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藤田和日郎先生に学ぶ、作品づくりで大事なこと。

『まんが未知』

毎週水曜25時56分、テレビ朝日で放送されている『まんが未知』。
ハライチの岩井さんと、声優の花澤香菜さんが司会の番組です。

“漫画好き芸能人たちが書いた原作を漫画家が実際に作品に仕上げる番組(まんが未知 | wikipedia)” だそうです。

たまたま見た回は、「宮下草薙」の宮下さんが漫画の原作、漫画家を目指す実の弟さんが作画を担当し、ファンタジーの世界を舞台にした少年漫画を描いて、少年誌連載を目指す企画でした。
(弟さんは、過去、担当編集さんがついたことがあるそうなので、準プロといった実力)

過去の放送回で、一度、小学館に持ち込んだものの、編集者に「おもしろさは普通」と厳しいことを言われ、数週間かけてネームを書き直したそう。それを再度、小学館に持ち込む前に、大物に意見を伺おうという回。

なんと、ご意見を伺う相手は、『うしおととら』や『からくりサーカス』の藤田 和日郎(ふじた かずひろ)先生!

一線で活躍される漫画家の方の意見は刺さります!

先生は、ずけずけ言うタイプではありません。これまで多くの人に読まれる作品を作ってこられた方の説得力のあるご意見が刺さる、重い、ということです。

番組を見るとわかりますが、すごくお優しい方です。本気で向き合いたいという宮下兄弟に対して、傷つけないように一つ一つ言葉を選ばれて話をされます。藤田先生からの問いかけも、その問いかけの意図を丁寧に説明してくださいます。

藤田先生のことが好きになり、そのお人柄を尊敬した回でした。

基本、漫画の描き方として、お話しされていましたが、物語を作る人、文章を書く人、コンテンツを作る人に参考になる話だったと思います。

「そんな俺がネームを見ます」

藤田先生は、ネームをチェックする前、アイスブレイクをするように「好きな映画」について宮下兄弟に話をふりました。それにも理由がありました。ただ緊張をほぐすためではありません。

「好きなこと」はそれがあなたを表すから。

特にメジャーな映画ではなく、マイナーでも、自分が本当に好きな映画を聞きたいそうです。誰かに馬鹿にされても、こういうものが描きたいという源泉が大事。それが好きなことに表れる。

作品やネームをチェックしてくれる編集者は、漫画家の私生活なんかに興味はない。作品で勝負しているから。だから嫌なこともストレートに漫画家に言います。

でも、指摘を受け取る側は、
「あんたは俺の何を知ってるの?」
という気持ちになる。直す気もなくなる。

でも受け取る側が、「あんたは俺の何がわかるの?」という気持ちになってしまったら、編集者のいうことが、ただの「オーダー」になってしまう。命令に聞こえてしまう。

だから藤田先生は、こういう会話しないと他人のネームは見れないと言います。何が好きかもわかんないやつの言葉は頭に入ってこない。だから、好きなことを最初に聞いた、と。

「好きなものは何か? を聞いた俺がネームを見ます」

という先生の言葉に背筋が伸びます。

第一話ですべきこと

まず、ネームを見た藤田先生の最初の感想。
少年漫画を描くなら、読者層だった自分が中学時代を思い出そう。ちょっとおもしろくなくなったら、飽きたでしょう?
まず発信者が、元気ないといけない。やる気を前面に出す。
俺の漫画で喜ばせてやるぜ! 釘付けにしてやるぜ! これすっごいおもしろいでしょう!

そういう気持ちを出していく。そのためにテンション上げていこう、
ということでした。

そうですよね。
少なくとも自分がおもしろくないと思っているものは、おもしろくならない。自分が頭の中で感じるおもしろさを、技術がなくて、伝えられないことはあります。でも、おもしろさを直接伝えられなくても、おもしろいだろう? という問いかけがあれば、描く線に勢いも出そうです。

そして、このコメントの後、
「メモしなくていい? これからたくさんしゃべるけど」
と挟んでくださる。メモしろよ、ということではなく、ちゃんと伝えるから、覚えておいてほしいけど、たぶんメモしないと全部覚えてられないよ、というお気遣い。

もう藤田先生についていきます! って感じになります。
でも、だからこそ、聞き逃しちゃいけない、という緊張も生まれます。


宮下兄弟が見せたネームは、連載第一回の予定のネームでした。
先生は、第一話ですべきこととして、ある程度、話が完了すること、つまり読み切りとして成立させないといけない、そして、最大の目的は「主人公を好いてもらうこと」だと言います。

読んでみて、この主人公いいよね、という気持ちになったら、次に読んでもらえる。好きになるから、この主人公の次が気になる。キャラを好きになると、物語に興味を持ってもらえる。

第一話は、起承転結があって、主人公を好きにする。

これに尽きます。

キャラづくりのコツ

話を作る時、気を付けることは、ストーリーの説明ではなく、主人公のがどういう性格かを伝える。

こいつ、こういう顔するのね、
こういうおもしろいやつなのね、
ビール飲む、闘う、魔法を使う前の動作、説明ではなく、行動で読者にキャラの性格を理解してもらう。

作画ではない原作者(宮下(兄))に伝えられたのは、設定で人はおもしろがってくれない、ということでした。人の心を引っ張る仕組みはいろいろある。「謎」で引き付けるパターンもある。この「謎」が気になるから、読んでやるか? ということもあります。

でも最初に考えるのは、キャラ。
そして、特に主人公には、多少の善性、善なる部分があったほうが読者としして追いかけやすい。ただ『進撃の巨人』のように善性がなくても、謎で引っ張っていくことができる漫画もある。でも基本はキャラ重視です。

で、大事な大事なキャラづくりのコツが3つ語られました。

その1:ギャップ

魅力的に描く時に、
美少女なのにガンダム好き、
強いのにこういう弱点ある。
ギャップに人は魅力を感じやすい。

その2:キーワードと捉える

描き手が、頭でキャラの魅力を理解してないといけない。
「キーワード」でそのキャラ捉えられているか?

