水商売でのストーリー

風俗産業には足を踏み入れなかったものの、水商売にはとてもお世話になった。

この世界には、水商売(ガールズバー、スナック、キャバクラ、ラウンジ等)専用の派遣サイトがある。
夜職版のタイミーといった感じだ。わたしはそこに登録していた。
また、優良なスカウトさんから自分に合いそうなお店を紹介してもらい在籍したりもした。

一部では崇拝されることもあるが、世間一般的にはあまり良いイメージを持たれていない水商売。でも当時の私には世間様の目を気にする余裕も貯金も、高給を得るための技術もなかった。
なるべく短期間でまとまったお金を得るための選択肢はどれだろう?心の中ギリギリのところでラインを引く。性風俗産業は身も心も持たない予感がするためNG、水商売は心と肝臓は削られるかもしれないけどギリOK。

本当はね、何もしなくてもある程度自己肯定できる生活が良かった。貶される事ない容姿に生まれて、親にちゃんと素直に相談できて、悩むことはあれど穏便な学生生活がよかったな。でもそんなこと考えたって無駄である!!!過ぎたものやついた傷は仕方ない。
自分自身を好きになる為に、これから変わっていくぞマインドと覚悟をもってこの世界にダイブした。

ここまで読んでくれた人、今回のノートも悲痛な叫びかと思った??

実は違います。

夜の雑居ビルの中でわたしは本当に素敵な人達と出会ってきた。今回のノートではそんな世界で出会った愛おしい人達との思い出をつらつら書いていこうと思う。

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Aさん
ガールズバーで出会ったAさんは本当に綺麗な顔立ちをしていた。凛とした雰囲気、輪郭、顔のパーツ、まつ毛の先までパーフェクト。まるでフランス人形が生きているかのようだった。
わたしはわたしが恥ずかしくて怖くてAさんの隣に並びたくなかった。考え方まで芋っぽい私をAさんは親切に常連さんに紹介してくれた。

「寿司、食べなよ。」

と、お客様がとった出前の寿司をわけてくれた。

「食べれる時に沢山食べた方がいいよ!」
と心配になるほど白くて細い Aさんが言った。こっちのセリフすぎる。

たまにAさんは鋭くて何もかも見透かしそうな目でこっちを見る。何を考えているの?そんな顔で優しくされたら好きになっちゃうよ…頼むから親切にしないでくれ。
思わずわたしは「綺麗ですね」というようなことを言ってしまった。

するとAさんは「金かかってるからね」と頬に手をあてパシと叩いてみせてくれた。
すごく痺れた。文字に書き起すと若干痛い仕草は実際にはとてもナチュラルで、Aさんの格好良さと可愛さが混在するキャラクターにぴったりはまっていた。そしてその言葉はわたしに少しの罪悪感と特大の希望をもたらした。
Aさんだって”Aさんにとって”生まれながらパーフェクトなわけじゃない。美しいものは全て最初からそこにあるように錯覚してしまうけどAさんだって必死に自分を研磨していたのだ。もう名前も思い出せないけどそんな気付きをくれたAさんにすごく感謝している。


わたしの好きな映画に

「どうして神様は私たちにまず若さと美しさを与え、そして奪うんでしょう?」

という台詞がある。これに対してのアンサーが

「その2つはイコールじゃない。若さは美しいけれど、美しさは若さじゃない。美はもっと深くて複雑であらゆるものを豊かに含んでいる。」

というもの。これは自分の思っていたことを代弁してくれているような台詞だ。

「美はもっと深くて複雑であらゆるものを豊かに含んでいる。」
例え美しさが朽ちてしまっても、理想に近づこうと志した人には、美しさに由来する素敵な成分が内面に残留しているはず。その残留物もまた美しさだと言えるのかもしれないなと思う。

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みほさん
みほさんは顔がわたしの二回りほど小さく、スタイルは抜群で自分の美しさを否定しない人。そんなみほさんは見ていて清々しかった。
みほさんはキャストに対しては優しく、お客様に対しては勝ち気で、気まぐれで自由奔放な人だった。
待機席では中学生男子もドン引くような下ネタを話していたが、それがちゃんと面白くて下ネタが苦手なわたしもついつい笑ってしまう。
ある日、10個下のセフレと喧嘩をしたという話を聞いた。
みほさんは「あり得なくない!?」と喧嘩の一部始終を話した後、

「あいつエビアレルギーだから今度エビが入ったピザ頼んで食わすわ」

と言っていた。エビアレルギーのセフレをエビピザで殺そうとしているみほさん。不謹慎だけど爆笑してしまった。
わたしは中学生時代、いわゆるカースト上位の顔がいい女子からいじめられていたのでこんな面白くて優しい美女がいることに感動した。勝手に怖い人とラベリングしていたのは自分の方。外見で判断し(自分なんかは相手にされないだろう)なんて差別をするのはもうやめようと反省した。
みほさんはいつも女子校の放課後みたいな雰囲気を作ってくれて、今でもその空気感を思い出すとじんわり心が温かくなる。わたしに存在しなかった青春をくれてありがとう。

