見出し画像

星野源が結婚し、私は自分の夢に気がついた。

「星野源が結婚」

喫茶店の窓側席、ふと開いたInstagramで私は彼の結婚を知った。ちょうど母と田村正和さんがお亡くなりになった話をしていたときのことだ。一目でいいからいつか会いたいと思っていた方のひとりが亡くなったことに、私は時間の有限さを感じ、焦っていた。

田村正和さん、細野晴臣さん、下野紘さん、星野源さん、氏田雄介さん、ぶんけいさん、ポインティさん、崎山蒼志さん……一度でいいから直接お話をしてみたい方々、いつか一緒にお仕事をしてみたい方々、尊敬している人たち。彼らと肩を並べ対等に渡り合うには、私はあまりにも幼く、平凡で未熟だった。だからこそ、もっと急いで一人前にならないとと未来に向けて決意を固めていた。


そんなとき、私は源さんの結婚を知った。

突然のことで驚いてしまったのか、私はただ泣いた。何が何だかよくわからないまま、しくしく泣いた。

ものすごく嬉しいはずなのに、胸の糸は私を締めつけた。悲しい気もするし、悔しい気もする。それでも喜んでいる気持ちもある。それはいままで感じたことのない感情だった。



源さんが好きだった。その好きは恋でも愛でもなく、尊敬だった。おそらくだが、私は源さんを敬愛していた。

源さんの音楽が好きだった。
ポップな曲調のなかに香る、物悲しさに惹かれていた。明るいメロディをなぞるザラついた声からは「僕らはひとつにはなれない」だとか「わかり合えないから」という言葉が紡ぎ出された。大ぴらに言えないような変態チックな物語も物悲しい現実も、こんなに愛されるものに変化できるのかと感動し、私は夢を見た。

源さんの文章が好きだった。
地味で素朴な文体からは、彼のあたたかい人柄が滲んでいるように見えた。彼の「洗面台下ビショビショ問題」や誰かとの何気ない会話を読むたび、幻だと思っていた彼もひとりの人間なんだと思った。少しだけ彼の実像部分を捕らえられたような気がし、私はいつかこの方と肩を並べたいと将来に向けて意気込んだ。

源さんの演技が好きだった。
実のところ勝手に恥ずかしがったあまり、私は彼の演技を最近まで見ることができなかった。それでも思い切って視聴した『プラージュ〜訳ありばかりのシェアハウス〜』で彼の自然で飾らない演技を目の当たりにし、それ以降他の出演作品も見るようになった。歌手、文筆家、俳優という輝かしい肩書きがずらりと並ぶ彼のWikipediaは、やりたいことを一つに絞れず悩む私に勇気を与え、私は再び夢を見た。

彼のライブが好きだった。
彼のライブに始めて行ったのは2019年の『POP VIRUS』大阪公演。彼が登場したとき、私は興奮のあまりすでに号泣していた。開始早々泣いている自分に若干引きつつも、大変綿密に作られたライブの世界観に圧倒され大満足の3時間だった。『POP VIRUS』の公演は合計2回行っている。最終日がちょうど私の誕生日だったので、これは運命だと声を張り上げながら応募ボタンをクリックした。20歳の誕生日が一人ネットカフェになっても、その日の私はワクワクと達成感で満たされていた。狭い個室の中で、私はライブ企画のひとつである、ニセさんとのコラボ演出の仕掛けを解き明かしたことに喜んでいた。



源さんは私の憧れだった。


私は源さんになりたかった。



将来の夢や進路を聞かれたとき、一度だけ「星野源になることです。」と言ったことがある。私のやりたいことは、ほとんど彼がやってしまっていたからだ。

小学生の頃、私はゲーム音楽に携わる仕事がしたかった。「ゼルダの伝説 風のタクト」でゲーム音楽に興味を持ち、そのまま音楽全体が好きになった。少し形が変わっても、その夢は今も私の中で虎視淡々と機会を狙っている。

音楽以外でいうと、私は踊ることや演技することが好きだった。文章を書くことも好きで、面白いことを考えることも好きだった。だから全部仕事にしたいと思っていたし、今でも思っている。

源さんは私の夢をほとんど叶えていた、音楽の仕事をするかたわら、文筆家、俳優としても名を馳せた。MVやライブではマリンバで華麗なパフォーマンスをし、キレの良いダンスも披露した。それでもその勢いは止まることを知らず、遂にはゲームソフトに自身の音楽が収録され、任天堂のCM音楽も制作していた。

彼の活躍を応援しながら、私は知らないうちに彼に自分を重ねていた。自身のやりたいことを次々と叶える彼を、あたかも自分の分身のように見ていた。今思うとものすごく身勝手で恥ずかしい行為だったと反省する。

私は彼を好きなあまり、尊敬するあまりにいつの間にか自身の夢まで彼に託してしまっていたのだ。


「星野源」が好きだった。

「源さん」が好きだった。

好きだった。尊敬していた。投影していた。


結婚したと知ったとき、私のなかで何か付き物が落ちた感覚がした。彼と私は全く違う別の人間なのだとやっと気がついた。分かっていたけれど、分かっていなかった。嬉しいとき、辛いとき、苦しいとき、いつも寄り添ってくれていた「星野源」は幻だった。私はようやく現実を見ることができた。

私は今日「星野源」のあとを追いかけることを止める。彼を「好き」という気持ちは純粋な好意ではなかった。

これからの私は新しい好きを彼に抱く。「星野源」ではなく星野源を好きになる。誰かに自分の夢を託すなんて身勝手な行為はもうやらない。そうだ、この夢は私ものだった。

最後に改めてこの場をお借りし、一言申し上げて締めとさせていただきます。

「星野源さん、新垣結衣さん、ご結婚誠におめでとうございます。お二人の幸せを心から願っています。」


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?