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おへんじ

先日公開した記事に私信をいただきまして、読んでみたところ前の記事の補足に良さそうだなと思ったので、記事化しようと思います。

こちらは前ほどきっちりできそうにないので、態度がなれなれしくなったぞと思うかもしれませんが、前が多くの人に長く届いてほしいと思って書いたせいできっちりしすぎてただけで、こっちが標準です。

目次もないです。でも前と同じくらい文字数があるので頑張ってください。

ここで示されてるデータでは確かに「人数の増減」は現れてるんですが、「売り上げ」とか「実売数」っていう商業的成功の目安が一切現れてないんですよね。
単なる趣味のレベルとして一次創作をしている人はもちろん増えてはいるんですが、その中で「対価をもらって儲けを出して副業と言えるレベルまでやってみたい」というレベル感の作家ってそこまで多くはないのでは? という疑問です。

二次創作が人気なせいでオリジナルが割を食っている説を裏付けるデータも特に現わされた覚えがないんですが、まあそれは置いときます。

直接過ぎていやらしいかなあと思って前記事で出さないでいたんですが、コミティアでは毎回サークル向けの販売冊数集計があり、ティアズマガジン上(サークルカタログ)にて前回開催分のデータを公開しています。

ちょうど手元にコミティア129(2019年8月開催)の数値があったので、手入力してグラフ化しました。

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販売冊数別 割合
0~19冊 51.79%
20~49冊 24.05%
50~99冊 13.06%
100~199冊 7.63%
200~299冊 1.97%
300~399冊 0.81%
400~499冊 0.35%
500~999冊 0.23%
1000冊~ 0.12%
合計 100.00%

※「ティアズマガジン130」45ページよりデータ抜粋し、記事作成時に再計算しました。

この回のサークル参加は4017サークル。アンケート回収率は全体の24.6%、そのうち販売冊数について記載があったのは総サークル数の21.5%とのことです。

5000サークルを超えることも珍しくなくなった最近のコミティアでは中規模というところ。これらの販売数を少ないとみるか多いとみるかは、おのおのの判断にお任せします。

ただ、商業が一定量のライン上にきたものを拾って皆の力でさらに引き上げる構造だとすれば、アマチュアというのは世界の最下層に足つけて立っているものなので、「下が低いぞ!」と指摘されても「アマチュアとはそういうものなので」という返答になると思います。

元々そういう場だったところに、昨今の業界事情から商業的に活用せんとする人が増える傾向が強まりつつある……というだけで、この場は本来そういうものではありません。

それにしても、副業といえるほどの作家レベル云々については、現状ではコミックマーケットやコミティアのサークル(二次創作・オリジナルを問わない)でも大多数がなんかそんな感じでふわっとしてると思いますよ。

儲けが出ているサークルはほんの一握りとはよく聞くと思いますが、コミケは国内でも最もサークル数が多いイベントなので「一握り」の数は多いものの、「一握り以外」も数の上では最も多いイベントなので。

またそのうえで、近年は収益性の高いアダルト分野では、前記事でも触れた通り電子媒体が好調です。ですので、コミケやコミティアでオリジナル同人誌を出して、同じ内容を電子媒体でも販売するというコンボもあってオリジナル・エロの組み合わせがいま人気なんでしょうね。

例えば実際の話として、自分の友人でもずっとコミティアで一次創作の本を出していた作家がいました。
彼は売り上げが少ないながらも楽しそうに活動していたんですが、あるとき「試しに二次創作をコミケで出してみたら、今までの一次創作より跳ぶように売れた」と嬉々として話してくれました。
彼はそれ以来、二次創作を中心として活動するようになり、儲けも出ていて、一次創作をすることはなくなりました。
こういう話って、このデータからは一切見えてこない実情なんですよね。

ケース1でいいなら、先の記事の通り私自身が二次創作で活動を始めて今は5年間もオリジナル同人で活動している件で相殺できるんじゃないか?(作家業として独立できるわけじゃないですが、継続的に活動する分には困ってないので)と思いますが。

