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良い休日には、良い音のする餃子が必要だ

ジューーーーッ!
ジュク ジュク ジュク ジュク
パチパチパチパチッ

餃子はとにかく音がいい。
作るときも、食べるときも、この音のために餃子を食べることを選んだんだなと、しみじみ思うほどに気持ちいい音がする。

そして、この時ばかりは普段ビールを飲まない私もビールが飲みたくなる。生ではなく瓶である。

ゴッゴッゴッ・・・ゴキュン

サウナよりも何よりも、熱々の餃子を食べる方がよっぽど飛ぶし、整うと思う。いつもは強気な発言を避ける自分だが、この時ばかりは流石にそう言わざるを得ないレベルでテンションが上がってしまう。

🥟 🥟 🥟

東京に出てきて1年目の頃、近場に餃子をメインで売り出しているお店がないことに衝撃を受けたことがある。当時は私が東京に詳しくないからかと思い「歩く食べログ」の異名をもつ、会社の食通な先輩にも聞いてみたが、紹介されたお店は全て餃子が美味しいというより、中華全般が美味しいお店ばかりだった。

というかそもそも、周囲のほとんどの人が夜ご飯何食べる?という質問に「餃子」という選択肢すらないようだった。

おかしい。大学の頃だったら、誰かが「餃子食べたい」と言うと全員が「行こうぜ!」ってノリ気だったのに。東京の人は違うのか? 

正直、この「東京に餃子メインのお店が少ない問題」は、東京に来て驚いたこと第3〜5位に入るほどの衝撃の事実だった。

餃子はご飯と酒のアテの両方の性質を持っていると思う。だからか、大学時代の夜ご飯は、かなりの確率で餃子屋に行っていた。今思うと大学のグループには、お酒を飲みたい派も飲まない派も、どちらでもいい派も、均等な人数でいた。なので、全員が平等に楽しめるご飯屋となれば、きっと餃子屋が一番ニーズにはまっていたのだろう。

🥟 🥟 🥟

餃子、餃子、餃子・・・

食通の先輩に相談した以降も、なかなかピンとくる餃子屋は見つからなかった。一度だけ行きつけの美容室でおすすめの餃子屋を教えてもらったこともあったが、検索してみると焼き餃子ではなく水餃子の店で、もう本当に東京では私の食べたい焼き餃子は食べられないのかもとさえ思った。

薄い皮に包まれ、肉汁あふれる、鉄板の熱さがそのまま伝わるような餃子を食べたい。強火で熱された鉄板で弾ける油、羽根用の水溶き片栗粉の水分の蒸発、こんがりとしたきつね色の焼き面、とにかくいい音がする餃子を食べたい。食べたすぎる。

と仕事や日々の生活の合間に思い続けていると、ある日スーパーの冷凍食品コーナーで冷凍餃子が安く売られているのを見つけた。

「めっちゃアリ!!」と心の中の全私が大喝采した。

冷凍食品の餃子は盲点だった。もともと冷凍食品とは縁のない家だったのも相まって、このときになるまで思いつかなかった。しかもパッケージを見る限り、かなり美味しそう。写真のあふれる肉汁が私の脳を刺激する。あの時は焼き音の空耳までしていた気がする。

興奮で胸を高鳴らせながら、冷凍餃子と2本の缶ビールをカゴの中に放り込み、私は一目散で自宅に帰った。

🥟 🥟 🥟

その日は休日だった。午後4時ごろ。ここまで来たら、入念に準備し楽しみたい。個人的にショートケーキの苺は最後に食べる派。楽しみは最後にとっておきたい。したがって、ビールと餃子は本日の最後のお楽しみイベントとなった。

決意が固まれば、あとは黙々と目的に向かって走るだけ。浴槽を洗い、お湯を張る、待っている間に棚の奥からビールジョッキを出し、冷凍庫に入れておく、缶ビールは冷蔵庫で一番冷える位置に突っ込む、「お風呂が沸きました」の案内が聞こえれば、さっさと浴室に行き、身体を洗い、じっくり肩まで湯船に浸かる。

カシュッ 
ゴッゴッゴッ・・・
ゴキュン

お風呂上がりのビールは本当に美味しい。少しフライングでビールを飲みつつ、冷凍庫から餃子を取り出し、フライパンに並べる。今時の冷凍餃子は水も油もなしで焼けるらしい。素晴らしい技術である。きっと涙なしでは語れない。

焼ける餃子を眺めながら、再びビールを胃に流し込む。自宅呑みは酔いすぎた際の心配をしなくていいのが魅力である。

ジューーーーッ!
ジュク ジュク ジュク ジュク
パチパチパチパチッ

焼けた餃子を熱々のフライパンから直食べするのも粋ではあるが、今回は焼き面も見たかったので大皿に出すことにした。冷凍庫から冷えたジョッキを出し、缶ビールを移し替え、再びキンキンのビールを錬成させる。待ちに待った、焼き餃子だ。

パリッ ザクッ

今時の冷凍餃子ってこんなに美味しいのか? 音もよければ、肉汁も皮も美味しい。ただただ感服するしかない美味しさ。「優勝」という文字が脳裏を駆け巡る。食ってみな飛ぶぞと言わんばかりの暴力的な旨さ。

熱々の餃子とキンと冷えたビール、餃子のいいところはペアリングがわかりやすいとこも含まれているのだろうなとまた一つ餃子の素晴らしさを認識した。

🥟 🥟 🥟

それからというものの、冷凍餃子パーティーがひっそりと私の趣味に加わった。ひっそりな理由は、人に言えないほど恥ずかしいとまでは思っていないが、冷凍餃子と缶ビールで大歓喜している自分が少し大胆すぎる気がしているからだ。それでも、その背徳感がまた美味しさのスパイスになってしまうから冷凍餃子はすごい。

そう言えば、最近は冷凍餃子パーティーをしていない。また食べたいな、冷凍餃子。一昨日からダイエット始めたばっかりだけど。あすけんさんに怒られるかもしれないけれど。それでも、餃子にはあの音と味でしか補えないものが存在しているのである。

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