見出し画像

Inori Minase LIVE TOUR 2023 SCRAP ART感想ー1536℃で焼き払ったイメージ、そして残った希望から構築する水瀬いのりと言う芸術について

「今までで1番等身大の水瀬いのりとしてライブをしている」と言う趣旨のMCを、昨日ステージ上の彼女は僕らに向けてくれた。僕も同じことを思った。その生き方と人間性に今後はもっと音楽が追い付き寄り添っていくのではないかと想像する。

2ヶ月間に渡って開催されたツアーの神戸、横浜初日を見てきた。

伸びやかで何者にも捉われないスタイルで楽しみながらも、時折覚悟を覗かせる彼女の姿と音楽に極上の時間が流れていた。4thアルバムglow以降に確立された歌い方や心境の変化には大きな価値があった。

これらを踏まえて再び作り出された「水瀬いのりとはこうあるべき」と言うイメージを溶かすほどの熱量がそこには存在した。

サイバーパンク的な映像と共に幕を開けたライブ、いきなり登場したのは黒いフードを被った彼女の姿であった。地割れを起こしそうな重低音と共に披露された“スクラップアート”、その表情をしっかり確認することはできない。俯きがちな姿勢の少女は一寸先でスクラップにも成り得る可能性をあの日から秘めながら会場の熱を上げていく。

やがて1536度を超えた所で何かを覆っていた鋼鉄が溶け、それでも溶けなかったモノが地面に落ちた。それらを拾い上げ何を作るのか?僕たちと共に何を作り上げるのか?

どうしてここにいるの 傷跡辿って来たんだよ
どうして泣いているの 見えすぎた声を癒したよ
どうしてそばにいるの 巻き込まれたくているんだよ
どうして手をにぎるの 汚れが混ざって光ったよ
譲れなくて 捻じ曲がって
飢えた渇きを満たすほど
生きていたい 笑っていたい
進んでいく理由がある

傷跡を辿りながら今日も彼女は覚悟と命をこの場所に刻みつける。神でも天才でもない人間=水瀬いのりの人間活動を観測する。

2曲目“identity”のイントロが鋭く胸に刺さった。ずっと聞きたかったし今の歌唱法で乗り越えることが出来れば面白い楽曲だとは思っていたが、その機会はもっと先にあると考えていた。驚きの速度で水瀬いのりさんは進化している。昨年はまだ気をつけながら歌唱法を修正していたように見えた(以前の歌い方に引っ張られないように)が、もっと自然に歌えるようになった気がした。しかも全てのフレーズを優しく声を張り上げずに歌うのではなく、喉の強弱をどこまでコントロールすれば良いかの選択も自然に聞こえた。

もはや今後披露されることはないと思い込んでいた鬼門“TRUST IN ETERNITY”(日替わり)までやり切ったライブは、彼女が真のアイデンティティを更新し信頼を勝ち取った証明と言っても過言ではない結果を残すことになった。以前のように歌の化身を背負うのではなく大空を自由に羽ばたく翼のような歌唱に惚れ込んでしまった。

3曲目、横浜初日では俺待望の“リトルシューゲイザー”が繰り出された。このイントロを5年間待っていた。ライブコンセプトとの相性もあるが、今この時に披露されたのは前述したアイデンティティと信頼の影響が大きいのではないかと思われる。特殊イントロから繋ぎながら“僕らだけの鼓動”、しばらくずっとライブでやって欲しいほどに瑞々しくて輝かしいその楽曲は今日もまた新しい彼女の産声を聞かせてくれる。“クリスタライズ”、以前よりバンドと共に作り上げていく演出が強くなったことで会場の熱量を全て集めるほど強い渦として機能していた。他楽曲でも多数見られたが、ドームクラスでMr.Childrenが見せるようなダイナミックさがここで再び戻ってきた感覚である。一方、“アイマイモコ”、“運命の赤い糸”などでは高層ビルガラスのような背景を活用して歌声や音も立体的に見せる。続く“くらりのうた”では神秘的な深海を思わせる演出にユラユラと横ノリのリズムを合わせていく。レア曲“あの日の空へ”が披露されていたり、ファン泣かせのセトリが続く前半で既に大満足の内容である。

