透明性の高いデザインとは、一言で言えば、ユーザーに対して率直で正直であることを意味します。例えば企業にとって不利な事実をあえて隠さずに、素直に顧客と対話する姿勢のあるデザインです。

例えば最近では、企業のビジョンやバリュー・プロポジションを明確に伝えることで顧客の信頼性を求める企業も多くなってきました。この姿勢はあらゆる箇所で求められるようになってきています。

ブランドの透明性は、企業が消費者に提供できる競争力のある交渉チップになりつつあります。 Label Insightが2016年に行った調査によると、消費者の94％は、完全な透明性を約束するブランドに忠実である可能性が高いことがわかりました。ほぼ40％が、透明性を高めるために新しいブランドを追求すると述べています。

サイトやプラットフォームの使用に対しての透明性また信頼性とは？

あなたは新しいサイトやプラットフォームにサインアップする際、個人情報の提供を求められ、ふと不安に感じた経験はありませんか？

携帯電話や住所を入力し、それらの情報は本当に必要なのか？またそれらがどのように使用されるのかか疑問に思ったことはありませんか？そのプラットフォームに保存されている情報はどうなるのでしょうか？これらすべてのサイトやプラットフォームは安全なぜなのでしょうか？これらの情報に許可なくアクセスして使用されてしまう可能性はあるのでしょうか？

「無料」プラットフォームの隠れたコストとは？

1830年代、タブロイド紙の出版事業者であるベンジャミン・デイは、彼の新聞、ニューヨーク・サンの価格を1ペニーに引き下げました。これは顧客にとって劇的な5セントの低下でした。ベンジミンはこれまでになかった新しいモデル、新聞に広告を表示することによって、新聞が購読料収入に依存せずとも広告収入によって成立し得ること、また、定期購読者への配達を行なわなくても、街頭で販売し得ることを実証しました。

これは読者がもはや顧客ではなく、実際には製品そのものであることを意味しています。

現在、私たちはソーシャルメディア内で毎日このトレードオフをしているので、このモデルはおなじみに聞こえるかもしれません。しかしどのくらいの方がこれらのプラットフォームでシェアしているデータとWebプレゼンスがどのように使用されているかを本当に理解しているのでしょうか？

デジタル・テクノロジーの爆発的な普及に伴い、企業はオンラインとオフラインの両方で、消費者の活動に関する膨大な量のデータを収集しています。 新しく、スマートに接続された製品、例えばフィットネス・トラッカーからホームシステムまで詳細な情報を収集して送信しています。

一部の企業はデータ収集を行うことについてオープンですが、ほとんどの企業は、それを暗闇に保っています。顧客データを自由に使用できることで、短期的なメリットが得られる可能性があります。また、企業が今すぐに使用できない個人データを静かに収集することも珍しくありません。これはいつか価値があるかもしれないと考えているからです。

個人データの漏えい事例

→ Facebook
2018年、データ・マイニングとデータ分析を手法とするコンサルティング会社、ケンブリッジ・アナリティカが5000万人のFacebookユーザーの情報を悪用したというニュースは、データの最新かつ最も衝撃的な例です。ケンブリッジ・アナリティカはデータを使って選挙時の有権者行動に影響を与える業務に従事しており、創設にはトランプ氏の側近だったスティーブ・バノン氏が関わっていたとされています。16年の大統領選でトランプ氏が有利になるようユーザー情報が使われた可能性が指摘されています。Facebookは報道が出る直前にケンブリッジ・アナリティカを同社のサービスから締め出すと発表しました。さらに情報も盗み取られたわけではなく、所管外の組織による不正だとして自らの正当性を強調しました。

→ Uber
2017年、ライドシェアを提供するUberは、5,700万人分の個人情報を流出させただけでなく、それを1年以上も隠蔽していたということが明らかになりました。Uberは、別のプライバシー侵害案件を調査していた連邦取引委員会（FTC）の職員を意図的に欺いた可能性がありました。2016年10月にハッカーが大量の個人情報をUberのネットワークから盗み出していたことが明らかとなえい、そのなかには、60万人のドライバーの氏名や免許証の情報、さらには5,700万人もの利用者の氏名とメールアドレス、電話番号まで含まれていました。