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ともさん
ともさんはアナウンサーのようなナチュラルメイク・ショートカットで、何というかきゅるんとしていた。
35歳のキャバ嬢の方なのだが本当に年齢がわからない。25歳と言われてもしっくりくる。美魔女というよりは妖精のような人だった。ベテランであるにもかかわらず謙虚で擦れないピュアな雰囲気をまとっていた。

ある日、辛いことがあって落ち込んでいると猫に話しかける時のような声で「どうしたの?」とわたしに声をかけ背中をさすって話を聞いてくれた。
ともさんは一銭にもならないわたしの話を「うんうん」と聞いてくれ、今まで触れたことのないような優しさでふんわりと包んでくれた。

ともさんはすごくのほほんとしているけど、励ます時は語気が強く説得力があった。

「ノイアちゃんは絶対大丈夫だよ。だってこんなに〜で〜な良い子なんだから!!」

時間をお金で売っているような職業なのに、なんの見返りも求めず優しくしてくれたことを思い出すと泣いてしまいそうになる。心が折れそうな時、絶対大丈夫って声が頭の中に聞こえる。わたしもともさんみたいに強くて優しい人を志している。

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ルリさん
ルリさんはとにかく気性が荒かった。お酒が飲めないわたしと、仕事のできない黒服と、お店のシステムにいつもキレていた。
「なんでこの子は飲まなくてよくて、私ばっかり飲んで売上折半になるの!?あり得ない。」と。
元ジャ◯グル東京にいたのも納得のエレガントで美しいお顔が時折ライオンのようになって本当に怖かった。
ダブル指名を受けていたので50万のシャンパンが同じ席で空いてもボトルを減らすのはルリさんで売上は折半。
体を張っている方が多く貰うべきという主張は理解できるし、怒らせて機嫌を損ねるくらいならシャンパンの売上は全額ルリさんに渡したかったがお店の都合でなぜかできなかった。

飲めない自分が情けないが、肝臓の機能ばかりはどうしようもできない。ルリさんと同じ席に着くたび機嫌を損ねるんじゃないかとヒヤヒヤした。精神が疲弊していておかしな思考回路になっていたので、頬に穴を開けてそこからチューブを通し、ドレスの裏にチューブを接続したジップロックを装着して、口に含んだ酒を流し込もうかと本気で考えていたこともあった。髪で隠せばいけるんじゃないかと。今思うとクレイジーすぎる。

上記の行動には至らなかったものの、そこそこクレイジーなわたしは無視されてもルリさんに挨拶し続けた。
うざいと思われることよりも自分が無礼でいる方が嫌だった。

「ルリさん、おはようございます。今日もよろしくお願いします。」
どんなに怒られた次の日も欠かさず挨拶した。

すると最初は冷たかったルリさんが、待機席でも話しかけてくれるようになった。

「あんた本当に芋っぽいよ、髪型もっと変えたら?」と・・・。

わたしこの人に負けない。好きになってもらえるまで諦めない。
言われたことはすぐに実行した。
たまに「そっちの方が似合うじゃん」とか「今日の服はいいね」と誉めてくれたりした。

「ドレスこういうの着た方がいいよ」

ただただ怖かったルリさんはわたしのカリスマアドバイザーになった。ルリさんのプロデュース力あってかわたしはそのお店でNo.1になるまでに成長した。

ある日、一緒に帰っているとルリさんが過去の話をしてくれた。
母親と仲が悪く16歳から水商売を始めたこと、いろんな男に騙されたこと、1児の母であること、今は母親との関係は割と良好なこと。娘のために働いていること。

「あんたいい?こうやって客からタク代もぎとんのよ。あはは!」

そんなしたたかな声を今でも鮮明に思い出す。
元々の性格のせいか、ルリさんみたいなキュートな悪魔にはなれないけど、我儘に自分らしく生きているルリさんは眩しくて忘れられない人。

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この人達と出会えたことはわたしにとってとても有意義だった。
トラウマを克服しようと必死にもがいて良かった。外見を変えようと働き始めたはずなのに内面の方が成長したように思う。夜の世界に入って擦れるどころか今までの何倍も心が強くなった。芯から鍛えられた気がする。
本当の美しさとはなんなのかということについても長く深く考えることができた。

表面的な美しさはいつか朽ちるかもしれないけど、美しくあること・自分が好きな自分であろうとすることによって外見的な美しさは消えても豊かさは内側に残り続けるはず。少なくとも諦めている人よりはよっぽど。

ただ、もう夜職に戻ろうとは思わない。一度踏み込んだら抜け出せないと聞く夜職をわたしはサラリと辞めた。
心と時間のゆとりにはお金以上の価値がある。さまざまな目的を達成し、今度は健やか且つ穏やかな生活が欲しくなっただけ。料理の作り置きをして、昼過ぎにのんびり働きながら皆の話を聞いて、夜音楽に触れることができる今の生活が本当に好き。

まとめ
札束が渦巻く業界で、無垢な感情に触れる事ができたから、傷つけられても裏切られても人を信じる心が懲りずにいつまでもあるんだな。すごくやっかいで素敵なものを抱えてしまったよ〜〜

おしまい


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