二次創作でファンを稼いだんだろう! といわれそうですが、私個人は二次創作で活動していたころから売れてなかったし、一番売れなかったジャンルよりかはオリジナル同人のほうが反響が良いので、作家性の適正でいうと悪くないんじゃないかと。

また二次創作の場合、オリジナルとは異なる「流行」という要因があるので(このあたりは前記事のサークル数推移からも見て取れると思います)、オリジナルからどこかの二次創作ジャンルに移動して一時的に大きく評価されても、その方が同じジャンル内で継続的に同じ数値が出せたのかというと、勝手ながら難しいんじゃないかと想像します。

「人の行き来」があるのは事実ですし、人脈や環境、原作との相性などによっても儲けが出なくても長く同じ原作で同人活動する人も多々いるので、「どこに落ち着くか」というと売上よりも個々人の適正が大きいんじゃないかと思います。

実例としてもTYPEMOONとか竜騎士07みたいな、企業レベルの成長を遂げた同人サークルもありますし、一次創作同人から外貨獲得のチャンスが生まれることはあり得ます。

あとニトロプラスもですね。

オリジナル同人出身で外貨を稼ぐレベルの作家というと、高橋留美子・こうの史代・内藤泰弘でしょうか。

二次創作出身というと、高河ゆん・CLAMP・羽海野チカ・よしながふみなど、国内外でもファンの多い女性作家が多いですよね。

二次創作がどれだけ元気でも、オリジナル同人から作家が出てこないということはないんじゃないでしょうか。もしそれが正なら、オリジナルが元気なら二次創作からは作家が出てこないというのもまた正になってしまう。

その境界線があるんだかないんだかの最たる例がTYPE-MOONだと思っています。

ここは同人サークル時代から「二次創作? どんどんやってOK!」という姿勢を見せていましたが、当時から自分とこの二次創作コミュニティの中で上手い人がいたらピックアップしに行って、公式の仕事を与えるということをずーっとやってるわけで。

アニメ化もしたプリズマイリヤの ひろやまひろしさん、空の境界のコミカライズを担当している天空すふぃあさん、氷雨の天地の磨伸映一郎さんとか。

いまでもFGOの二次創作してた上手い絵描きをピックアップしては概念礼装やキャラクターデザインを描かせているし、そうやって参加した絵描きがFate関連の同人誌を出すことにも寛容で、公式とクリエイターの間でファンを循環させている。公式にもクリエイターにも経済が回るし、ファンも公式にかかわったクリエイターの作品が増えてうれしい。

コミケに行けば公式ブースも公式イラストレーターも他の同人サークルもいてお得です。ここまでくるとシェアワールドの様相です。

TYPE-MOONは二次創作から直接マージンこそ取っていませんが、究極のエコシステムだよな~ってつくづく思います。たぶん二次創作の間にどうにか入って経済回したーいと思ってる人たちはTYPE-MOONを生み出したいんじゃないかと思う時があります。まあ、そうそう真似できるようなもんじゃないんですが。

二次創作の好調はオリジナルの不調を呼ばないし、二次創作の不調はオリジナルの好調を呼ばない、天秤のような関係では相関はしていない。それでいて絡み合う時は複雑怪奇に影響しあう。それは「二次創作の影響がどうかはわからんけど、アマチュアのオリジナル創作はいま元気ですよ」です。

それと前記事では「現状は」という表現を徹底したと思うんですが、2030年に振り返ってみたときにどうなってるかはわかんないんです。なにか変動があっていまのオリジナル上向き情勢とは全く変わっている可能性は全然ある。あるんだけど、多分その変動は二次創作とオリジナルが天秤の形で揺らいでいる可能性は、まあまあ低いと思っています。

この点で一つ、二次創作とオリジナル同人に明確な相関関係があるとすれば(参加者の自然発生的なニーズの上下ではない)外部要因によって、二次創作が不調ならオリジナル同人も不調だし、オリジナル同人が不調なら二次創作も不調になる、は確実にあると思います。