→ Strava
2018年、GPS情報を使ってジョギングやサイクリングなどのアクティビティを記録・分析できるサービス「Strava」に登場した新機能「Heatmap」が、普通だと絶対に明かされることがないアメリカ軍の秘密基地の存在を浮き彫りにする事態が起こりました。Stravaに登場した「Heatmap」は、アプリを使っている人のアクティビティデータを取りまとめることで、地球上のどの場所で多くアクティビティが行われているのかを色で示すことができる機能です。Heatmapのページを開くと、サンフランシスコ周辺の地形図の上に無数のラインが表示され、多くアクティビティが行われている場所ほど明るい色で表示されていることがわかります。

→ MyFitnessPal
2018年、米スポーツブランドのUnder Armourは、「権限を持たない集団」が、同社が提供するカロリー管理アプリ「MyFitnessPal」の約1億5000万件のアカウントからユーザー名やメールアドレス、ハッシュ化されたパスワードなどの情報を窃取したことを明かにしました。ハッシュ化されたパスワードは、元に戻すことのできない文字列に変換されていました。

透明性を保つことの大切さ

これらをまとめると、
1）これらの組織、企業がユーザーの一人一人について知っていて
2）これらの組織、企業はユーザーと共有しているこれら知識の量について、すべてに共通の透明性の欠如があるということが明らかになります。

この不透明で秘密主義のシステムでは、ユーザーは脆弱なままであり、自分のデータを保護する権限がありません。ソーシャルメディア・プラットフォームに反対しているわけではありません。1830年代からこのモデルは存在していました。

しかし、これからの時代プロダクトデザイナーたちは透明性をデザインを始めなければいけません。優れたデザイナーは、サイトやアプリのデザインと機能が、信頼感と透明性をどのように生み出すかを慎重に検討します。

多くのデザイナーはユーザー経験を魅力的で楽しいものにすることに焦点を当ててきたと言われています。しかしどの組織にとって一番大切なことは信頼を得るということです。その信頼を得る最良の方法は、透明性を保つことです。

デザイナーはユーザー・アドボケイトとしての私たちの役割を利用して、データが誰、何、どこ、どのように使用されているかを伝える方法を再考することで、組織が責任を負うのを支援する必要があります。

💡ユーザーアドボケイト、ユーザーアドボカシーとは
ユーザーアドボカシーは、プロダクト・デザインでユーザーの視点を表現することに関係するユーザー・エクスペリエンス・デザインの原則です。ユーザーアドボケイトは通常、個人的または機能的な観点を停止させ、そのプロダクトや、サービスのユーザーの目線と経験を通してそれらを個人的な判断や偏見なしにユーザーの視点をとることを意味し、デザイナーはユーザーが経験しているように物事を見ることができ、最終的にはユーザーエクスペリエンスを向上させるための観察や推奨を行うことができます。

1. 知る権利とデータの透明性

ユーザーは、プロダクトやサービスの使用を決定するときに、自分が何にサインアップしているかを正確に知る権利があります。明確かつ具体的にしましょう。またどのデータが収集されているのか、なぜ収集されているのかを正確に伝えましょう。

オンライン衣料品小売業者のEverlaneは、透明性のある価格設定構造を通じて製品から収益を上げる方法を顧客に簡単な方法で表現することに成功した企業です。これからインスピレーションを得て、「あなたのデータは宣伝に使用される」という単純な理解を超えて推進することができます。

テクノロジー企業は、場所、検索結果、購入履歴、さらにはテキストやSMSなど、膨大な量のデータを収集してスクレイピングします。たとえば、ライド・シェアリング・サービスは、位置データがなくても問題なく機能すると言われていますが、アプリが機能するためには位置情報サービスが要件であるように見せるために顧客に言語を提示しているのです。

