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【エッセイ】別れるときほど、君のことを想っていた

あなたには好きな人を傷つけようとした瞬間はありますか? その瞬間、なにを考えていましたか? そろそろバレンタインということで、今回は少し苦い恋の話をしてみようと思います。

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恋に落ちたとき、付き合い始めたとき、はじめて手を握ったとき、くだらない冗談で笑い合ったとき、隠れてこっそりキスをしたとき、夜中のコンビニから帰るときに、雨の日にわざわざ迎えにきてくれたとき。

恋人のことを1番考えていた瞬間って一体いつだったのだろう。


これは私の話なのだが、前の恋人と付き合っていたとき、私の世界は彼を中心に回っていて、何をみても「これは彼が好きそう」とか「また彼と一緒にやりたい」だとか考えていた。そんな私の彼専用思考ルートの精度は凄まじく、当時はどんな単語を言われても3連想以内に絶対彼の話に結び付けられるほど鍛え上げられていたくらいだ。

それでも、恋人のことを1番考えていた瞬間は、そんな連想ゲームをしている瞬間でも、記念日のプレゼントを選んでいたときでもない。それはきっと、別れる直前だった。


別れるか否かの話し合いで、ふと漏らした彼への不満が、次第に彼を傷つける言葉へと変わっていったことがあった。

不満を口に出したのは、もし付き合い続けるのならに対する交渉材料にするつもりだったからだ。それでも一度口を突いて出た不満は、いかに私が辛かったかを伝えるため暴言や嫌味に変化してゆき、ヒートアップした私は口論のなかでいかにして彼を傷つけられるかに注力していった。

ずっとそばで見ていたからこそ、彼の気にしていることをよく知っていた。ずるいと分かりつつ、私は彼の心のやわらかい部分を丁寧に刺していく。私が言い放った後に彼がどう言い返すのか、いつ黙るのか、些細な仕草まで手に取るようにわかるような気がした。

目の前の彼をできる限り深く傷つけてやりたいと思ったのは、自身の辛さや苦しみを教えてやりたかったからじゃない。どうしても彼のトラウマになりたかったからだ。私は苦い存在でもいいから、とにかく彼の永遠になりたかった。

今思うとなんてわかりにくい愛情表現なのだろうと思う。けれど、あのときの私にはそんなことを気にする余裕などなかったのだろうなとも思う。


結論を言うと、「前の」と言っていることから察している人も多いとは思うが、彼とは話し合いの末、別れるに至った。今となっては、それはそれで割と幸せな生活を送っている訳だが、それは別のお話にてぜひ。

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相手を傷つけるために吐いた言葉は、好きな花の名と同じだと思う。それは、きっと「いじらしさ」で包んだ遅効性の毒だ。「お願いだから忘れないで」という願いから生まれた希望と呪いだ。毎年変わらずに咲く花や彼自身が自分の弱さと対峙する度に思い出して欲しいのだ。

相手のことを考えて放った暴言は、あなたをしっかり見ていたこと、あなたのことを考えていたこと、あなたのことを全身全霊で好きだったことを証明する方法だった。だからといって、大切な人を傷つけることが正当化されるわけではないけれど。

別れるときほど、あなたのことを考えていた。愛について考えた。あなたのこと好いていた。永遠の存在になりたがった。

彼は今、私のことを思い出すことはあるのだろうか。私は今も、慣れない暴言を吐いたあの日の衝動を覚えている。

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