何でも受け止める委員長タイプの女の子がいたとする。周りにもとても慕われている。古い言葉の例だけど「肝っ玉母さん」としておけば、キャラとシーンがつくりやすい。

「けんかっ早い弟分」
けんかっ早いはもちろんだけど、「弟分」ということでその気質が伝わりやすい。

藤田先生の作品で言えば、『からくりサーカス』のギイは、「クールだけどマザコン」。

キャラを言葉で捉えておけば、ありえないシチュエーションでもキャラを動かすことができる。「クールだけどマザコン」な人が駄菓子屋をやったらどうなるか、なんてことを考えても、キーワードで捉えているので、そのシチュエーションでキャラを動かすことができます。

その3:「なんで?」を繰り返す

さらに、キャラをどうやっておもしろくするのか? 絶えず「なんで?」と質問する。

宮下兄弟がネームで見せた話にある主人公が言う「勇者になんかなりたくない?」という台詞。
「なんでなの?」
理由の全てが漫画に出なくてもいい。

若い漫画家は、例えば、「男勝りのヒロイン」というキャラを作れば、それを描いて満足しがちだけど、
「なんで、男勝りなの?」
それを問うことで、キャラの性格がどうやって形成されたのかが出てくる。それがエピソードを生むし、キャラの行動の理由になる。
説明ではなく、行動で読者にキャラを理解してもらう、という話にもつながります。

物語の作り方

藤田先生が若い頃、編集者の人に、
「ドラマって人の心が変わること。
 それ以外はドラマじゃない。それができていないならネームは見ない」
と、言われたことがあるそうです。

漫画を描いていると、どこで終わらせたらいいかわからなくなる。
不安だから、足したり、説明を増やしてしまう。しかし、読者の心が変わったな、という場面が作れれば、読後感はできる。

主人公には欠けたところがある。その欠けたピースが埋まると大団円になる。『うしおにとら』では、少年「うしお」と「とら」という化け物が一つになって、悪い化け物を倒すことができる。だから、コンビを組む話を一話目に持ってきた。

キャラのギャップで考えてみるのも手だ。藤田先生は、宮下兄弟が書いたネームを見て、下種な人間が化け物になってもギャップがない、という指摘をされた。読者が好きになった人間が化け物になるから惹きつけられる。ショッキングさは、物語にのめり込むための掴みに使える。

宝物のようなすごいアイデアを最初にもってこれるか?」

漫画家として、一番自信を持ってるところはどこか?

藤田先生は、バーベキューの串焼きの話をされました。
目の前に串焼きがある。食べようとしても、先に、野菜、野菜が刺さっていて、なかなか肉にたどり着かない。まどろっこしいことはやめて、最初に肉をもってくる。

私が仕事で関わるWebで公開する記事は、大事なことは最初に言わないと離脱されると言われてますが、それは漫画も同じだということです。漫画は本・雑誌だから簡単に読み飛ばせてしまう。アイデアを取っておいてる間に人気が無くなることだってある。大事なアイデアを出し惜しみせずに、表に出す。物語を始める基本です。

その他、藤田先生のメッセージたち

とくに漫画家に向けたメッセージでしたが、先生は本を読めと言いました。「漫画好き」の読者は、漫画を読んで、この表現は他の漫画に似ている、このアニメに似ていると見透かしてしまいます。好きだからといって、漫画家が、漫画やアニメだけを摂取していると、読者をアイデアで先行できない。だから、本を読もう。

他にも、作画の宮下(弟)さんに、描きたい大ゴマを決めた後、その手前のページなコマを削る作業の重要性についても語られました。具体的に、複数のコマを1コマにまとめること、台詞を短くすることなど、アドバイスをされていました。

もうずっと藤田先生の話は聞いてられる感じです。でも、1時間半くらいでよかった。

もう、正直お腹いっぱいです。


私には、去年(2021年)の秋ごろから、書きかけている記事が手元にあります。それはある人に注目した記事です。何を書けば、おもしろく読んでもらえるかずっと悩んでいます。長くても5千字程度の記事なので、このnoteくらいのボリュームです。あくまで、登場人物はフィクションという体で、ある職業の魅力を伝えたいと思ってますが、なかなか書けない、登場人物が魅力的に見えない。

今回の藤田先生のお話を聞いて、キャラのことを説明せずに行動で表すことを考えてみよう、キーワードで捉えて、いろんな仕事のシーンでキャラを動かしてみたいと思いました。

素晴らしいお話でした。
先生のお話を自分の仕事に活かしたいと思います。
ありがとうございました。

いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。