データの開示はデータ自体と同じくらい詳細である必要があり、不透明な慣行や省略によってこの情報を隠すのをやめる必要があります。特定の用語でユーザーに明確にします。説明できない、または説明したくない場合は、おそらくそれを行うべきではありません。

2.デザインでアルゴリズムを説明しよう

💡「アルゴリズム」というのは、コンピューターで計算を行うときの「計算方法」のことなんですが、広く考えれば、何か物事を行うときの「やり方」のことだと言っていいでしょう。その「やり方」を工夫して、より良いやり方を見つけよう、というのが、アルゴリズムの研究です。同じ計算を行うんだったら、いい方法でやればより速く計算できますね、ということです。

ポッドキャスト「ReplyAll」は「Is Facebook Spying On You？」のエピソードで、ホストがランダムなプロダクトやサービスについて話し、すぐにそれをFacebookのフィードで広告として見たという事例証拠を提示し、ニュースフィード広告の一致は、FacebookがFacebookPixelと呼ばれる分析ツールを介してWeb全体の動きを追跡する方法に関係していると結論付けました。

しかし、フィードに何が表示されているのか、そしてその理由が理解されていないため、疑惑は残ります。これに対処し、信頼を築くには、「なぜこの広告が表示されるのか」を人々が理解できるスペースをデザインする必要があります。あらゆる種類のフィードについて、人々は、アルゴリズムが彼らが見ているものを表面化する理由について透明性を持っている必要があります。

これらの人口統計をエンドユーザーに明らかにするオプションを提供し、エンドユーザーがそれらを検討し、アルゴリズムが提供するものについてオプションを設定できるようにします。一部の企業は、顧客のアルゴリズムのフラストレーションに対応し始めています。 例えばPinterestは多くのユーザーがリコメンド機能にフラストレーションを溜めていることを察して、Pinterestは、リコメンド表示をオフにできる機能をリリースしました。これにより、ユーザーはフォローしている人からの投稿のみを表示できるようになりました。

💡リコメンドとは、顧客の好みを分析して、顧客ごとに適すると思われる情報を提供するサービスのことです。

3. オプトアウトではなくオプトイン

「オプトアウト」と「オプトイン」の“opt”とは（自）動詞で、“選ぶ”とか“決める”という意味があります。そして、“in”と“out”は、その名の通り“出る”、“入る”という意味があります。つまり、「オプトアウト」は、“不参加”とか“脱退する”という意味合いになります。それに対して「オプトイン」とは、活動や団体に対して“参加する”とか“加入する”という意味合いを持つ言葉です。

デザイナーは、ユーザーのプライバシー設定に関する透明性を明らかにする必要があります。ユーザーがデータ収集をオプトアウトするのではなく、オプトインできるようにするソリューションを主張する必要があります。これにより、組織はデータを収集できるという理由だけでなく、データの必要性を正当化する必要があります。

4. データに簡単にアクセスできる

収集されているデータへのアクセスをユーザーに提供し、ユーザーが簡単に見つけられるようにします。

→ データを完全に削除する機能をつける
データを完全に削除する機能をユーザーに提供し、それを簡単に見つけられるようにします。

→ 誤った方向を避ける
ユーザビリティのベストプラクティスに従い、一貫性のあるUIを維持し、リンクとボタンが明確で認識可能であることを確認し、広告をコンテンツに偽装しないことで、ユーザーの誤解を避けましょう。

→ 簡単に削除できる
ユーザーが自分のアカウントを登録解除または削除するオプションを簡単に見つけられるようにします。

5. メディアリテラシーが重要

メディア・リテラシーは、人々が信頼できる情報を識別し、情報源を探し、消費するコンテンツについて賢明な決定を下すことができるため重要な要素です。

同じ論理を適用し、データリテラシーを提唱する必要があります。データリテラシーは、収集されたデータ情報について積極的な意思決定を行えるようにするアクティブな形式の透明性です。これらの真実についてユーザーに伝え、教育し、共有しましょう。