(幕間映像は今回唯一見過ごせない場面。キングレコードの悪い所が出てしまったと思う。)

後半。紫のタイトスカート衣装を着た彼女がぼんやり確認できる紗幕に“アイオライト”のイメージが投影されていく。バンドサウンドによってゴシックロックの様相を手に入れたその楽曲は1番化けたと言っても過言ではない盛り上がりを見せてくれた。デビュー当時からバンドサウンドでしっかりやることを前提にした楽曲が並んでいた為、肉体的なライブを披露してきた印象が強い。近年はその筋トレ的な成果を、より幅広い音楽性に反映させていくシーンが多くて面白い。

世界観を崩さずにテクニカルなプレイ(大体RADWIMPS)でロック野郎を踊らせてくれた“クータスタ”も純粋に格好良かった。

わたしがわたしだと歌を歌うのは
きっとあなたに聞いてほしいから
この感情も この痛みさえも
全部 全部 わたしのものだから
何も変わらない 何者でもない
それで良いんだと思えるようになったのは
あなたがきっとわたしに教えてくれたんだ

聞こえる。彼女の包み隠さない全てが聞こえる。もっと理解したい。そしてきっと何者でもない自分も肯定してあげたい。だからこの場所に居る。

前述の“TRUST OF ETERNITY”も素晴らしかったが、日替わりで披露されている“HELLO HORIZON”を横浜初日で聴くことが出来たのはとても運が良かった。正直今僕の中で1番盛り上がるキラーチューンである。展開が複雑が故に1曲の中で色んなノリ方ができるし、今この時に革命を起こしていく意思が会場の中でひとつに集約されていく様に圧倒される。拳を突き上げることで時代を作っていく。あとイントロとアウトロで頭グルグル回すとめちゃくちゃ楽しいけど多分迷惑だから今後は気をつけたいごめんね。

MCでは衣装替え時の「回って〜」アピールの動きが業界的は「尺巻いてくれ」と言う解釈に見えて嫌だから変えたい…と素直に口にしてくれた。おもしろおかしく会場と対話しながら決めてくれたのも良かった。
どんなに治安を保ったとしてもそこからハミ出そうするお客さんは数人いるだろうと思う(starry wish家虎時代を思えばかわいいレベル)。ただそう言ったアクションに対して、嫌なことは「嫌だ」と言ってくれる環境が今後も成立するのであれば問題が起きることなく改善されていくだろう。推しの嫌がってることをわざわざ行うファンは普通いない。

横浜初日の一幕、ここはよかったですね。オタクの声は割と拾ってくれて楽しい。

声出し解禁時代のメリットを最大限に引き出した“約束のアステリズム”も圧巻の一言であった。煌びやかなシンセと力強いバンドサウンドの融合は相変わらず美しい。元ネタも好き。

連続で投下された“Million Futures”には文字通り幾千通りの未来が描かれていてあの日とは違う響きが巻き起こった。サビ前の掛け声を久々にできた時は本当に嬉しかった。

ライブはクライマックスへ。WWW.3部作が披露されていく。正方形の檻に囚われた彼女の歌唱、美しいストリングスが加速度を高めていくリズムが時計の針を狂わせる“Well Wishing Word”、再び周り巡る運命と大宇宙の中の僕らを描いたミディアムバラード“While We Walk”、雪景色と共に夢の中で君と再会するポップス“Winter Wonder Wander”…どれも素晴らしく綺麗に物語を紡いでくれた。本当にもう良すぎて何も覚えてないし3部作の解釈は最近の若いファンのがすげえなと思うので調べます。※あくまで水瀬いのりさん本人も「決まった曲順などはないから自由に聴いて欲しい」と話していた

