酩酊

金曜日の夜中。時刻は午前3時を回っている。
日付などとうに越えていた。
1週間のうちで最も時間の流れが遅いこの時間。
酔いしれる人と街を眺めながら、僕は手にしていたビールの空き缶を強く握った。

友人が死んだ。
親友と呼べる間柄だったかもしれない。
どうやら自殺したらしい。
そこに自責の念のようなものなど無いが、強いて言うのならもう少し話を聞いてやるべきだったのかもしれない。
彼はまだ19だった。誕生日を迎えることなく旅立った。
今振り返れば彼との日々は僕達なりの青春だったのだろう。
大人になって、そんな青春の日々を笑いながら語ることが出来たらどれだけ幸せだろうと思っていた。
それがもう叶わなくなった。
青春だってまだ出来たはずだ。
それももう叶わぬ夢だと思い知らされた。
彼が遺していったのは喫茶店を開くという夢とまだ未完成で歪な青春だった。

彼の最期の顔を見に行った時、思わず、
「バカじゃねぇの」
と、口からこぼれた。
最後の最後までワガママで自分勝手な奴だと心底呆れた。
ただ、心のどこかで羨ましいとも思った。
先の見えない不安の中生きている自分よりも、自分の手で、小説の中の主人公のように死んでいった彼の方がよっぽど幸せだったんじゃないかと。
彼は江ノ島の海になるらしい。
遺書にそう遺してあった。
泣かないでくれ笑っていてくれ。なんて、鬼のような言葉も。
本当にどうしようもなくワガママな奴だ。
彼が紡いだストーリーは大衆が聞けばBADENDなのだろう。
でも、きっとこれが彼なりのHAPPYENDだったんじゃなかろうか。
それならば、僕はその上で誰が聞いてもHAPPYENDになるような物語を紡いで行こうと思うよ。
いつかヤシの木の下にいる彼に、ドヤ顔で俺の人生を語れるように。
でも、まずは1発ぶん殴ってやろうと思ってるけどね。
当分はそこで待っていて欲しい。
たまにはhi-liteぐらい供えてやるからさ。

時刻は午前4時を回っただろうか。
街も人も眠りについていく。
僕は潰れた空き缶をゴミ箱に捨てた。
怒りややるせなさを捨てた。
僕の時間はまだ進むには早いかもしれない。
でもゆっくりゆっくりでいい、いつかヤシの木の下にたどり着くその時まで。

おやすみ僕の友人。

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