みなさんの想像力をお借りします」ということを何度も言います。
(本にも、その通り書いてあります。“彩の国さいたま芸術劇場”とは書いてないけど)

実際には、本の説明に頼っては、なかなかイメージが難しい。

実際、『ヘンリー五世』は、観客の想像力に頼ってない!

照明によって、教会と見せたり、雨を降らせたり。どういった場所か一目でわかるようになっています。音、音楽も、どういうシーンかわからせるようにしていました。こういうわかりやすさは、テレビっぽいですね。

そして、客席を巻き込む感がすごい。客席も舞台として使っていました。
場面が移るとき、たくさんの役者さんが、一階席の階段を上り下りします。
(よく転ばないなぁと毎回思うやつ)
どのシーンでも、何とか客席を巻き込めないか、考えれて作られていたように思います。

案内役の吉田鋼太郎さん、持ってくなぁ(笑)。
ちゃんと客席に残した笑いや熱気は、そこで回収して、次の場面に移る必要はあると思うけれども、笑いとりすぎじゃないですか??
役者として出てたら、ずるいな、とも思っちゃいそう。

戦争のこと

『ヘンリー五世』は、単にヘンリー五世が偉大だ、という劇ではありません。
それは、いろんなものを犠牲にしたから、名を残したということです。戦争を生々しく表現しています。

戦場にいる若い少年兵が、すでに倒れた兵を何度も刺すシーン、
戦で盗みを働いた兵を処刑する(絞め殺す)シーン、は実に生々しかった。

『ヘンリー五世』では、戦の合い間に兵たちがおどけたり、はしゃいだりします。実際の戦場でも、明日死ぬかもしれない状況で、そういうことがあることはあるでしょう。そして、そういう場面はきっと現実の世界より明るく映る。

特に、今回、そういう役回りのフルエリン:河内大和(こうちやまと)さんが、異常に活躍!やり過ぎじゃね?というくらい。あぁ、河内さんが暴れまわった後のフランスの王宮のシーン、ネギ臭かったろうな・・
(今回、フランス王役の横田栄司さんが、昨年の新国立劇場の『ヘンリー五世』のフルエリン役でしたね)

でも、それに印象を引きづられては、戦の重みが薄れてしまう。
観終わったときに、重苦しいシーンは、忘れてしまってもいいかもしれませんが、犠牲を伴った戦争だったということは、記憶にとどめたいという思いがあったんでしょう。

そして、戦は華々しくもある。
王や諸侯の殺陣は、かっこいいというより、歌舞伎のようにどのシーンを切り取っても絵になるような殺陣。

先ほど書いた一階席の移動がすごい!

装置がすごい!!
あの装置作った人、企画して設計した人、すごい。
あれで、戦場の場面が、多面的に見えたように思います。

ドラムがすごい!!!
これは、間違いなく観に行ってよかったと思った一つですね。

最後、イングランド軍が勝ったとき、王を取り囲むように全員で並ぶ感が、記念写真みたいでしたね。あー、劇場内写真NGだけど、写真撮りたい〜、インスタ上げたい〜
って思わせたところまで含めて、観客を巻き込んでました。

役者さんたちもいい!

どの役者さんもよかった。
主役の松坂桃李さん、悩める王でしたね。すごい!

周りの役者さんの安定感、躍動感が素晴らしかったです。

ん?誰だろう?と思ったチラシの表に名前のなかった役者さんでは、以下の方のお名前は覚えておこうと思いました。

グロスター公爵:鈴木彰紀(すずきあきのり)さん
ウィリアムズ:續木淳平(つづきじゅんぺい)さん

来年の『ヘンリー八世』も楽しみです!


いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。