ラストはスタンドマイクを持ち出しながら“僕らは今”を披露。横浜初日ではマイクの位置が定まらずに「まあいいか笑」と言うノリで始まったのも実に彼女らしい。会場全体の熱気がどんどんボルテージを上げながら、やっとの思いで皆で叫べる曲に進化した歓びを共有できたと思う。人の声ってマジですごい。英文のコールはしっかり画面に歌詞が出ていたり、言われずとも歴戦を乗り越えてきた町民たちがリードしていくので問題ない。完全燃焼した体が最高の歓びに包まれていた。水瀬いのりさんを好きで良かった。

アンコール、彼女の名前を叫べるのも久々の体験である。特注くらりトロッコが持ち出され通路を横断して行った。神戸では前方の席を引き当てたこともあって必死のアピールから指サインを返して頂けた😭1曲目は念願の“Shoo-Bee-Doo-Wap-Wap!”

ついに聞けた一二を争うくらい好きな曲に体が止まらず、燃焼した何かが再び燃え上がる。ポジティブなメッセージが光る“Future Seeker”が会場全体に笑顔の花を咲き誇らせていく。目の前に好きな人がいるってやっぱり最高だ。ジャンボうちわなどを自作してアピールするファンも多い。それぞれがそれぞれの想いで今日この場に足を運んでるんだなって、自分もその1人ながら嬉しくなる。

「いよいよやるぞ」と言う長い期待、導火線に灯した炎が火花を散らしながら限界の先へ向かう。1537℃の世界で最終曲“Ready Steady Go!”が燃え上がる。神戸ではトロッコ用に設けられていた柵が取り払われて自由なフィールドが生まれた。ずっと叫べなかったコールを思う存分やり切っていると後ろのファンと目が合う。

簡単な言葉で書くのは良いのか悪いのか、本当にこの日は楽しかった。楽しくて楽しくてどうしようかなって頭を抱えるくらいには。昨日も楽しかった。3階から全体を眺める風景も悪くない。毎日こんな日が続いて欲しいな本当に。

僕はどんなライブに行っても「これからも応援してねー」みたいな事を言われると返答に困る。明日なんかわからないし、人の好みは残念ながら変わる。アーティストも変わる。いきなり終わった声優アーティストもいた。先のことなんていつも何の保証もないのである。

だからこそ「生涯ずっと一緒に…なんて誓えません」と歌ってくれた水瀬いのりさんのことは少しだけ特別かもしれない。逆にそれくらいでいいんだなと思えた。

そして今彼女の人間性と選び取った未来、数多の音楽が繋がりつつある。glowによる変化が本当に大きかった。特にファン層も新しいアニメヒットが若年層を呼び込み、従来の水瀬いのりを追い求める層が離脱したことによって一変している。様々な角度から本気で時間をかけて水瀬いのりさんと言う人間、その文脈を読み取ろうとしてくれる方々が増えたのは本当に嬉しい。

更新され続けていく人間としての水瀬いのりさん、音楽としての水瀬いのりさんの芸術を今後も理解していく姿勢を続けていきたい。そう思わせてくれるだけの活動を続けているし、彼女が紡いでくれる言葉が好きだから。

今回のツアーではglowのその先の景色を見ることが出来た。次はどんな景色に出会えるだろうか?その時に真っ直ぐ見つめながら「綺麗だな」と言える自分を保ちたいと思う今日この頃である。

ひとまず、来年はアコースティックツアーもありますね。カバーコーナーとかあればセカオワやaikoさんの曲も聴けるかもしれないなとニヤニヤしながら締めておきます。

最後になりますがツアー中にエンカしてくれた方々ありがとうございました。一人一人みんな違って、熱と優しさを持っていて面と向かって言葉を交わすのが楽しかったです。

ではまた👋👋


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?