そのひとつの実証になっているのが、2019年から2020年夏まで続くオリンピック関連の会場問題です。これまで広々とつかえていた会場が手狭になり、コミケもコミティアも他の国内大規模サークルも、関東圏で開催するイベントはほとんどすべてこの影響下で出展サークル数を減らしています。

コミケは一日当たりの一般参加者数こそ横ばいですが、参加サークルは平時の7割で、会場で流通する頒布物もそれだけ減少しているはずで……1サークルごとの頒布数は変化ないかもしれませんが、計算すれば一般参加者一人当たりが手にする頒布物は減っており、それらは主に裏方の経済面でダメージを与えていると思います。そして、二次創作もオリジナル同人も裏方のリソースは共通している……。

まあ、いまとなってはどうしようもないのですが。

ほとんど耳かきボイス作品じゃねーか!!!!!
っていう本音は置いといて、いや、置いとけないな。いくらなんでも多すぎる。
僕は作者に伝えたいテーマやメッセージ性のない作品はすべてポルノだと考えてて、耳かきボイスってただのシチュエーションポルノだと思ってます。
いや、僕も好きですし買ってるんですが。買ってるからこそ、ドラマとは全く異なるジャンルだと思ってます。

もとは「二次創作が活況であるせいで、オリジナル創作が割を食っている」というお題だったと記憶しているのですが、オリジナルの企画同士であっても「音声メディアが活況であるせいで、漫画や小説が割を食っている」という別レイヤーの話をしてませんか?

……という指摘のつもりでしたが、「ポルノが活況であるせいで、ポルノ以外が割を食っている」という話まで手広くされると、ちょっと自分では追いつけないですね。

またシナリオライターのご経験があるならば、DLsiteの年間上位のボイス作品はご存じの通り数時間ある一人芝居ものがざらで、それだけの分量の企画やライティング、絵の発注、収録やキャスティングの用意などの労力は、素人の私よりも具体的にご想像できる立場だと思っております。

二次創作の優位性を「キャラデザインや設定、世界観を考える時間や労力」のコストの低さだと指摘されていますが、オリジナル企画のボイス作品も普通にその点は労力なりコストなり、二次創作以上にはかかっているんじゃないでしょうか。

もちろん、商業流通しているドラマCDやラジオドラマよりはミニマムな企画でしょうが、だからといってそこにオリジナルに必要な創意工夫や創造性がないと語るのならば、インディーズ市場(メディアを問わない)に心無い態度をしているな、という感想です。

そういえば本当にただの偶然なんですが、きょう公開されたアメリカの電子書籍市場の記事では、なんでも、電子書籍のシェアは3割をピークに今後は下降し、代わりに本の中身を読み上げる音声メディア・オーディオブックが台頭するだろうと予測されていました。

推測ですが、電子書籍や音楽のストリーム配信が一般的となり、ネットワーク上でメディアを直接やり取りできるようになった現代では、「聴覚から取り入れるる長い情報」というこれまで割とニッチだった分野がプラットフォームとマッチし市場として広がりつつあるのでは。

流通面の変革により、流通する作品の形そのものが変わる現象を目の当たりにしているようで、なかなか感慨深くこの記事を読んでいました。

今後日本でもオーディオブックが普及の兆しがあった時に、自作の小説やエッセイをオーディオブック化するというセルフパブリッシングも普及する可能性は大いにあるし、その際にはボイス作品のノウハウは割と重要になるんじゃないか、と個人的にはちょっとわくわくしてます。

一方で、新しくこれまでにない形のプラットフォームが普及するということは、既存メディア(この場合は書籍)を必ずしも増強させるわけではなく、新規メディア(この場合は聴覚媒体)の台頭によりパイを食われる可能性もあることを受け入れ、その中で戦うということでもあるんだろうと思っています。

追記。国内ではアニメイトがライトノベルと声優さんの組み合わせで提供しているみたい。もともと女性向けだとシチュエーションCDやドラマCDは人気なので、それらの需要にとって代わる市場になるかしら。