上記の原則を実装すると、収集されるデータとその理由の伝達が大幅に向上し、ユーザーがオプトインできるものと、エクスペリエンスを形成するアルゴリズムを管理する方法の制御が向上します。

データリテラシーを考慮してデザインすることは、今日のデータ伝達方法に大きな変化をもたらし、最も基本的な「データと引き換えに無料のプラットフォーム」トランザクションの不透明、不信感、混乱、驚きを軽減させます。

次のステップ

ブランドの透明性を通じてユーザーエクスペリエンスを向上させる方法

1.価格の詳細
ユーザーにお金を節約する方法や、商品の価格が品質によって正当化される理由についての情報を追加しましょう。

2.カスタマーレビューと評価
優れたUXは優れたビジネスを意味します。テクノロジーが急速に進歩し、ユーザーの期待が高まっている世界では、平均的なユーザーエクスペリエンスを得るにはもはや十分ではありません。商品に評価を付けて、消費者が偏見のない意見を聞き、あなたの言葉を信じるだけでだまされていないことを感じられるようにしましょう。

3.連絡先情報とサポート
プロダクトやサービスについて質問がある場合は、消費者に明確な連絡方法を提供しましょう。そして丁寧でタイムリーな返信を提供します。いくつかの一般的な質問に答えることができる自動チャットボットをしようしている企業も多くあります。

4.トラスト・シールとプライバシー・ステートメント
なぜユーザーの個人情報を必要とするのか、そしてそれが何のために使われるのかについてユーザーに明確にしするためにトラストシールを使用して、サイトが安全であることをユーザーに示すことができます。

例えばクロストラストでは、SSLサーバ証明書に対して公的な書類の確認、もしくは、公的な書類に充当する第三者情報機関の利用により審査を行い認証しています。セキュリティ対応済みサイトの証明として、トラストシールを発行しています。トラストシールは正式に認証された企業であることを認識するためのものです。

5.プロダクト・スペシフィケーション
プロダクトの性質を記したものをスペシフィケーションと言います。ユーザーがプロダクトやサービスにコミットする前にそれらについてよく学ぶことができるように、詳細なスペシフィケーションを提供します。

これが隠されている場合、ユーザーはリスクを冒して最善を期待するよう求められるので、不安感を覚えます。これらのデータポイントを事前に提供している場合は、少し高価であっても、ユーザーが必要とする追加の快適さを提供しているのでユーザーはそちらを選ぶ可能性が高くなります。

これらの小さな変更は、信頼を構築し、ユーザーエクスペリエンスを向上させ、コンバージョンを増やすのに役立ちます。

まとめ

今までにも多くのサービスが収益と引き換えに膨大な量の個人情報を悪用し続けてきました。データ収集、アルゴリズムの決定、広告モデルの伝達​​方法に変更がない限り、信頼は失われ続けると思います。

デザイナーたちはスキルを使用して、人々のデータを収集および使用する方法に責任を持ち、信頼を回復するのに役立てることができます。

あなたがもし今までに情報の流出について不安を覚えたことがあるのならば、その気持ちに反応するべきです。エンドユーザーの喜びやエンゲージメントのためにデザインするのと同じように、透明性とデータリテラシーのためにデザインすることもとても大切です。

今まさにテクノロジーの優れたデザイナーであるための鍵であるユーザー・アドボケイトとしての立場を再確認しましょう。

［参考資料］

CUSTOMER DATA: DESIGNING FOR TRANSPARENCY AND TRUST
顧客データ：透明性と信頼のためのデザイン（PDFダウンロード）

私も、色々勉強中なので、皆さまの、ご意見・ご感想をお聞かせください。お読み頂きまして、ありがとうございました。

メルボルンを拠点にプロダクトデザイナーとして働いています。 主にデジタル・プロダクトの制作に携わっています。