僕の印象の中では、まだ一次も二次も本格的に電子同人に参加しているサークルの総数が思ってるより少なく、まだ有効なデータが揃いきってないと思うんですよね。

特に異論はないです。

また、二次創作禁止な電子ストアってAmazon KindleとApple iBooksのような外資系ストアが顕著で、逆に二次創作がOKなストアって日本国内展開のみの国産ストアばかりだなってのもちょっと気になりました。
要するに、国内の電子書籍ストアが海外のストアに比べて著作権的な規範がだらしなくて、二次創作が金儲けをする温床になってるんじゃないかと思いました。

目立つ国産ストア(セルパブ可)が二次創作も受け入れてるのは、私見では「古い時代のインターネットを引き継いでるから」だと思います。

こっちの記事で以前調べましたが、DLsiteや1996年、FANZA(旧DMM同人)は2000年代初頭から存在する超老舗サービスです。YAHOO!ジャパン(1996年)、米Google(1998年)、米Amazon(1994年)と同輩の、古いインターネットサービスです。YouTubeやPixivもニコニコ動画もmixiも存在しない、インターネットがアングラ世界まっさかりだったころの生き残りですね。

かつてのYouTubeやニコニコ動画が違法アップロードの温床だったころから、公式動画配信をするようになって違法作品を駆逐していったように(絶滅したとは言ってない)、これらのサービスもこれからもしかすると二次創作に対して厳しい態度を見せることはあるかもしれませんし、ないかもしれません。

2010年代にサービスインした国産ストアのBOOK☆WALKERが認可二次創作以外の二次創作を受け入れてないように、外資系が二次創作に厳しいというよりは、最近できたセルフパブリッシングサービスが権利面のリスクを避けているというところではないかとおもおいます(BOOTHの無法さは私もびっくりしました)

ちなみに、セルフパブリッシングの認可二次創作というと、米アマゾンにも同様の構想があったようです。2013年の報道ですがいまどうなってんだろう。少なくとも日本には来てないし。

さておき。

ご自身の電子書籍でDLsiteやBOOTHが弱いとのことで、さきほどの「本格的に電子同人に参加しているサークルの総数が思ってるより少な」いという指摘はおそらくここにも影響していて、歴史的経緯からエロ(オリジナルも二次創作も)が強いセルパブ電子ストアが長年国内にあったので、国内のセルパブはそれ以外の分野が弱いというのが現状だと思います。

なので、二次創作を取り扱わない&エロが強くない新しいストアでは、オリジナル&全年齢同人にとっては壁を打ち破る存在になってほしい! という気持ちは私にもあります。

一方で、二次創作とオリジナル・エロと全年齢という二軸で考えたときに、旧来的な国産ストアがオリジナル・エロに半ば特化し、市場を伸ばしているというのは「ただ放っておけば二次創作だけが儲かるのでは」という推測に対する一つの回答になっているんじゃないでしょうか。エロだから認めない世界観では無用の情報なんですが。

ただ、その仕事の中で「原作者の要求や守る必要のあるブランドイメージ、ポリティカルコレクトネスへの配慮や商業上の制約」といった様々な条件をクリアして、シナリオを構築していくのめちゃめちゃ大変でした。
そういう大変な仕事を自分が自信を持ってこなせたのも、今まで自分が一次創作として商業作家として自分の技術を鍛えてきたからだという自負があります。
「原作のイメージがどれだけ崩れても関係ない」「気分を害するやつは見なければいい」と無責任な態度で、原作の良いところだけを利用して横柄な態度を取っている彼らに、そんな技術が身についているとはとうてい自分には思えません。
一言で言うと「一緒にするな」です。

アマチュアにはない商業媒体だからこそ生じる制約や、そこで磨かれる技術についてはもっともですし、ものを作る人間として向上心や研鑽を惜しまない姿勢には敬意を抱きます。

ただ、商業にはない制約から解き放たれてある種の無責任さで表現物を作ってよいものというと、アマチュアのオリジナル同人も同じことがいえるんじゃないかとおもいますが。

アベンジャーズを例にしたのは、前記事でも引用したご自身の文章からにじみ出るこれは、商業とアマチュアを問わない、予算や公開規模などによって意味が変化しない、あらゆる市場レイヤーにある「原作をもとに発展させた作品」群を貫く非難であると認識しており、その点を前記事では指摘したまでです。

ただ、創作の技術において大切なのは「キャラクターや世界観を自分で考えて生み出すこと」だと考えていて、二次創作だけやっていても肝心の技術は育たないと思っているんですね。
https://funny-creative.hatenablog.com/entry/20200106/1578318490

様々なお話を聞いても、エロと全年齢、商業とアマチュア、オリジナルと二次創作、二次創作でも認可有りか無しか、それぞれの項目がいまいち整理がなされていないようにみえます。

例えば艦これの二次創作の電子配信を問題視されていますが、艦これは公式に二次創作活動の公認が出ているジャンルです。電子配信にも特別制限はなかったと記憶しています。権利元的にはアダルトには目をつむっていたと思いますが、例に挙げている作品は全年齢作品です。

権利者自らが他者による再解釈を認可し、実際に受け取った他者が作品を再構築した……この要素はアメコミ原作であるアベンジャーズも艦これ二次創作も同様のはずです。

この両者の主な差は、対象とする市場がアマチュアか国際規模の商業という違いで、市場の差による創造性の違いを明確に認めることはできても(これは記事内でご指摘する通りです)、「発想元からの再解釈とは創造性が生じうるものなのか、研鑽が生じるものなのか」という論点を問うなら同じグループに所属するのではないかと思います。

国内の市場や総生産、可処分所得、可処分時間はすべて有限です。何かのコンテンツが成長すれば、そのぶん所得や時間を奪われたコンテンツは衰退します。
そして山田太郎議員のように「二次創作を優遇しよう」という政策を唱える人間が現れれば、既得権益側は「一次創作を冷遇するのか」と声を上げざるを得ない状況に立たされます。
その意味で言うと、「お金儲けを目的として活動する利益を出せるレベルの一次創作サークルが増える」が理想的な話で、現状の山田太郎が提唱している政策は、それを阻害してるんじゃないかなという話でした。

どういう話題であっても、政治のレイヤーで話されることには慎重になる姿勢はよくわかります。

私個人は必ずしも山田太郎氏の支持者ではないのですが、ご存じの通り氏の政策は同人文化にもろかぶりなので常に注目はしています。

氏の二次創作については赤松健さんの思想とほぼ同じである認識です。前記事でも引用した赤松さんの言葉が、彼らの二次創作構想をよく表していると思うので、長めに引用します(2012年時点の記事です)

僕は、同人誌は、「日本に埋蔵されている資源」としては、恐らく最強最大の部類で、世界的な需要があると見込んでいます。もちろん、エロやBL(ボーイズ・ラブ)がメインなので、かなり問題のある輸出品ですが……(笑)。

(中略)

赤松 僕はこれからJコミに参加する作家さんのものについては、エロを抜いた二次創作をつくっていい、売っていい。という流れにしたい。
 そうすれば二次創作の作家にはお金だけじゃなく原著者の許諾をもらったという誇りも入ります。これっていいことじゃないですか。今の同人誌を描いている人って、常に潜在的に訴えられる可能性を持ちながら、コソコソと描く恐怖感を持たなきゃならない。そういう向きにも解決策を出していきたいんです。
 たとえば僕だったら、『ネギま!』で使っている背景の3Dモデルデータを、『ネギま!』の同人誌でも自由に使えるようにしたりとか。僕、このデータをアニメ会社にも提供していて、アニメーション版『ネギま!』に出てくる建物とか、実際にマンガで使われている本物の背景データなんですよね。
 僕の場合は、そんな本物のデータを提供して、二次創作をつくってもらっていい。もしかしたら作者より上手くておもしろいものができるかもしれない――。これが究極的な同人スタイルじゃないかと考えています。
 ただしこれは僕の考え。「自分の作品は誰にもいじられたくない!」という考え方の作家さんも大勢いますから、そういう人はちょっと同人誌を許諾するのは無理ですけどね。

また赤松氏は、2011年にJコミ(現・マンガ図書館Z)を立ち上げた際に、こういう提案をしています。

そこでまずは「同人OKのガイドライン」を作り、「同人誌OKだよ」という漫画家さんと、「古い同人誌を掲載してもOKです」という同人作家さんをマッチングしようというわけです。
もちろん、これにも広告を付けて、収益は原作の漫画家さんと同人作家さんの折半とします。*4

ようするに、この構想で見据えているのは、二次創作の合法化により埋蔵された国内のコンテンツ資産を掘り起こしてマーケット化するだけでなく、二次創作作品の原作者の利益の最大化であると理解しています。

二次創作の売り上げから権利者に還元するという構想をこのころから喧伝していました。その利益を得るのは、もちろんこの世界のどこかでオリジナル作品を公開した作家です。

逆に二次創作てどれだけ売れても、せいぜい海外割れサイトに放流されて読まれるぐらいがオチで、正規の流通ルートで国外に発信したり、外貨獲得に繋がることはないと思います。
法律や制度を変えてまで奨励する経済的メリットはゼロなんですよね。

ちなみに合法化すると、二次創作合法化で海外割れサイトに放流されたものを取り締まることができるし、正規の流通ルートで国外に発信することもできたり、外貨獲得につなぐことができる正規のコンテンツに化ける……と主張されていますね。現状の二次創作の弱点の克服ですな。

そして流通販路が広がれば、そこでまた収益が増える可能性があるし、マーケットから上がってくる版権料の総量も増えるでしょう。

繰り返しますが、私は山田議員や赤松さんの必ずしも支持者ではなく、二次創作を肯定的にみている点では同じですが、二次創作への個々の施策や方針について懐疑的なところを多々もっています。

特に、これらの二次創作構想によって本当に生じる効果を推測すると、「多くの二次創作作品を抱える原作を持つ著者が、他者が作って売ってる二次創作からマージンを得て儲かる」があり、さらに「多くの二次創作作品を抱える原作とは、おおむね人気の高い作品群である」から導かれるのは、人気作品の著者への収益の一極化ではないかと個人的には思っています。

二次創作人気とはつまりは原作人気の内側で起きるものなので、原作の大きさこそが二次創作ジャンルの大きさになります。原作からして世間で人気の高いものほど、二次創作マージンも大量になる。人気のあるものがさらに収益を得る構造です。

もちろんこの構想は、出版業界の低迷(なおこのインタビュー時よりさらに業界規模は低迷しています)と作家の利益率の低さを前提とし、そこを改善したいという意図がまずあります。Jコミ、現マンガ図書館Zはまさに「作家の新たな収益源を生みだしたい」という構想の下に打ち立てられたサービスなので。

しかしながら、この構想を進めていくと同じくらい人気のある作品でも二次創作規模に違いがでることは多々あるので、原作人気は同じでも二次創作規模の大きい人ほどより収益を得るという格差が生じる可能性はあるでしょうね。それはむしろ、二次創作文化よりもオリジナル作品文化のあり方を変えないでしょうか。

原作者への還元や合法化は一同人者としてももちろんやれるならやりたいんですが、政治のレイヤーでやるなら(あまりにもどうなるかわかんなくて無邪気に全部受け入れるにはでっかいし)それ大丈夫? という気持ちもあります。

(もちろん、そもそも二次創作をたくさんの人が作ってくれる原作を生むこととは「ではまず、大ヒット作品を屏風の中から出してください」になってしまうので、仮にこの方針が進んだところですぐさま前述のような兆候が出るかというと大いに疑問ですが)

そんな感じです。